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2章
⑤鬼ごっこ(3)
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「おいおい、女子に対してえげつないことするな。タカヒロ!」
「サキ事務官長!どうしてここに?」
「それは君もよくわかっているんじゃないか。しっかり跡をつけさせてもらったよ。それにマユリとはこの『サウンド』、音エネルギーを凝縮した魔法でずっと連絡を取り合っていたんだ」
よく見るとマユリとサキ事務官長の周りにオレンジ色の球がふわふわと浮いていた。そんな魔法があったなんて、教科書に載ってなかった。いやまあ確かにほかにもあるみたいなことは書いてあったけど。
「さらに、ケミカル!」
今度はサキ事務官長自身に向かって『ケミカル』という謎の魔法を放った。おそらく化学エネルギーを凝縮したものだろうが。そしてその後自分の目を疑った。
「え?」
「わたしだよ、サキ事務官長だよ」
「いや、どっからどう見てもトメさんですよね?」
「だからトメ=私、サキだよ」
「ええええええええええ!?」
いや思い当たる節はいくつかあった。年齢不相応に早い足、ポケットにごたごた入ったボールペンの数々、似た感じの雰囲気などだ。それでもそんなことはあり得ない、不可能だという思い込みでそうしたことは完全に頭から抜け落ちていた。そのあり得ないことが今目の前でいきなり起こるのだから驚きだ。
常識、当たり前はとっくに崩れていることなど、ここに連れてこられてから分かっていたはずだ。そうした呪縛に私は未だとらわれているのかもしれない。が、今はそれ以上考えている場合ではない。冷静に冷静に。
「いや、冷静になるとそんなに驚くほどのものではない。いくらか予想できそうな点がいくつかありました。トメさん、いやサキ事務官長。いいものを見させていただきました」
「なんだ、反応はさっきの『ええええええええええ!?』だけか?せっかくネタ晴らししてあげたのに。つまらないぞ」
「私には特別授業回避を回避する重大なミッションがありますので」
「いやーそうだったな。まあいいからちょっと付き合え。ええっと、たしかウィンドを分割して打ち出していたな。トメさんモードから戻って、よし、ウィンド!そして分割、掃射!」
「真似ですか・・・ってうわっ、あたたたたっ」
ウォーターによって上空で動きを封じられた私は分割されたウィンドの球を数弾食らった。スピードは自分のより遅いが、いかんせん動きが封じられている今は避けることができない。
「サキ事務官長もえげつないですね。パワハラですよ」
「いやこれは教育的指導、愛のむちだ」
「それ、あぶないですよって、あたたっ」
「わっはっは、よし終了だ。解除!」
「いたっ」
石のタイルに思い切り尻もちをついた。
「はい、タカ君。捕まえた」
「え」
見るとマユリさんにかけたウィンドのリングは消滅していた。エネルギーは時間がたてば少しずつ減っていく。サキ事務官長はそれまでの時間稼ぎってことか。
唖然とした。これだけ逃げ回って最後はあっけなく捕まってしまった。いろいろ不満を言いたくなる。サキ事務官長が私を攻撃するのは卑怯だとか、追跡はずるいとか、とにかくこの鬼ごっこがもはやゲームではなく一方的な仕組まれたものであるから、こんな試合は無効だ!と声高に叫びたくなる。
だが私はもう大人だ。学生ではない。すべて飲み込まなければならない。それに負け犬の遠吠えが見苦しいことは、ボッチ生活で身にしみて感じているではないか。
それに三か月が終わってこれから一人で生きていくためには、もっと力がいる。たった一か月の研修だ。レッツポジティブシンキング、受け入れよう。我慢しよう。
本意ではないが。
「トメさん・・・・・・じゃなくてサキ事務官長」
「ん?なんだタカヒロ」
「いや・・・・・・サキ先生。不束者ですが、一か月ご教授お願いします」
ようやく紡いだ、一人の生活が終わるその節目の言葉はとても弱弱しかった。今私はどんな顔をしているのだろうか。悔しいのか、悲しいのか、つらいのかそれとも・・・・・・もうよくわからない。
ここから先の一か月は先を読むことができるボッチ生活ではない。好き勝手出来るボッチ生活ではない。他人というイレギュラーを介して、私はどうなってしまうのか。
