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第三章その6 ~みんな仲良く!~ ドタバタの調印式編
みんな家ではちょんまげよ?
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そこから先は、猛スピードで事が運んだ。
リモート画面の1つに映る緑色の巨体は、第2船団の旗艦・陸奥に匿われた祭神レオンヴォルグ。
もう1つの画面に映る薄桃色の巨躯は、第4船団の旗艦・出雲に座する祭神アリスクライムである。
……ただし。どちらも初見のはずなのだが、どうも既視感が否めないのだ。
レオンヴォルグの頭部は、硬皮が菅笠のように肥大し、腰には2本の武器?が装着されている。どことなく時代劇の侍のようだ。
一方でアリスクライムは、着物状に変化した外皮と扇?のようなものを備えている。
頭部の硬皮は結い髪や簪のようで、花魁風の鎧をデザインすれば、多分こんな感じになるのだろう。
誠は画面から目を離し、船渡と嵐山に顔を向ける。2人はびくん、となって冷や汗を流した。
「……あ、あのお2人とも。祭神の見た目、なんかおかしいんですけど……?」
誠が言うと、2人は焦りながら弁解した。
「……いっ、いやそれが鳴瀬くん。船団長に就任した時、レオンヴォルグと話をしてさ。もっと人の文化を知りたいっていうんで、時代劇とか白虎隊の話を……こんな時代だからあえて武士道というか、何というか……」
「わ、私もその、適度に伝統文化をね……?」
つまり祭神が人間達の文化を勘違いして学習し、外皮を変形させたらしい。日本に不慣れな外国人に『みんな家ではちょんまげよ?』と洗脳するような非道ぶりだが、ともかく誠は手短に事情を説明した。
予想通り祭神達は快諾する。
「ディアヌスの悪事を食い止められるなら、拙者に異論はござらぬ」
「もちろんわらわも同じ。民草をいたぶるなど美しくありませぬゆえ」
「……そ、そうですか……それは有難い。それではよろしくお願いします」
誠は通信を切ると、船団長達に向き直った。
「それじゃお2人とも、準備はどんとお任せします」
船団長達は誤魔化すように力強く言い放つ。
「ま、任せてくれ鳴瀬くんっ!」
「そ、そうよ鳴瀬少年、私達もやる時はやるからっ!」
その報せは、瞬く間に日本全土を駆け巡った。
負傷から回復した両船団長が、第2・第4船団間の最終同盟の締結を告知したのである。
他の船団は既に同意していたため、これで日本中が一丸となってディアヌスに立ち向かう図式になるのだ。
画面に映る嵐山は、堂々たる態度で告げた。
「過去の諍いはひとまず置いて、今は餓霊、そして魔王との戦いに向け団結すべきです。10年もの長い時を耐え抜き、懸命に戦う力を蓄えて下さった皆様に報いるためにも……そして明るい明日を掴むためにも。私達は、ここに全船団同盟の締結を宣言いたします。締結式は本日12時、場所は……」
画面を見守る鶴は、拳を握って気合いを入れた。
「よーし、これで撒き餌は十分ね、黒鷹!」
「もちろん賭けだけどな。敵さんが、夜祖大神とやらが引っかかってくれなきゃどうしようもないし……」
「上等よ。よその女将だか何だか知らないけど、向こうの邪神と知恵比べだわ!」
鶴は握りこぶしを振り上げ、一同はおう、と気合いを入れた。
「……夜祖大神様、申し上げます」
土蜘蛛一族の青年・笹鐘は、素早く片膝をついて頭を垂れる。
「能登の人間どもが、急遽同盟の締結式を行うようです」
場所はいつもの神社ふうの拝殿、つまり魔族達が共同で利用し、邪神達に謁見するための場所である。
御簾の奥には夜祖が座していたが、他に邪神の姿は見当たらない。
青年の傍に立つ黒衣の女は、楽しげに笑みを浮かべた。
「……あんなにいがみ合っていたのに。黄泉の精兵を前に、尻に火がついたのでしょうか」
「……纏葉、膝をつけ……! 大神様の御前だぞ」
笹鐘が横目で睨むと、女は特に反論するでもなく膝をついた。
笹鐘は再び夜祖に顔を向ける。
「如何いたしましょう。泣き暮らしの姫君に襲撃させますか?」
