war of the ボッチ~ボッチでもラブコメできますか?~

前田 隆裕

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2章

⑤鬼ごっこ(5)

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「タカ君、もしかして外に食べに行くの嫌だった?」
 サキ先生が去った後、不意にマユリが私の顔を覗き込んで尋ねてくる。

「いや、そんなことはないです。ただ自分には似合わないなと思いまして」

「似合う似合わないじゃないよ。楽しいかどうかだよ」

「そうですか。じゃあ楽しくないのかな」

「えっ!?ちょっとショックなんだけど」

「いやいや自分というよりかはマユリさんとサキ先生が」
「そんなことない!!」

 即答で返ってきた。びっくりした。いつも朗らか、明るいイメージがあったマユリさんがいきなり大きな声を出した。誰もいない研修棟の中でその余韻が響いている。

「サキ先生はあんな感じだから一緒に行きたくて仕方なさそうだし」
「あんな感じね。確かにそうですけど。先生にとったら仕事の一環でしょう」

「たとえ先生がそうであったとしても私は純粋に・・・・・・」
「純粋に?」

「・・・・・・一緒にいるだけで楽しいし」
 消え入りそうな声だった。

「なんかよくわかりませんが、とりあえず今回は参加させてもらいます。ご迷惑かもしれませんが、よろしくお願いします」

 マユリさんの顔がぱっと明るくなった。ほんとに表情豊かな子だ。

「本当!?全然迷惑なんかじゃないから!それに絶対楽しいパーティーするよ。先に行くからまたあとでね!」
「りょーかーい・・・・・・」

 弾むような勢いでマユリさんは自分の部屋へかけていった。と思ったらまだ戻ってきた。

「そうそう、さっきから丁寧語だけど、私との会話ではそれ禁止ね。距離感感じるから」
「適度な距離感も大事ですけど」
「私には遠く感じるよ」
「近づきたいの?」

「え、いや、そのなんというか・・・・・・ほら一か月間一緒だし、丁寧語ばっかりだと私つかれちゃうからさ」

「そんなもんですか」

「そんなもの、そんなもの。理由なんて考えずに気楽にいこう!」

「せやな。ほな気楽にいかせてもらうわ」

「いきなり緩くなったね~。でもそれでいいよ!ついでにマユリさんじゃなくてマユリでお願い!」

「はいはい、マユリ、マユリ」

「グッジョブ。じゃまたあとでね」
「はいはい」

 ようやく帰っていった。本当は一人でこのまま部屋に直行、ご飯風呂ベッドでバタンキューを心身共に望んでいることが感じられた。複数人で外食のような私にとって慣れないことをするのは多大なエネルギーを使う。先のエネルギーの消耗を想像すると余計に足取りが重くなる。

 今回ばかりは仕方ないか。そろそろ研修終了後の一人生活も考えないといけないし、今のうちにもらえるものはもらっておこう。にしても足取りが重い。

 こういう時はポジティブシンキングだ。タダ飯、おごり、タダ飯、おごり・・・・・・

 純粋に楽しさで弾むマユリとは対照的に、私は非常に利己的な考えに身を沈めるのであった。
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