そんなごたごたした心情を振り払うかの如く、私は深々と頭を下げたのだった。
「サキ事務官長!どうしてここに?」
「それは君もよくわかっているんじゃないか。しっかり跡をつけさせてもらったよ。それにマユリとはこの『サウンド』、音エネルギーを凝縮した魔法でずっと連絡を取り合っていたんだ」
よく見るとマユリとサキ事務官長の周りにオレンジ色の球がふわふわと浮いていた。そんな魔法があったなんて、教科書に載ってなかった。いやまあ確かにほかにもあるみたいなことは書いてあったけど。
「さらに、ケミカル!」
今度はサキ事務官長自身に向かって『ケミカル』という謎の魔法を放った。おそらく化学エネルギーを凝縮したものだろうが。そしてその後自分の目を疑った。
「え?」
「わたしだよ、サキ事務官長だよ」
「いや、どっからどう見てもトメさんですよね?」
「だからトメ=私、サキだよ」
「ええええええええええ!?」
いや思い当たる節はいくつかあった。年齢不相応に早い足、ポケットにごたごた入ったボールペンの数々、似た感じの雰囲気などだ。それでもそんなことはあり得ない、不可能だという思い込みでそうしたことは完全に頭から抜け落ちていた。そのあり得ないことが今目の前でいきなり起こるのだから驚きだ。
常識、当たり前はとっくに崩れていることなど、ここに連れてこられてから分かっていたはずだ。そうした呪縛に私は未だとらわれているのかもしれない。が、今はそれ以上考えている場合ではない。冷静に冷静に。
「いや、冷静になるとそんなに驚くほどのものではない。いくらか予想できそうな点がいくつかありました。トメさん、いやサキ事務官長。いいものを見させていただきました」
「なんだ、反応はさっきの『ええええええええええ!?』だけか?せっかくネタ晴らししてあげたのに。つまらないぞ」
「私には特別授業回避を回避する重大なミッションがありますので」
「いやーそうだったな。まあいいからちょっと付き合え。ええっと、たしかウィンドを分割して打ち出していたな。トメさんモードから戻って、よし、ウィンド!そして分割、掃射!」
「真似ですか・・・ってうわっ、あたたたたっ」
ウォーターによって上空で動きを封じられた私は分割されたウィンドの球を数弾食らった。スピードは自分のより遅いが、いかんせん動きが封じられている今は避けることができない。
「サキ事務官長もえげつないですね。パワハラですよ」
「いやこれは教育的指導、愛のむちだ」
「それ、あぶないですよって、あたたっ」
「わっはっは、よし終了だ。解除!」
「いたっ」
石のタイルに思い切り尻もちをついた。
「はい、タカ君。捕まえた」
「え」
見るとマユリさんにかけたウィンドのリングは消滅していた。エネルギーは時間がたてば少しずつ減っていく。サキ事務官長はそれまでの時間稼ぎってことか。
唖然とした。これだけ逃げ回って最後はあっけなく捕まってしまった。いろいろ不満を言いたくなる。サキ事務官長が私を攻撃するのは卑怯だとか、追跡はずるいとか、とにかくこの鬼ごっこがもはやゲームではなく一方的な仕組まれたものであるから、こんな試合は無効だ!と声高に叫びたくなる。
だが私はもう大人だ。学生ではない。すべて飲み込まなければならない。それに負け犬の遠吠えが見苦しいことは、ボッチ生活で身にしみて感じているではないか。
それに三か月が終わってこれから一人で生きていくためには、もっと力がいる。たった一か月の研修だ。レッツポジティブシンキング、受け入れよう。我慢しよう。
本意ではないが。
「トメさん・・・・・・じゃなくてサキ事務官長」
「ん?なんだタカヒロ」
「いや・・・・・・サキ先生。不束者ですが、一か月ご教授お願いします」
ようやく紡いだ、一人の生活が終わるその節目の言葉はとても弱弱しかった。今私はどんな顔をしているのだろうか。悔しいのか、悲しいのか、つらいのかそれとも・・・・・・もうよくわからない。
ここから先の一か月は先を読むことができるボッチ生活ではない。好き勝手出来るボッチ生活ではない。他人というイレギュラーを介して、私はどうなってしまうのか。
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