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2章
④補修(1)
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それからは二か月、私はテキストをもって毎日一人で地下室に通った。時々トメさんが様子を見に来てくれるが基本独学だ。やはりこちらの方が向いている。ストレスフリーで学習できるためか。もう配布されたテキスト魔法学基礎編、応用編の内容はすべてマスターした。
「ファイヤー!!」
赤い球が飛び出し、そこから発せられた細くも鋭い光線は廃材で作った的の中心をきれいに射抜き、消し炭にした。
「ウォーター!!」
青の球が飛び出し、的を包むと今度はふわふわ動き出した。あの時滑空を応用したものだ。
「そしてウィンド!!」
緑の球が飛び出し、不規則に動く的を的確にとらえて吹っ飛ばした。
「お兄ちゃん。なかなか上達したね。まああたしなんかにいわせりゃまだまだなんだけど」
「トメさん、来てたんですか」
「なあに、お昼時でもないから時間はたっぷりあるのさ。にしても二か月よくこんなところで頑張ったねぇ」
「こんなところって、紹介してくれたのはトメさんですよ?まあとりあえずあと一か月、やり切ります!」
「やる気十分なのは結構だけどねぇ、寂しい、とか思わないかい?」
寂しい、か。そのワードを聞くと過去がよみがえる。あの頃、寂しさに飲まれて奮闘していた自分が恥ずかしくそして哀れすぎて思わず鳥肌がたつ。
「そりゃ昔は寂しい、仲の良い友達が欲しいと散々思いましたよ。でもそれと同時に一人でいたいって思う気持ちも強くなりました。二十年以上生きてきて友達作りなんて自分には無理だということはよくわかりました。正直面倒くさかったですし。まあその一人でいたいって気持ちは、未だはっきりしない本当の気持ちを抑えたうえで成り立っているだけなのかもしれませんが。」
「迷える若者ってやつだね。ヤマアラシのジレンマかねぇ。」
唐突な専門用語だ。私はそんな一言で収まってしまうのだろうか。ふとそんな思いが頭をよぎった。
「トメさんって学が深いですよね。魔法も上手みたいですし。」
「経験が違うからね。年の功って、いや、あたしはまだまだ若い!そもそも私の実力があるからだ!」
いやいやどう見ても、失礼だけど自分の祖母と同い年ぐらいにしか見えないんだけどな。トメさんにもなんか譲れないものがあるのだろう。よし、社会人になって身につけたどんなことを聞いても失礼にならない魔法の言葉、「恐れ入りますが」を使おう。
「トメさん、“恐れ入りますが!”おいくつなんでしょうか?」
「あたしゃ二十九だ。」
最高にすがすがしく言う。そうかこれがどや顔ってやつか。初めて見た。
「そういうことにしておきます。では私はおそばを食べに行かないといけないので早急に立ち去ります。」
「ちょっと待ちな!信じてないだろ!本当なんだから!それにお昼はまだだし!」
「はいはい。」
空返事でその場を去る。なぜかその妙な必死さに笑えた。こうも堂々とさばを読まれると、もはやコントにしか見えなかった。
「いやー、二十年以上生きてって、まさか大人だったなんて。高校生じゃなかったのね。」
トメはぽつりとつぶやいた。
「何か言いましたかー?」
「いやなんでもないよー」
最後のトメさんの声はさっきまでのしゃがれ声ではなく、ずいぶんと若作りしたような声だった。
「ファイヤー!!」
赤い球が飛び出し、そこから発せられた細くも鋭い光線は廃材で作った的の中心をきれいに射抜き、消し炭にした。
「ウォーター!!」
青の球が飛び出し、的を包むと今度はふわふわ動き出した。あの時滑空を応用したものだ。
「そしてウィンド!!」
緑の球が飛び出し、不規則に動く的を的確にとらえて吹っ飛ばした。
「お兄ちゃん。なかなか上達したね。まああたしなんかにいわせりゃまだまだなんだけど」
「トメさん、来てたんですか」
「なあに、お昼時でもないから時間はたっぷりあるのさ。にしても二か月よくこんなところで頑張ったねぇ」
「こんなところって、紹介してくれたのはトメさんですよ?まあとりあえずあと一か月、やり切ります!」
「やる気十分なのは結構だけどねぇ、寂しい、とか思わないかい?」
寂しい、か。そのワードを聞くと過去がよみがえる。あの頃、寂しさに飲まれて奮闘していた自分が恥ずかしくそして哀れすぎて思わず鳥肌がたつ。
「そりゃ昔は寂しい、仲の良い友達が欲しいと散々思いましたよ。でもそれと同時に一人でいたいって思う気持ちも強くなりました。二十年以上生きてきて友達作りなんて自分には無理だということはよくわかりました。正直面倒くさかったですし。まあその一人でいたいって気持ちは、未だはっきりしない本当の気持ちを抑えたうえで成り立っているだけなのかもしれませんが。」
「迷える若者ってやつだね。ヤマアラシのジレンマかねぇ。」
唐突な専門用語だ。私はそんな一言で収まってしまうのだろうか。ふとそんな思いが頭をよぎった。
「トメさんって学が深いですよね。魔法も上手みたいですし。」
「経験が違うからね。年の功って、いや、あたしはまだまだ若い!そもそも私の実力があるからだ!」
いやいやどう見ても、失礼だけど自分の祖母と同い年ぐらいにしか見えないんだけどな。トメさんにもなんか譲れないものがあるのだろう。よし、社会人になって身につけたどんなことを聞いても失礼にならない魔法の言葉、「恐れ入りますが」を使おう。
「トメさん、“恐れ入りますが!”おいくつなんでしょうか?」
「あたしゃ二十九だ。」
最高にすがすがしく言う。そうかこれがどや顔ってやつか。初めて見た。
「そういうことにしておきます。では私はおそばを食べに行かないといけないので早急に立ち去ります。」
「ちょっと待ちな!信じてないだろ!本当なんだから!それにお昼はまだだし!」
「はいはい。」
空返事でその場を去る。なぜかその妙な必死さに笑えた。こうも堂々とさばを読まれると、もはやコントにしか見えなかった。
「いやー、二十年以上生きてって、まさか大人だったなんて。高校生じゃなかったのね。」
トメはぽつりとつぶやいた。
「何か言いましたかー?」
「いやなんでもないよー」
最後のトメさんの声はさっきまでのしゃがれ声ではなく、ずいぶんと若作りしたような声だった。
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