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2章
④補修(5)
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部屋に到着して一息ついて、さあ始めるかと思った瞬間、後ろのドアがガチャリと音を立てた。
「あー、トメさん、今日はお早いで・・・・・・」
ちがう。トメさんではない。そこに立っていたのは白は白でも割烹着ではない。ポケットにボールペンをごたごた詰めた白スーツだ。つまり、
「サキ先生!?なんでここに!?」
「私の目から逃れようとするなど十年早い!どうせ私のありがたい特別授業をすっぽかそうとしたのだろう。それこそ百年早い。もっと年上を敬い、素直に授業を受けに来たまえ!」
「無条件に年上を敬え!っていうのは間違っていると思います。っていうかそういうの大嫌いです。儒教に縛られる義理はありません」
「お前は本当に生きづらい性格をしているな。さぞしんどいだろう」
「とんでもない。漫画・ゲーム・インターネット、一人でできる娯楽なんて今の日本には無数にあります。それに一人旅、一人カラオケ、一人バイキング、一人映画、一人テーマパーク何でもこなす私は幸せです」
「何をそんなに“一人”にこだわっている?そんなに友達が嫌か?」
「私が嫌なのではなく、友達、いや周りの人が嫌なのでしょう。そして結局私も嫌になる。わからへんやろ。こんな気持ち。自分を殺してまでみんなを楽しませて、つながりを持っているやつらなんかに」
一瞬沈黙が訪れた。サキ事務官長はしばらく腕を抱えて考えている。静寂を破ったのは少しイラっとした私だった。
「私をあなた方の価値観にあてはめないでください。最後の一か月間、マユリさんには悪いですが一人でやらせてもらいます。さあ出てってください。さあさあ」
「よし、決めたぞ」
唐突にサキ事務官長は顔をあげた。??となる。
「あの、話がかみ合ってないんですけど。とにかく出ていってくれませんか」
「当初の特別授業のプランを変更する。今日は鬼ごっこだ!マユリ、もういいぞ、でてこい」
鉄の扉の陰からひょこっとマユリが顔を出した。
「こんなところで、一人で練習してたなんてずるい!私も誘ってくれればよかったのに」
「タカヒロに『誘う』なんて高度なスキルを使いこなせるわけないだろう。まあそれは置いといて、だ。タカヒロ、お前は一人一人言っているが、腕には相当自信があるんだろうな。私の特別授業などいらないくらいに」
「そういうことでいいです」
「だったら証明して見せてほしい。今日授業終了の一八時まで、マユリとタカヒロに鬼ごっこをしてもらう。鬼はマユリ、逃げるのはタカヒロだ。タカヒロが逃げ切ればこの部屋で練習に励んでもらって構わない。逆に、捕まれば私の特別授業を受けてもらう。幸い今日は修学旅行だとかでこの研修棟は使い放題だ。禁止エリア以外ならどこでも逃げていい」
「私はそれで構いません。逃げ切る自信、結構ありますんで」
「わたしは、別に特別授業受けてもいいんだけどなー」
「うれしいこと言ってくれる。だがもしマユリがタカヒロを捕まえられなければ、勉強不足ということで一か月、マユリも一人で、地下にこもって、練習してもらうっていうのでどうだ?」
「そのペナルティー、最高ですね」
「タカヒロはだまってる!それで逆にタカヒロを捕まえられたら、“誰か”と一緒にこれから一か月、私の特別授業を受ける権利を与える。マユリこれでいいか?」
「一人は嫌です。必ず勝ち取ってみます」
「よし、その意気だ。それでは十分後鬼が動くからタカヒロ、逃げ切ってみろ!」
「了解!」
私は一目散に駆け出した。とりあえず遠くへ行こう。地の利はマユリよりも確実に自分にある。この勝負、確実にもらう。
