新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART3 ~始まりの勇者~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

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第三章その6 ~みんな仲良く!~ ドタバタの調印式編

この的外れな人生に

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「健児! 健児! ちょっと健児!」

 紅葉は機体を起き上がらせ、健児機のそばにたどり着く。機体の右手は切り飛ばされていたので、左手で相手を揺さぶりまった。

 かなりノイズが混じっているが、モニターには彼の姿が映る。

「うるっさいな……少し、黙ってただけだろ……!」

 健児は苦痛に顔を歪めながらも、気丈きじょうにそう答えてくれる。

 機体の胸には大穴が開いているし、助かったのが奇跡だろう。

「健児、大丈夫? どこもやられてない?」

「大丈夫だけど、あいつは?」

 健児の言葉にはっとする紅葉だったが、追撃の気配は無い。

 周囲を見回すと、女は別の女性と対峙たいじしていた。

 ショットカットのその女性は、後輩のちひろに間違い無い。

 ちひろはかなり消耗しているのか、膝をつき、荒い呼吸で女をにらんでいた。

「……頑張ったわねえ、ちひろちゃん。私とこれだけ向き合えるなんて。少し見直したわ」

「……そりゃまあ、ずっと飲んでましたからね」

 ちひろは不敵な笑みを浮かべてみせる。

「こういう時に体はらなきゃ、ただの酔っ払いですし……」

「でもそれもこれでおしまい」

 女はちひろの言葉をさえぎると、やにわに彼女の首を掴んだ。掴んで、そのまま持ち上げた。一体その細腕のどこにそんな力があるのだろうか。

「くっ……!」

 ちひろは苦悶くもんの表情で暴れるが、女は蚊ほどもこたえていない。

「駄目よちひろちゃん、霊気もそろそろ尽きたでしょう?」

 その言葉通り、ちひろを覆う白い霊気は、少しずつ光を弱めていく。

「可愛そう。そんなになるまで戦って、何も見返りがないんだもの。あなたも私と同じよね」

「ち、違いますって先輩……ちょっと、ボケたんじゃないですか……?」

 ちひろは苦しみながらも減らず口を叩いた。黙っていればいいのに、こういう時に強がる子なのだ。

 周りに倒れる人々のため、女の殺意を引き付けるつもりなのだろうか?

 女は機嫌を悪くしたのか、黙ってちひろを放り投げた。そのまま片手のたなごころをちひろに向ける。

 距離を離し、大技で跡形もなく消し去るつもりだろう。

「……!」

 だが紅葉は、そこである人物と目が合った。彼は目配せし、何かを伝えているようだ。

(……そうか、輪太郎……そういう事……?)

 紅葉は素早く機体を操作し、背中からもう1本の砲を降ろした。故障が多かったから、スペアは常に装備していたのだ。

 砲を展開し、左手1本で持ち上げる。

「……お、お前、何する気だ?」

「信じて」

 短く言った。それだけで十分だろう。長い間命を預けて戦ってきたから、健児には伝わるはずだ。

「手が足りない。肩貸してね」

「了解……!」

 紅葉は彼の機体に砲を乗せた。

 だがそこで、餓霊が再び2人に迫る。

 健児の機体が腕を伸ばし、餓霊の首を掴んで止めたが、相手も暴れて反撃する。

 健児はもう動けないのか、それをまともに受け続ける。餓霊の爪が装甲を切り裂き、火花とオイルが激しく舞った。

 ぶれる射軸を修正しながら、紅葉は必死に狙いを定めた。砲の属性添加機が作動、強い光を帯びて輝き始める。

(……ずっとこうしてきたんだよね)

 紅葉はふとそんなふうに思った。

 あの頃、周りじゅう敵だらけで、味方はこの人しかいなかった。

 ……そう、この人しかいない。昔から分かってたはずなのに、どうしてこんなに遠回りしたんだろう。

 間違い続けて生きてきたけど、でも最後ぐらい、この的外れな人生に勝利が欲しい。

 あのバケモノどもを追い返して……この人と一緒に笑って死にたいのだ……!

