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第三章その6 ~みんな仲良く!~ ドタバタの調印式編

第1回・つるちゃんわんぱくカップ!

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 瞬間、強い光が視界にあふれた。やがて光が薄れた時、誠達は広大な草原くさはらに立っていたのだ。

 そして驚いた事に、辺りには他にも大勢の人々がいる。先ほどまで言い争っていたであろう彼らは、皆不思議そうに周囲を見回していた。

 そして彼方かなたもやの中には、巨大な木造神殿が見え隠れしている。

「ひ、ヒメ子……あれって出雲大社か? 今のじゃなくて、古代の出雲大社っていうか……」

「きっとそうね、助けてくれたんだわ!」

 目を輝かせる鶴に、コマがいさんで飛び乗ってくる。

「すごいや鶴、出雲様のおはからいだよ! 縁結びの神器がフルパワーになって、みんなの魂を集めてくれたんだ!」

 だが奇跡はまだ終わらない。再び光がひらめくと、新たに2つの社が浮かび上がったのだ。

 中央の出雲大社から離れ、広場の両端にそびえ立つそれらは……

「あっちは鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうだし、こっちは厳島神社いつくしまじんじゃね。一体どういう事かしら……」

 鶴はしばし考えていたが、やがてぽんと手を打った。

「そうか、これはチャンスなのよ! もうこれは、いっそすっきりさせるべきだわ!」

 鶴は神器の霊界電話を取り出すと、いそいそとダイヤルし始める。

 しばし後、辺りには無数の鎧武者が現れた。武者達は戸惑っていたが、中でも一際大柄で、たくましい若武者が鶴に近寄る。

「……む、娘よ、また我を呼び出したのか? どんだけしつこいのだ……」

 かなりドン引きのその武者こそ、以前霊界電話で鶴と大喧嘩した能登守のとのかみ平教経たいらののりつねその人である。

「そうよのりちゃん、今日は特別なのよ」

「の、のりちゃん!?」

 教経のりつねは目を丸くしているが、鶴は構わず虚空からメガホンを取り出す。

「えーみなさん、私よ、鶴よ! とりあえず聞いて頂戴ちょうだい!」

 人々や武者も、何事かと鶴に注目した。

「色々揉め事があって、ストレスが溜まってると思うわ。お互い言いたい事があるでしょうから、この際とことんやりましょう!」

 そこで虚空に花火が上がり、翼と両足を広げた元気のいい丹頂鶴タンチョウヅルが描き出された。

 地上には神使が横断幕を広げ、そこに『第1回・つるちゃんわんぱくカップ』と書かれている。

「それじゃあ第1回、船団対抗わんぱくカップ! 源平の守り神も見てくれてるし、憎いあんちきしょうにリベンジするチャンスよ!」

「よく分からんが、源氏と再戦出来るのか?」

 さっきまで戸惑っていた教経のりつねは、途端にやる気満々になった。

「ならば断る道理はない。源氏の腰抜けどもは逃げるかもしれんがな?」

「おのれ無礼な、何を申すか!」

 源氏の武者がざわめき立ち、両陣営はにらみ合う。

 神使達が運動会のようなテントを張り、鶴は長机のマイク席に陣取った。

「ただ今から第1種目、ハチマキ合戦を開始します。参加希望者は広場の真ん中に集まってね。ルールは簡単、やっつけてハチマキを奪った方の勝ち。どうせ夢みたいなもんだし、誰も死なないから平気よ」

 当初困惑していた人々も、次第にやる気になってきた。

 なんだ夢なのか、だったらやけくそだ、などと口走りつつ、わらわらと集まって来る。

 全員が竹刀と防具、そしてハチマキを身につけ、ワーワーと声を上げて追いかけっこが始まった。

 さすがに教経のりつねが大活躍しているが、良く見ると、第2船団のパイロットの凛子もノリノリで暴れまわっていた。

「すごいすごい、教経のりつね氏、100人抜きです! あーっと、ここで武蔵坊弁慶むさしぼうべんけいが立ちはだかったーっ! 素晴らしい、互角の打ち合い!」

 鶴は実況しながら興奮し、自分も参加しようとするが、コマに必死に止められていた。

「駄目だよ、君は中立じゃないと!」

「平気よコマ、両方ひっぱたくから」

「ひどい!」

 一方で広場の周囲では、その他の種目が開催されている。

 かけっこや槍投げ、幅跳びにリレー。

 ボウリングに卓球、ボクシングやプロレスもあれば、トランプや花札、早押しクイズやあっち向いてホイで戦う者までいた。

 神使達はホイッスルを片手に、競技の進行や採点などを受け持っている。

「あ、相変わらず酷いなこれは……」

 コーナーポストからジャンプし、ドロップキックを決める源氏武者を眺めながら、誠は引き気味につぶやいた。

「ヒメ子もストレス溜まってたし、いつもの百倍メチャクチャだ……」

 だが思案出来たのもそこまでである。

「さあ黒鷹さん、ここらであたしらの出番だよっ」

 振り返ると、着物にたすきがけをした勝子が、龍と一緒に力こぶポーズをとっている。

「競技が終わるまでに、こっちも準備しちまわなきゃね」

 勝子の後ろのテントでは、全神連の人々が猛烈に働いている。

 大きなかまどに鍋が吹きこぼれ、辺りにおいしそうな匂いが漂った。

「あ、なるほど……って、何人分用意するんですか!?」

 誠が後ずさると、勝子はからからと楽し気に笑った。

「知らないよ、夢の空間なんだから、時間も量も適当さ。勢いで何とかなるさね」

 もう結局全員やけくそなのだ。
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