・・・・・・にしてもなんでこんなにすんなり見つかったんだ。しかもこんな朝早くに。いや、そんなことを考えている暇はない。大事なのは、いまだ。
そう、今なんだ。
「あー、トメさん、今日はお早いで・・・・・・」
ちがう。トメさんではない。そこに立っていたのは白は白でも割烹着ではない。ポケットにボールペンをごたごた詰めた白スーツだ。つまり、
「サキ先生!?なんでここに!?」
「私の目から逃れようとするなど十年早い!どうせ私のありがたい特別授業をすっぽかそうとしたのだろう。それこそ百年早い。もっと年上を敬い、素直に授業を受けに来たまえ!」
「無条件に年上を敬え!っていうのは間違っていると思います。っていうかそういうの大嫌いです。儒教に縛られる義理はありません」
「お前は本当に生きづらい性格をしているな。さぞしんどいだろう」
「とんでもない。漫画・ゲーム・インターネット、一人でできる娯楽なんて今の日本には無数にあります。それに一人旅、一人カラオケ、一人バイキング、一人映画、一人テーマパーク何でもこなす私は幸せです」
「何をそんなに“一人”にこだわっている?そんなに友達が嫌か?」
「私が嫌なのではなく、友達、いや周りの人が嫌なのでしょう。そして結局私も嫌になる。わからへんやろ。こんな気持ち。自分を殺してまでみんなを楽しませて、つながりを持っているやつらなんかに」
一瞬沈黙が訪れた。サキ事務官長はしばらく腕を抱えて考えている。静寂を破ったのは少しイラっとした私だった。
「私をあなた方の価値観にあてはめないでください。最後の一か月間、マユリさんには悪いですが一人でやらせてもらいます。さあ出てってください。さあさあ」
「よし、決めたぞ」
唐突にサキ事務官長は顔をあげた。??となる。
「あの、話がかみ合ってないんですけど。とにかく出ていってくれませんか」
「当初の特別授業のプランを変更する。今日は鬼ごっこだ!マユリ、もういいぞ、でてこい」
鉄の扉の陰からひょこっとマユリが顔を出した。
「こんなところで、一人で練習してたなんてずるい!私も誘ってくれればよかったのに」
「タカヒロに『誘う』なんて高度なスキルを使いこなせるわけないだろう。まあそれは置いといて、だ。タカヒロ、お前は一人一人言っているが、腕には相当自信があるんだろうな。私の特別授業などいらないくらいに」
「そういうことでいいです」
「だったら証明して見せてほしい。今日授業終了の一八時まで、マユリとタカヒロに鬼ごっこをしてもらう。鬼はマユリ、逃げるのはタカヒロだ。タカヒロが逃げ切ればこの部屋で練習に励んでもらって構わない。逆に、捕まれば私の特別授業を受けてもらう。幸い今日は修学旅行だとかでこの研修棟は使い放題だ。禁止エリア以外ならどこでも逃げていい」
「私はそれで構いません。逃げ切る自信、結構ありますんで」
「わたしは、別に特別授業受けてもいいんだけどなー」
「うれしいこと言ってくれる。だがもしマユリがタカヒロを捕まえられなければ、勉強不足ということで一か月、マユリも一人で、地下にこもって、練習してもらうっていうのでどうだ?」
「そのペナルティー、最高ですね」
「タカヒロはだまってる!それで逆にタカヒロを捕まえられたら、“誰か”と一緒にこれから一か月、私の特別授業を受ける権利を与える。マユリこれでいいか?」
「一人は嫌です。必ず勝ち取ってみます」
「よし、その意気だ。それでは十分後鬼が動くからタカヒロ、逃げ切ってみろ!」
「了解!」
私は一目散に駆け出した。とりあえず遠くへ行こう。地の利はマユリよりも確実に自分にある。この勝負、確実にもらう。
・・・・・・にしてもなんでこんなにすんなり見つかったんだ。しかもこんな朝早くに。いや、そんなことを考えている暇はない。大事なのは、いまだ。
そう、今なんだ。
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