「ぼっち」が結ばれるわけがない!

前田 隆裕

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7話~SNS~

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7話~SNS~
 巷ではラインやツイッター、ティックトックとやらが一世を風靡しているらしい。

 スマホ一つで情報を世界に発信できるようになり、今や小学生ですらそんな機械を持っている。僕は、親がスマホを持てとうるさくいやいや持たされた。通信料やスマホ代がもったいない、そんなものにお金を使うならむしろお小遣いアップを要求したいくらいだと常々思っていた。

 そして中学1年の頃、スマホが壊れてからは2年くらいずっと放置していた。しかし高校に進学するとき親が転勤となり、自宅一人暮らしが確定してからは、お金は払うからと半ば強制的に新しいスマホを押しつけられた。
 
 親から渡されたスマホにはSNSのアイコンがたくさん入っていた。昔使っていたラインのアプリも入っている。友達作れということだろうか。だがしかし、僕はそんな圧には屈しない。速攻ですべてアンインストールし、今や連絡手段としてのスマホは見る影もなく、ゲーム機兼電子書籍リーダーとなっていた。

 ネットサーフィンをしていると、アカウントを持っていなくてもツイッターやショート動画が上位に表示されたりする。中を見ると、「今日オープンした~店の~ドリンクを飲みました」「奮発してロレックス買っちゃいました!」などの日常がアップされている。しかもいいねの数がすごい。ショート動画には、なぜかどれも彫刻のような肌をした美男美女が、意味不明な曲に合わせて踊り狂っているものや「~してみた」のようなものがアップされている。

 コメント欄には「可愛い!」や「かっこいい!」とか「面白い!」と美辞麗句が並んでいる。あとは「いいね」のハートマークやら親指マークか。

 これだけSNSが盛り上がったのは人間の承認欲求を巧みに突いた、というのも一つあるのだろう。周りに認めてほしい、褒めてほしい、つながりたい、僕にはこれらの投稿がそんな欲望の塊に見える。

 おそらくそんな美辞麗句の中に、「そのドリンク、もうブーム過ぎてますよ!w」「私、そのロレックスの限定版、しかも3つも持ってるんです。あなたは?え、一つw」「意味不明なダンスですね」なんて言おう物なら、おそらく袋だたきに合うだろう。もしくは即ブロックされる。ぼっちと同じで、ネットでもリアルでも異物は排除されるのだ。

 そんな僕のクラスにも、ラインのグループができた。40人のクラス、登録者は39人になった。クラスのリーダー的存在男子が声を上げる。

「あと一人、参加してないの誰だ~」
「僕です」
「ああ、ええと、前田か、あとでQRコード誰かに見せてもらって参加しとけよ~」
「はい」

 当然そんな相手はいない。僕はぼっちである。友達ゼロ、QRコード見せてと言ったら「キモッ」と言われて門前払いされるのがオチである。そもそもラインをやっていない。

「みんな、とりあえずスタンプ送っておくから、届いてるかどうか確認しといて」

 一斉にピコンピコンと通知音やブーブーと振動音がクラスに響く。僕のスマホはうんともすんとも言わない。当然だ。連絡手段ではなくゲーム機兼電子書籍リーダーなのだからな。

 それから、二人一組を避ける術転用!ケハイヲケスで、クラスラインのグループに一人足らないことを突っ込む人はいなかった。

 彫刻のような肌で意味不明な曲に合わせて踊り狂っていそうな花崎さんは、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けくる構えを見せた。

 しかし幸い、次の授業担当、生徒指導も兼ねる怖い鬼瓦先生がもたらした緊張感により、この話題は流れた。もうこの話に戻ることはない。39人のクラスラインは1年続くだろう。いや来年も新生40人中39人のクラスラインができるだろうな。そう考えるとほっとした。

 ・・・・・・しかし、鬼瓦先生の授業が終わるやいなや、機を見計らったかのように花崎さんの猛攻が始まったのであった。

「前田君、まだクラスラインに入れてないよね!?早く入らないとだめだよ」

 なあなあで事が流れていくと思っていた僕にとって、非常に面倒な事態である。しかしここで否定すれば僕がルール違反の異端者になってしまう。別にそれでもかまわないのだが、安定したぼっち生活3年間が脅かされる可能性がでてくる。かといってクラスラインなど面倒ごとの塊だ。あとでやる戦略をとろう。

「あとで入りますから」
「今入っておこうよ!せっかくだから、ほら、私のQRコード使って」

 押しが強い。花崎さんの子分達も・・・・・・うわっ、周りの男子まで僕を睨んでいる。しかも隣の雪本さんですら怖い顔してるじゃないか。ん?雪本さんの視点は他と違い、なぜか花崎さんに向けているのだがどうでもいい。いずれにせよ迷惑してるんだ。どう逃げる?なにか逃げる一手は・・・・・・あ、言い餌が居るではないか!

