war of the ボッチ~ボッチでもラブコメできますか?~

前田 隆裕

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2章

④補修(3)

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 教育官に怒られると恐る恐る振り返ると、白の研修生ローブを羽織ったマユリだった。そして身構える。

「実技演習はどうしたんですか。ほらあそこで打ち合いやってますよ」

「おまえこそ、実技演習はどうしたんだ?」



 マユリの後ろからまた一人、教育官・・・・・・ではなくて何か偉そうな白スーツの女性が出てきた。いやどこかであったような。



「おいおい、私を忘れたのか?事務官長のサキだ。ほら朝ミーティングで最初に話をしただろう。一度しかあってないから忘れるのも仕方ないかもしれないがな」



 胸ポケットにごたごた入っているボールペンでようやく思い出した。言いたいことだけ言ってさっさと出ていった人だ。いや、でもなんかこれまでよく会っていたような気がするのは気のせいか。



「お前ら二人の出来があんまり悪いから、私が特別授業をつけることになった。今から一か月、二人で一緒に受けてもらう。ついてこい!」

「ちょっと待ってください。サキ事務官長。私にも予定があります」

「そんな予定など無視してかまわん!必ず大丈夫だ」

「必ず大丈夫って、どこからくるんですかその自信は。まあそれを抜きにしても彼女にはエイジというペアがもうすでにいます」

「今複数の班で合同実技演習をやっているんだ。エイジはそこでペアを変更した。だからマユリにはペアはいない」



 あのマユリさんがペアを作れなかった?エイジと別れようがマユリさんなら私と違い簡単にペアぐらい作れるだろうに。一体何があったのか気になったが今はそれどころではない。



「いやいや、よく考えてみると班の人数は偶数のはずです。たとえ奇数の班があっても自分のようなはみ出し者が抜けてやっぱり偶数になります。偶数の班がいくら集まっても偶数です。マユリさんが抜ければ、ペアができない研修生がでてしまいます」

「複数の班、といったのが間違いだったかな。今君が思っている班はなくなった。いま班は再編されて二十数班あったのが大きく五つのみになった。そしてそれぞれ奇数に分けられたんだ。計算が合わないかもしれないが、実は“自主”退学生も数人いてな。そして余ったのがマユリだ。因みにお前は班員ですらなかったぞ。よく退学せずに今まで残っていたものだな」

「それ、嫌味ですか?」

「いや、褒めてるんだ。私も似たような感じだったからな」



 一瞬昔を見つめるような目で私を見た。この人はどこかほかの白の軍の人とは違う。あの時の朝ミーティングでの直感はやはり間違ってはいないのだろう。



「そんなことよりこれから私に教えを乞うんだ。自主退学なんて許さないからな」

「勝手に話を進めないでください!たとえ私が良くてもマユリさんが嫌でしょう。マユリさんが自己紹介カードに私の事をどんな風に書いたか、白の軍のあなたなら知っているでしょう」



 さっそく保険を使う時が来た。これで・・・・・・



「ああ知っているとも。前半はお前が書かせたこともな。それに後半には『それでもあなたと友達になりたいとここに誓います。マユリ』だって」



 思わず驚いてマユリのほうを見た。マユリはショートカットの茶色がかった髪をいじりながらうつむいている。



「実は・・・・・・それがばれてエイジとはペアを解消されたの。ボッチとつるむようなやつはこの班には不要だって。友達からも白い目で見られた。それになんであんなこと私に書かせたの?私、あんな思ってもみないこと書くのいやでいやで仕方なかった」



 マユリさんは本気で悲しそうな目をしている。そんな目をするな。

 いやでいやで仕方ない?そんなはずはない。ボッチは疎まれる存在だ。

 その目が、言葉が、マユリさんを孤独に引きずり込んでいく。私はどうでもいい。だが『他人』を巻き込むのは御免だ。



「騙されて書いたのが悪いんです。それに私は『このような人には二度と近寄りたくない』と書かせたはずです。そうすればエイジとだってペアを続けられて、補修なんかせずに済みました」



