「ぼっち」が結ばれるわけがない!

前田 隆裕

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9話~定期テスト勉強会~

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9話~定期テスト勉強会~
 入学、部活と来たら、次の大きなイベントは初めての1学期中間定期テストである。各々の教科担任が中間テストの出題範囲を発表していく中、余裕ぶる者、焦る者、騒ぐ者、緊張する者、すべてを諦めた者など、反応が様々でおもしろい。
 
 ぼっちは、通常の高校生であれば人とつるんでいるであろう時間をすべて勉強に充てているため、抜かりはない。高みの見物としゃれ込もうじゃないか。
 
 そんな日の放課後。このクラスは仲がいいのか、クラスのリーダー格の男子がみんなで勉強会を開こうなんて提案をしている。社交的面々は賛成賛成の嵐で、さらにはそこに先生まで乗っかって、急遽勉強会の打ち合わせが始まった。また面倒ごとである。

「さて、みんなで一斉にやってもちょっと教えるのが大変だから、このクラスを小さいグループに分けて、グループ内で先生役と生徒役を作る感じにしましょう」

 さっそくタロウが手を上げる。久々に感じるのはなぜだろうか。

「はーい、俺先生役!」

「ちょっとお前、この間の小テスト赤点だっただろ、他のみんなまで赤点にするつもりか」

「おう!」

 あまりにも素直な回答でよろしい。笑いが起きる。

「でも、グループメンバーって大事だよね。先生役と生徒役は後で決めるとしてさ、グループは自由に決めてもいいですか、先生?」

「そうだね、じゃあ仮でみんなグループに分かれてみて?」

 ・・・・・・好きなようにグループを作って、か。

 これはぼっちにとって、フェルマーの最終定理のレベルで解決不可能、無理難題である。気がつけばいつも余る。なぜならぼっちだからだ(?)。

 女子はそこらへんの配慮が上手いのか、特に普段そこまで親しいわけでもない人でも、うちのグループにおいで~と招き入れている。
 男子は普段仲が良い男子と集まって盛り上がっており、他を寄せ付けないオーラを放っている。

 僕は余った。当然のごとく。

 いつものことである。僕はほっと胸をなで下ろし、帰宅準備を始めた。
 しかし、先生は見逃さなかった。ここでまた余計な一言を挟む。

「うーん、グループを作ってくれたのはいいのだけど、ちょっと偏りが出過ぎちゃっているのも問題かな。やっぱりくじ引きの方がいいかな」

 いいんだよ。偏りが出たって。全く問題なし。偏り万歳。当然生徒からも不満がでる。あんなやつがいるからこうなるんだ、と僕に対する不満も聞こえてくる。知ったことではない。

「いや、例えばほら、花崎さんのグループ、すごい人数でしょ?」

 先生は僕ではなく、花崎さんのグループに生徒の注意を持っていった。たしかに花崎さんのグループだけ唯一二桁だ。ちゃっかり男子まで混ざっている。勉強を教えてほしい以外の欲望が丸わかりである。

「たしかにそうですね。それなら私もくじ引きで決めてもいいと思います。ただ勉強が得意な子がやっぱり先生役をした方がいいから、先生役は固定した方がいいかと。みんなどう思う?」

「花崎さんがそういうなら・・・・・・」

 鶴の一声でくじ引きへの不満が消えた。この人望、不思議なものだ。

「じゃあ、先生役を決めて、どの先生役に教わるかはくじ引きって事にしましょう。はい、先生役やりたい人!あるいはこの人を推薦したいとかあればぜひ!」

 誰々君がいいと思いますとか、誰々さんがいいと思うなどいろんな意見が飛び交う。花崎さんの名前はトップに上がっていた。

「えぇ~、私なんか先生役務まらないよ~。私は前田君を先生役に推薦します!」

 勝手にやっておいてくれ、と蚊帳の外でボーっとしていた僕は跳ね起きた。能力で口止めすれば良かったが、今になっては遅い。みんなもぼっちの僕に教わるのは嫌だろう。反対しろ。

「花崎さんがいうなら仕方がないか・・・・・・」

 花崎さんの名前が黒板から消えて、僕の名前が記入される。いやいやいや、仕方がないで済まさないでくれ。ほら、みんな嫌悪感一杯の目で僕を見ているんだから、それを言葉に出そうよ。ほら、反対反対。

「いや、僕もえんりょ・・・・・・」

 断ろうと言いかけたとき、先生が間に入って言葉を遮る。

「いいですね!はい、じゃあ、先生役立候補終了!先生役に番号が振ってあるから、くじに書いてある番号と同じ先生役とグループを組みましょう!」

 僕を無視し、次の段階へ無理矢理持っていかれた。仕方がない。次の作戦を練らねばならない。どうする。

「先生役は10人決まったから、それぞれ3人に1人が教える感じですね~。番号は××君が一番、○○さんが二番、△△さんが三番・・・・・・そして前田君が十番っと」

 よし、みんなが十番を引かなければいいわけだ。ん、あれはチャンスだ。先生が教卓でくじを作りながら各番号ごとに何枚あるかチェックしている。なるほど、あの束が十番のくじか。

 なにか気を散らさなければならない。やったことはないが・・・・・・試してみるか。

 僕は窓の外の地面に目を下ろし、今までためていたエネルギーをすべて使い、能力を行使した。大地よ、揺れろ!