 クラスの隅の方で、ハンカチがあれば引きちぎりそうな勢いで悔しがってスマホを握っているタロウ。久しぶりのプレゼントをご堪能あれ!

 僕は力を行使した。タロウは急発進し、僕をわざと弾き飛ばさせた。チャンスだ、いけ!ライン交換してくださいと言うんだ、それいけ!タロウ!

「あっ、あっ、そのあの・・・・・・」
 何をもじもじしているんだ。僕にはいつもちょっかいかけてくるだろう。その気力をぶつけるんだ。
「どうしたの?タロウ君?」
「えっ、なんといいますかその」

 埒があかない。仕方ない。

「多分花崎さんとライン交換したいんじゃないですか?」

 タロウが目を丸くして僕の方を見る。力を行使して、むりやり花崎さんの方へタロウの首を向ける。そして超高速でタロウの首を縦に振らせる。

「うなずきすごいね。でもそんなことか~。すごい緊張してたから重大なことかと思って焦っちゃった。いいよ、ライン交換しよっ」

「そう、そう!花崎さんありがとう!」

「前田君も・・・・・・うわっ!?」

 時すでに遅し。タロウが花崎さんと友達登録したとの噂は即クラスに広がり、クラス中の男子が花崎さんとのラインの友達登録に押しかけてきた。女子はその様子を冷ややかな目で見つめていたが、その後は女子同士で盛り上がっていたようだ。

 対する僕はうまくフェードアウトすることができた。ふふふ、うまくいったぞ!

 そしてすべての授業が終わり、「起立、礼、さような」まで聞いて、最後の「ら」の前に僕は教室を出て行った。

 ぼっちは下校が早い。だれとも会話するでもなく、放課後に寄り道するでもなく、部活をするでもなく――あっそういえば部活紹介ももうすぐだったな――弾丸のごとき意思を持って目的地自宅へ飛んでいく。ふはは、僕は誰にも止められまい。

 しかし、それを上回る速度で、音速ミサイルのごとく担任の先生が僕を制止する。

「何か、ご用ですか」

「ご用ですよ~。図書委員」

 そうだ、図書委員だ。明日まとめてやるかと一瞬頭をよぎったが、図書委員が二人になっていたことを思い出す。にしても、まさかここまでしっかり見張られているとは思いもしなかった。こんな地味なぼっちの生徒は放っておいて、先日問題を起こしたイケメン集団等にでもかまっていればいいものを。

「今から行きますよ。ほら、この先図書室の方面ですし」

 自宅に帰るつもりであったが、物は言い様である。幸いなことに、制止された箇所は帰宅するための正門へも、図書室へもどちらに向かうことができる。

「そう?てっきり雪本さんに丸投げして帰っちゃうのかと思ったけど安心したわ。前田君もさすがにそんなことしないよね」

 念を押すように言ってくる先生。さすがにと言ってくる辺り、僕のひねくれ具合がよくわかっているようだ。だが、それこそ「さすがに」そんなことはしない。逆の立場は身に染みてわかっている。

「たぶんすぐ終わると思いますよ。図書室に来る生徒、最近ほとんどいないですし」

「あら、そうなの?あったしかにそういえば、電車に乗ってもみんなスマホばかり見ていて、本読んでいる人めっきり見かけなくなったわね。私は相当読むんだけど、やっぱり国語の先生として悲しいところだわ~」

「そうなんですね」
「前田君は本、結構読むんですか」
「はい、それなりに」
「今は何か読んでいるの、ある?」
「ありますね」
「何の本?」
「・・・・・・着きましたよ、では先生、さようなら」
「あっ、うん、前田君さようなら。また明日ね!」

 結局先生は図書室の前までついてきた。この後行くであろう職員室からずいぶん遠回りにもかかわらず、そこまでして監視するとは恐ろしい。

 図書室の扉を開けるともうすでに雪本さんがいた。一番乗りに教室に出たはずなのに早いな。ざっと返却後ボックスの中を見ると、意外と未整理本があった。というより、こんなに多いのは図書委員始まって以来(まだ一ヶ月もたっていないが)だ。