 思わず語気を強めてしまった。誰とも衝突しないようにかかわりを避け、極力当たり障りのないようにふるまってきた私にとってこれは想定外な事態だ。

 しかしそんな私に全くかまうことなくマユリさんは話してくる。



「自分の付き合いに口を出すような人とペアになんかなりたくない!それにタカ君も、本当のこと教えて。あの時はふざけたような感じだったけど、ちゃんとした理由があるんでしょ。どうして?」



 マユリさんはまっすぐな目で見てくる。うっと息が詰まる。本心を言うなんて、もうずいぶんご無沙汰だった私はなかなか口にでない。本心は時に人を密にし、そして傷をつける。いわばもろ刃の剣なのだ。私は臆病なのだろう。そんなもろ刃の剣など使えなかった。かといってあのM-1の研修生のように上っ面の付き合いなんて御免だ。本心を言い合える仲間がほしい。でも誰も傷つけたくない。そんな葛藤に嫌気がさし私は人と接することをやめた。だからたとえ話しかけられてもこれまでずっとさらっと流してきたのだ。



 だがここははっきり言わなければならない。私のために、そしてマユリさんのために。



 深く息を吸った。そして静寂の中、ようやく言葉を紡ぐことができた。



「君を・・・・・・あの自己紹介の時、“気を遣ってくれた”君を、自分のような目にあわせたくなかった。ボッチにかかわろうとするやつはだいたいひどい目に合う。だから引き離した。もし何かあっても書面に残していれば、私は敵になる。一人敵を作れば、集団ってのは不思議とまとまる。僕が最初の実技演習でエイジから罵倒を受けた時の光景を見たやろ。全員うなずいていたし、笑っているやつさえいた。教育官ですらだ。私一人が悪く言われ、お互いで悪口を言い合っていたような人はいなかったやろ?二か月の間、僕一人が敵になることでスムーズに研修を終えることができたやろ?あんな急ごしらえの班の中で、だ。僕は慣れている。大丈夫だから。マユリさんはまだ今からでも間に合う。三人ペアでも作ってもらって・・・・・・」



 目頭が熱くなるのを必死にこらえる。こんなに話したのは久しぶりだ。あれ、なんで泣きそうなんだ。

「タカ君」

「はい」

「私、気を遣って声をかけたわけじゃないよ。声をかけたくて、かけただけ。それに『それでもあなたと友達になりたいとここに誓います。マユリ』っていうの、本当のことを書いただけだがら。本当の事言って何が悪いのか私にはさっぱりわかんない」



 衝撃的な言葉だった。本当のことを言って何が悪いのか。まさに正論だ。私がずっと欲していたものを軽々とマユリさんは言ってのけた。友達になりたい、たとえ思ってもそんなことをはっきり口に出すのには勇気がいる。少なくともボッチの私には無理だ。どうせ断られる、気持ち悪がられる、といった展開しか見えずとても無理だ。



「マユリさんは、えらい強いんやな」

 私は弱い。自分で口に出した言葉だが、私にはそう聞こえた。

「女子に強いっていうの微妙だけど。それにそういうタカ君こそ優しいんだね」

「優しい自覚なんてないけど」

「私だって強い自覚なんてないけど」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おーい。私もいるんだけど。話はついたのか?」

 ハッと我に返る。なんか恥ずかしいこと言ってなかったか。一人称がごっちゃになってもなってた気もする。方言も少々出ていた。

「なにはともあれ、これから一か月は二人ペアだ。明日から私は君らの『サキ先生』としてビシバシ指導するから心しておくように!返事は?」

「はい!」

「タカヒロは?」

「はい!・・・・・・としかもう言いようがないですね」

「よろしい。じゃあ今日は居住棟へ帰ってゆっくりしておくように。明日は中央ホール五階、事務室七時三十分集合だ。いいな?」

「はい!」

「はい・・・・・・」

 こうしてこの研修所に来てから初めてのペア・・・・・・なんかではなく単なる補修メンバーができた。人がいる中での勉強。ボッチにはストレスがたまりそうだ。
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