 意識を集中し、無造作に引き金を引く。焦る気持ちを押し殺し、自分との戦い。弓を射るのと変わらない。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 強い反動と共に、弾丸はうなりを上げてあの女に迫る。

 ちひろに気を取られていた女は、少しだけ反応が遅れたようだ。

「……あら不意打ち? でも残念」

 女は少し笑みを浮かべた。

 咄嗟とっさにも関わらず、強固な魔法防御が弾丸の慣性力を全て無効化する。

 前回の経験から学んだのか、弾は地にめり込む事なく転がされる。恐ろしく精密な魔法の操作だ。

 だが次の瞬間、紅葉は続けざまに弾を発射する。さっきの一射で得た要領で、二の矢、三の矢。

 それでも女は全ての弾の威力を打ち消す。1発も爆発させる事なく、もてあそぶように弾の勢いを無効化するのだ。

 とうとう健児の機体がうなだれ、銃を支えられなくなる。餓霊の首を握り砕き、道連れにした形である。

 紅葉は機体を横に走らせた。よろめいたと言った方が正しいかもしれない。

 そのまま不安定な状態で射撃を繰り返す。

「当たらないって言ってるでしょう?」

 女はまだ余裕である。

 やがて機体の腕に火花が走った。銃を取り落とし、更によろめく紅葉の機体。

 それでも紅葉は強がった。

「…………ねえ、知ってる? 弓道ゆみってね、武道なのに敵がいないの。他の競技は、みんな相手と戦うのにさ」

「何だと……?」

 女はよろめくこちらを目で追っている。

「減らず口を……千鳥足ちどりあしで何が出来る。お前もすぐ灰にしてやる」

「出来るかなあ……出来ないと思うけどなぁ」

「ええいっ、鬱陶しい!! さっさと消えろ、死にぞこないがっっ!!」

 女は手に青紫の光を集め、こちらに向けた。

 もちろん紅葉の予想通りである。

 そう、この相手、イラつくとすぐ口調が荒くなるのだ。

 一見物腰柔らかでも、心に凄い怒りがあるし……この手のタイプは、視野が狭い……!

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 次の瞬間、横手の地面が爆発したように弾けた。健児の機体が起き上がり、凄まじい勢いで地を蹴ったのだ。

 健児は機体の全属性添加機で慣性力を生み出し、爆発的な加速を得る。

 紅葉が横に動いたのは、彼らから注意をらすためだ。

「ちいぃっ!!!」

 女は無数の刃を発生させ、彼の機体へと放つ。次々に装甲を貫き、最早機体は穴だらけだ。

 あのどれが当たっても命は無いが、彼はそんな事ではひるまなかった。

 そう、何があっても止まらない。そういう奴だって、ずっと前から分かってるのだ。

「うおおおおおおっっっ!!!!!」

 健児は機体の腕部装甲にエネルギーを集中させる。

「馬鹿め、そんなものが効くか!!!」

 女は強固な魔法防御で全身を包むが、次の瞬間。

 再び大地が弾け飛び、健児の機体が方向転換。女を無視し、やや右方向に加速したのだ。

「なっ……!?」

 驚く女をよそに、健児機は大地に腕部を叩きつける。

 強烈な破砕の電磁式をまとった腕は、周囲の舗装を陥没させ、破片を巻き上げ……先の弾丸をも誘爆させたのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 大型弾頭数発分のエネルギーと、パワー特化型人型重機・陸王による全力の打撃。

 倒れたちひろは、輪太郎が最後の力を振り絞って抱きかかえ、誘爆範囲から逃がしてくれる。

「だ、だがそんなものが私に……」

 粉塵が舞う中、女の声が聞こえた。分かっている、もちろんあいつには効かないだろう。

 怒り狂う女に、紅葉は伝えた。

「……言ったでしょ。狙ったのは、あんたじゃないんだ……!」

 そう、最初から狙いはあの円形の魔法陣。餓霊どもを生み出す大元だ。

 地面が砕かれ、大きく歪んだ魔法陣からは、巨大な蛇がのたうつように、幾筋もの邪気が伸びた。

 魔法陣はしばらく激しい光を放っていたが、やがて輝きを弱めていく。そして辺りにいた餓霊が、もがきながら溶け崩れていくのだ。

(そうだ、これがやりたかったんだ)

 紅葉は素直にそう思った。

(あの日開いた地獄の蓋を……私達で閉じたかった。みんなの笑顔を取り戻したかったんだ……)

 やがて光が視界を奪う。

 沢山の痛みが今頃になって襲って来た気がするが、紅葉は満足していた。

(これでちょっとは……かたきてたかな……?)
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