「前田君!来てくれてありがとうございます!今日は先生が授業研究というのでいっぱい本を借りていって、それを整理しないといけなくて」

 先生の仕業か。普段のように3~4冊を整理して終わり!を予想していたので、わざわざ二人もいらない、おのおの整理して、おのおの帰る感じのゆるーいはずの仕事が、いきなり台車一杯の本の整理へ変貌している。しかもご丁寧にジャンルはバラバラ。これを女の子一人に任すのはさすがに良心がむ。

・・・・・・まだ良心が残っていたんだな。

「いつもならこんな量はないんですが・・・・・とりあえず早く終わらしましょう。そうだ、これがジャンル別の本の配置表です。無理しない範囲で、サクッと終わらせましょう」

「はいっ!」

 静かな放課後に、脚立がキイッと軋む音と本がコトッコトッと並べられるこぎみのいい音。お互い無言で、ゆったりとした時間が流れる。しばらくして、そこに吹奏楽部のホルンやフルートの練習音が加わる。もともと身長は高い上に、能力を使えば脚立に上ったり降りたりの必要はないが、一個一個本を戻していくのはやはり手間がかかる。時間は刻々と過ぎていった。

「やっと終わった」

「おつかれさまです。初仕事からこんなに大変で申し訳ないです」

「いえいえ!?前田君が謝ることじゃないです。それにたまにはこういうのもいいですよ?」

「そうですか?早く帰れるのに越したことない気がしますが」

「うん、そうなんだけどね、私、友達とか居なくて、いつもすぐ家に帰っちゃってまして」

「いいことじゃないですか?」

「やっぱり私は高校生らしく、誰かと一緒に放課後過ごしたり、寄り道したり、そ、それに・・・・・・恋愛とかもしてみたいし・・・・・・」

 それなら、こんなところよりも部活とかやった方がいいと思う、という言葉は飲み込んだ。僕がそんなことを勧めるのは筋違いだ。どの口がそれを言うのかむしろ反論される。

 そして、やはりこの言葉に帰結する。

「そうなんですね」

 肯定も否定もしない。ただ一意見として素通りさせる。質問もしない。だいたいこれで会話は終わってしまう。コミュ障というのはポジティブに考えれば会話を終わらせる天才なのである。まぁそれしかできないからコミュ障なのだが。

「で、でね?その一歩ってことで、私と、その、ラインを・・・・・・」

「あっ僕、ラインやってないので、それでは!」

 にげ・・・・・・帰ろうとする僕を雪本さんはシャツを引っ張り引き留めた。

「じゃあ、他は?何かやってないんですか!?メールでも、電話でもいいです!」

「メー・・・・・・いや、なんでもないです」

「メールならいいんですね!これ私のアドレスです。空メールでもいいので送ってください」

 そう言うと、いつも大人しい印象の雪本さんが、白い肌を真っ赤にしながら慌ただしく図書室を出て行った。残されたのは、丸い文字で書かれたメールアドレスにラインのID、電話番号まで書かれたかわいらしいウサギ柄のメモ用紙と僕。メモを見るに、雪本さんの事前準備が周到すぎる。

「もっと個人情報を大切にした方がいいと思うんだが・・・・・・で、花崎さんはなにかご用ですか?図書室はもう閉館です」

「あれ、ばれちゃった?」

 図書室の入り口に誰か居るなとは思っていたが、当てずっぽうで当たるとは。

「で、さっき雪本さんとアドレス交換してたでしょ?」

「いや、してませんが。ただ図書委員の仕事を淡々とこなして、今終わっただけです」

 嘘は言っていない。交換はしていない。ただ一方的にアドレスを渡されただけだ。

「前田君、ライン持ってなかったんだね~便利なのにもったいない」
 無視か。

「いろいろあるんですよ。こっちにも。では失礼します」

「ちょと待てーい、私ともメアド交換しよっ!」

 本日二度目のシャツ引っ張り。やめてくれ、伸びて破れたらどうしてくれるんだ。

 そういうと花崎さんは無理矢理僕の胸ポケットに紙を押し込み、「雪本さんとだけとか嫉妬するんだからー」と叫んで去って行った。

 今日はなんだったんだ、いったい。

 その後、あまりにも疲れた僕はもらった紙を服のポケットに入れたまま洗濯機を回してしまい、洗濯物は紙片屑でぐしゃぐしゃ、当然メールは送信できず、結果女子二人にむくれられて、なし崩し的にメールアドレス交換という、散々な結果となった。
 ・・・・・・疲れてばっかりだな。
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