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2章
⑥外食(2)
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さっそくウォーターベットに飛び乗り、ご丁寧に置いてあった説明書を見る。よく家電などを説明書も見ずに感覚で操作する人がいるが私には信じられない。説明書の操作手順をマスターしてから、最近のこまごまとした便利機能を使いこなすのが楽しいのだ。
「えーと『本製品には常時「ウォーター」及び「ウィンド」の魔法がかかっています。操作は杖を振っていただくことで行います。右に杖を払うと右へ、左に杖を払うと左へ曲がります。前へ振るとゴー、もう一度前に振るとストップです。』なるほど単純やな。」
「でもさっきサキ先生、行先を登録してるみたいなこと言ってたけど」
「ちょっと待ってね。『ナビシステム。登録された場所へは杖を前に一振りするだけで自動的に目的地に到着します。非常時の場合は手動に切り替えることもできます。』すごい。自動運転システムや。マユリも乗っておいで」
「これ乗りにくくない?タカ君は背が高いからいいけど私そこまで足上がらないよ」
「ほら、手を貸して」
「え!?うん、はい。どうぞ」
「そしてウォーター!」
マユリの体が浮いた。しかも残念なことにスカートまで浮いた。一気にマユリの体を引き寄せて、ウォーターベットに載せた。
「よし、出発だ」
「・・・・・・思いきりスカートをめくっておいてノーコメントなのはちょっとどうかと思うよ。タカ君!」
「ごめん、足だけに魔法を当てたのに、当てどころが悪かった。それにマユリ、いつまでも引っ付いているとちょっと操作しづらい」
「話をすり替えない!スカート捲りのほうが重罪だよ」
痴漢など許せない、頭のおかしい連中がやるものだと思っていた私がうっかりとはいえスカート捲りの嫌疑をかけられるとは思ってもみなかった。いつもならどんな満員電車でも万歳の姿勢でいるくらい気を付けているこの私が。そもそも妹の下着も小さいころからずっと洗濯してきて、今更下着ごときで何も思わない。のだがそんなこと相手にはわかってもらえないだろう。
「本当に申し訳ない。不可抗力やから。今度から安易に魔法は使わないから」
「納得しきれないけど、まあ他の人には見られてないし、許してあげる」
ふう、寿命が縮んだよ。今度から気を付けよう。
「でも!」
また寿命が縮んだ。
「これから毎日私と一緒にご飯ね!私、友達いなくなっちゃったし、一人で食べるのも寂しいから」
「・・・・・・ん?そんなことでいいの?てっきり賠償金でも取るのかと思った」
「タカ君は考えが寂しいよ。私にとっては“そんなこと”なんかじゃないんだから。さて気を取りなおりして、さあレッツゴー」
解せぬ。私にはマユリが何を言っているのかさっぱりわからない。
こういう時は、ハイエナのごとく絞り上げるものなのだがな。
マユリは変わってる。
ウォーターベットは二人を乗せてふわっと浮いて、静かに空を飛んだ。軽く杖を振ると思うように進む。空を自由に飛びたい。誰もが一度は望む夢、私いや僕がずっと昔から渇望していた夢がかなったように感じた。しばらくしてオートモードに切り替わりサキ先生の登録した目的地に向かって進みだした。
静かで、快適で、ゆったりと空を飛ぶ。星が、月が、いつも以上に美しく見える。一切のよどみもない大自然の中を漂っている感じだ。このひとときは自由を思う存分に感じた。いつもなら気持ちよくて眠ってしまいそうだがこのときは夢がかなった興奮で、心が高鳴っていた。こんなのは久しぶりだ。何でもできるような高揚感、将来の不安など一切忘れていた。今、この瞬間が永遠に続けばいいのだがなぁ、と心からそう思った。
「ねぇタカ君、なんだかあの有名な映画「アラビアンナイト」のワンシーンを思い出すね」
「唐突にどうしたんや?」
「なんかふとそう思ったの」
「もし映画の通りなら、マユリはお姫様やな」
「珍しくタカ君がズバッときざなセリフを言ってきたね。えへへ。なんか照れるな。ん?それだとタカ君は王子様になるね!」
「おいおい、自分はそんな立派なもんやない。ただ一人であがいているだけの無力でひねくれていて頑固な平民や。いや虚弱で孤高の野獣のほうがお似合いかな?」
「自分を悪く言いすぎだよ~。まあタカ君が野獣というなら私は美女で、いつかタカ君は野獣から王子様になるんだよね!私のおかげで!」
「いくつか突っ込みたいところあるけど、今日はもうそんな気力ないわ」
「ふふ、素直なのが一番」
「じゃあまずは最初の素直な気持ち」
「え!?」
「ちょっと空の散歩と称して寄り道していかない?もうわくわくして気持ちが抑えられない!」
「あっ、えっと、うん。タカ君がそんなに興奮して目をキラキラさせてるのは初めて見たよ。うん、私は大丈夫だよ。タカ君の好きなところへ私を連れてって」
「了解!それじゃオートモード解除、スピード上げるよ!」
「了解!」
だんだん地上が小さくなっていく。風を切り、雲を突き抜け、高く高く飛んだ。永遠に続く白い大地、瞬く天井、まるで新しい世界を発見したかのような気分だ。だの夜空とコロンブスのアメリカ大陸の発見、マゼランの世界一周、それと並べるのはおこがましいだろうか。しかし今この瞬間は今までとはまったく違う世界を見た気がした。