「うぉ!」「きゃー!?」
「みなさん!机の下に隠れて!地震です!」

 本当に揺れた。震度4~5くらいか。まさかこの力で大地まで揺らせるとは。実際にやっておきながら末恐ろしい。生徒が一斉に机の下に隠れているすきに十番のくじ三枚を丸めてゴミ箱に葬り去り、僕が書いた新たな1番、2番、3番(番号は適当)のくじを束の中に紛れ込ませた。能力を使えば造作もない。

 くじの総数は変わらないから、誰かが余ることはない。くじも先生のミスとしてやり直しまですることはないだろう。勉強会をするのにそこまで手間をかけていたら本末転倒だからな。さぁ結果が楽しみだ。

 開票はスムーズに進んだ。予想通り、一番のグループ、二番のグループ、三番のグループは他より一人多く、そしてだれも十番にはだれも入らなかった。

「あれ、おかしいな。十番だけ入れ忘れちゃったかな?」

 先生が困惑している。十番はゴミ箱の中だ。

「はは、前田のやつ、先生からも見放されてるぞ」
「ほんと、筋金入りのぼっちだな」

 嫌な笑い声だ。おそらくざまぁみやがれと生徒一同思っているだろうが、この結果は僕が作っているのだとは、到底だれも予想だにしないだろう。

「前田君ごめんね。やりなおそうか?」
「いえ、大丈夫です!」
「うれしそうね・・・・・・」

 本当にすまなさそうな顔をして謝ってくる先生にすこし心がチクッとしたが、これで目的は達成した。よし、図書委員の仕事サクッと終わらせて、図書部として適当に本読んで、早く帰ろう。そう思った矢先、また花崎さんが手を上げる。エネルギー切れでもはや防ぐ力は残っていなかった。くそっ!

「私、1番だったけど人数多いし、十番のグループいきます!」

 ・・・・・・え?

「あの、私も、じつは3番でして・・・・・・人数多くて、十番でもいいです」

 雪本さんまで。

 2番の人は断固拒否していた。そうだ、それが普通の反応だ。

 一番のグループは必死になって花崎さんを引き留めようと奮闘している。一番のメンバー、タロウも必死だ。男3人の中、紅一点が抜けられると男子高校生的に非常に困るらしい。しかし、花崎さんの意思は堅く、その不満の視線は僕に向けられた。

 一方花崎さんに対しては、気をつかっているんだ、なんて優しいんだといったまなざしである。それと比べてあいつは・・・・・・いや読み解くまでもない。

 対して雪本さんに対する視線が今までは無関心的な視線だったものが、最近僕といることによって嫌悪的のもの、異物を見るようなものへと変わってきた。なんであんなやつとつるんでいるのか、ひょっとしてデキてるんじゃないか、気持ち悪、言葉には出さないがそんな雰囲気である。

 良くも悪くも僕の経験則通り。僕としてはいい迷惑の一言で済むが、僕のせいで雪本さんが悪く言われるのは許せない。ただ肝心の雪本さん本人はあまり気にしている様子ではない。

 いろんな視線、思惑が行き交う中、先生はとてもうれしそうにして、

「うんうん!二人ともありがとうね!ちょっといろいろあったけど勉強会はこのメンバーで行きましょう。それじゃ解散!」

 生徒一同が教室を出てテスト期間前最後の部活に向かう中、あまりにも愕然として珍しく教室を出るのが最後になってしまった。それにいつになく体が気だるい。
 
 やっとの思いで教室を出ようとすると待ち構えたように花崎さんが居る。視線を落とす。気にしない気にしない。しかし、さっと歩みを早める僕に花崎さんはこそっと耳打ちをしてきた。

「番号、みんな漢字の数字だったのに、私のくじ、普通の数字だったんだよね~。前田君、力使ったんでしょ?」

 驚いて視線をあげると、もう花崎さんは「部活遅れるから~」といって走って行ってしまった。気が緩んでいた。漢数字と数字・・・・・・いつもならそんなことくらい抜かりなくこなす。これは本格的に少し休まなければいけないかもしれない。ここのところぼっちにはしんどい日々が続いている。なにか後ろから怨念のようなもの感じるし・・・・・・ん?

「なにしてたの?」

 後ろを振り向くと雪本さんがいた。いつの間にいたのか、全く気がつかなかった。その今放っている殺気といい、アサシンにでもなれるのでないか。

「なにって?」

「さっき花崎さんと」

「ああ、なんかくじがおかしかったねって話ですか。それがどうかしましたか?」

「なんでもー」

 なんでまたこう不機嫌なんだ。意味がわからん。ただでさえ疲れているのに勘弁してほしいものだ。

「さぁ早く図書委員行きましょう。二人で!」

「はいはい」

「それから、図書部にも行きましょう。二人で!」

「雪本さんは支店ですね」

「支店から本店に出向に参りました」
「・・・・・・」

 もう言い返す気力も失せて、何も考えずにいつものルーティンに身を委ねた。

 その夜、花崎さんからメールが届いた。題目は『勉強会♡』。題目だけでいかがわしさマックスである。僕がAIなら確実に、迷惑メールではじいているだろう。

『花崎です。もし良かったら土曜日、勉強教えてほしいところがあるんだけど、直接会えないかな?個人的な質問だから、雪本さんには迷惑かけられなくて、できれば二人で、がいいんだけど。返信待ってます』

 この文章に絵文字がちりばめられ、とてもカラフルな文章である。

『前田です。僕は疲れました。熱もあるようです。土日は一人でゆっくりしたいので、ご遠慮させていただきます。雪本さんにお願いしてください。失礼します』

 この返信メールを送った後、本当に熱が出た。小学校中学校と、どんなに心身を消耗しても風邪すら引かなかったのに、このざまとは。本格的に安定のぼっち生活3年間は脅かされていることは明白である。明日が土日であったことだけが唯一の心の救いである。

 その後は食事もとらず、風呂にも入らず、制服のまま布団に倒れ込み、眠ってしまった。
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