星が、そして月が最高にきれいだった。
そして何かに見られていることも気づかずに。
「えーと『本製品には常時「ウォーター」及び「ウィンド」の魔法がかかっています。操作は杖を振っていただくことで行います。右に杖を払うと右へ、左に杖を払うと左へ曲がります。前へ振るとゴー、もう一度前に振るとストップです。』なるほど単純やな。」
「でもさっきサキ先生、行先を登録してるみたいなこと言ってたけど」
「ちょっと待ってね。『ナビシステム。登録された場所へは杖を前に一振りするだけで自動的に目的地に到着します。非常時の場合は手動に切り替えることもできます。』すごい。自動運転システムや。マユリも乗っておいで」
「これ乗りにくくない?タカ君は背が高いからいいけど私そこまで足上がらないよ」
「ほら、手を貸して」
「え!?うん、はい。どうぞ」
「そしてウォーター!」
マユリの体が浮いた。しかも残念なことにスカートまで浮いた。一気にマユリの体を引き寄せて、ウォーターベットに載せた。
「よし、出発だ」
「・・・・・・思いきりスカートをめくっておいてノーコメントなのはちょっとどうかと思うよ。タカ君!」
「ごめん、足だけに魔法を当てたのに、当てどころが悪かった。それにマユリ、いつまでも引っ付いているとちょっと操作しづらい」
「話をすり替えない!スカート捲りのほうが重罪だよ」
痴漢など許せない、頭のおかしい連中がやるものだと思っていた私がうっかりとはいえスカート捲りの嫌疑をかけられるとは思ってもみなかった。いつもならどんな満員電車でも万歳の姿勢でいるくらい気を付けているこの私が。そもそも妹の下着も小さいころからずっと洗濯してきて、今更下着ごときで何も思わない。のだがそんなこと相手にはわかってもらえないだろう。
「本当に申し訳ない。不可抗力やから。今度から安易に魔法は使わないから」
「納得しきれないけど、まあ他の人には見られてないし、許してあげる」
ふう、寿命が縮んだよ。今度から気を付けよう。
「でも!」
また寿命が縮んだ。
「これから毎日私と一緒にご飯ね!私、友達いなくなっちゃったし、一人で食べるのも寂しいから」
「・・・・・・ん?そんなことでいいの?てっきり賠償金でも取るのかと思った」
「タカ君は考えが寂しいよ。私にとっては“そんなこと”なんかじゃないんだから。さて気を取りなおりして、さあレッツゴー」
解せぬ。私にはマユリが何を言っているのかさっぱりわからない。
こういう時は、ハイエナのごとく絞り上げるものなのだがな。
マユリは変わってる。
ウォーターベットは二人を乗せてふわっと浮いて、静かに空を飛んだ。軽く杖を振ると思うように進む。空を自由に飛びたい。誰もが一度は望む夢、私いや僕がずっと昔から渇望していた夢がかなったように感じた。しばらくしてオートモードに切り替わりサキ先生の登録した目的地に向かって進みだした。
静かで、快適で、ゆったりと空を飛ぶ。星が、月が、いつも以上に美しく見える。一切のよどみもない大自然の中を漂っている感じだ。このひとときは自由を思う存分に感じた。いつもなら気持ちよくて眠ってしまいそうだがこのときは夢がかなった興奮で、心が高鳴っていた。こんなのは久しぶりだ。何でもできるような高揚感、将来の不安など一切忘れていた。今、この瞬間が永遠に続けばいいのだがなぁ、と心からそう思った。
「ねぇタカ君、なんだかあの有名な映画「アラビアンナイト」のワンシーンを思い出すね」
「唐突にどうしたんや?」
「なんかふとそう思ったの」
「もし映画の通りなら、マユリはお姫様やな」
「珍しくタカ君がズバッときざなセリフを言ってきたね。えへへ。なんか照れるな。ん?それだとタカ君は王子様になるね!」
「おいおい、自分はそんな立派なもんやない。ただ一人であがいているだけの無力でひねくれていて頑固な平民や。いや虚弱で孤高の野獣のほうがお似合いかな?」
「自分を悪く言いすぎだよ~。まあタカ君が野獣というなら私は美女で、いつかタカ君は野獣から王子様になるんだよね!私のおかげで!」
「いくつか突っ込みたいところあるけど、今日はもうそんな気力ないわ」
「ふふ、素直なのが一番」
「じゃあまずは最初の素直な気持ち」
「え!?」
「ちょっと空の散歩と称して寄り道していかない?もうわくわくして気持ちが抑えられない!」
「あっ、えっと、うん。タカ君がそんなに興奮して目をキラキラさせてるのは初めて見たよ。うん、私は大丈夫だよ。タカ君の好きなところへ私を連れてって」
「了解!それじゃオートモード解除、スピード上げるよ!」
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だんだん地上が小さくなっていく。風を切り、雲を突き抜け、高く高く飛んだ。永遠に続く白い大地、瞬く天井、まるで新しい世界を発見したかのような気分だ。だの夜空とコロンブスのアメリカ大陸の発見、マゼランの世界一周、それと並べるのはおこがましいだろうか。しかし今この瞬間は今までとはまったく違う世界を見た気がした。
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