「………………興醒めだな。どう見ても罠であろう」
夜祖は脇息、つまり足つきの肘掛けに手を置いたまま、静かに言った。
「……なぜやるなら船でやらぬのだ。邪気の薄い海上なら、向こうの神人も警戒しやすかろう。陸でやる事自体が罠の証だ」
夜祖は特に興味も無さそうに言うが、そこで忌々しげに頬杖をついた。
「…………とは言え捨て置けば、むざむざ契りを結ばせたと罵るだろうな。双角天や無明はともかく、地の底の高位邪神どもが……」
「……どうも足手まといはお味方にございますな」
笹鐘の言葉に、夜祖はわずかに口元を緩めた。
「……まあよい。あちらの知恵がどれ程のものか……見極めるのも面白いかも知れん」
夜祖はそこで女の方に目をやった。
「……纏葉よ。泣き暮らしを動かして良いが、あれはまだ完全ではない。真っ向からは行かせず、少し気をそらしてから狙わせろ」
「仰せのままに」
女がうやうやしく頭を下げると、夜祖は光に包まれ消えてしまった。
リモート画面の1つに映る緑色の巨体は、第2船団の旗艦・陸奥に匿われた祭神レオンヴォルグ。
もう1つの画面に映る薄桃色の巨躯は、第4船団の旗艦・出雲に座する祭神アリスクライムである。
……ただし。どちらも初見のはずなのだが、どうも既視感が否めないのだ。
レオンヴォルグの頭部は、硬皮が菅笠のように肥大し、腰には2本の武器?が装着されている。どことなく時代劇の侍のようだ。
一方でアリスクライムは、着物状に変化した外皮と扇?のようなものを備えている。
頭部の硬皮は結い髪や簪のようで、花魁風の鎧をデザインすれば、多分こんな感じになるのだろう。
誠は画面から目を離し、船渡と嵐山に顔を向ける。2人はびくん、となって冷や汗を流した。
「……あ、あのお2人とも。祭神の見た目、なんかおかしいんですけど……?」
誠が言うと、2人は焦りながら弁解した。
「……いっ、いやそれが鳴瀬くん。船団長に就任した時、レオンヴォルグと話をしてさ。もっと人の文化を知りたいっていうんで、時代劇とか白虎隊の話を……こんな時代だからあえて武士道というか、何というか……」
「わ、私もその、適度に伝統文化をね……?」
つまり祭神が人間達の文化を勘違いして学習し、外皮を変形させたらしい。日本に不慣れな外国人に『みんな家ではちょんまげよ?』と洗脳するような非道ぶりだが、ともかく誠は手短に事情を説明した。
予想通り祭神達は快諾する。
「ディアヌスの悪事を食い止められるなら、拙者に異論はござらぬ」
「もちろんわらわも同じ。民草をいたぶるなど美しくありませぬゆえ」
「……そ、そうですか……それは有難い。それではよろしくお願いします」
誠は通信を切ると、船団長達に向き直った。
「それじゃお2人とも、準備はどんとお任せします」
船団長達は誤魔化すように力強く言い放つ。
「ま、任せてくれ鳴瀬くんっ!」
「そ、そうよ鳴瀬少年、私達もやる時はやるからっ!」
その報せは、瞬く間に日本全土を駆け巡った。
負傷から回復した両船団長が、第2・第4船団間の最終同盟の締結を告知したのである。
他の船団は既に同意していたため、これで日本中が一丸となってディアヌスに立ち向かう図式になるのだ。
画面に映る嵐山は、堂々たる態度で告げた。
「過去の諍いはひとまず置いて、今は餓霊、そして魔王との戦いに向け団結すべきです。10年もの長い時を耐え抜き、懸命に戦う力を蓄えて下さった皆様に報いるためにも……そして明るい明日を掴むためにも。私達は、ここに全船団同盟の締結を宣言いたします。締結式は本日12時、場所は……」
画面を見守る鶴は、拳を握って気合いを入れた。
「よーし、これで撒き餌は十分ね、黒鷹!」
「もちろん賭けだけどな。敵さんが、夜祖大神とやらが引っかかってくれなきゃどうしようもないし……」
「上等よ。よその女将だか何だか知らないけど、向こうの邪神と知恵比べだわ!」
鶴は握りこぶしを振り上げ、一同はおう、と気合いを入れた。
「……夜祖大神様、申し上げます」
土蜘蛛一族の青年・笹鐘は、素早く片膝をついて頭を垂れる。
「能登の人間どもが、急遽同盟の締結式を行うようです」
場所はいつもの神社ふうの拝殿、つまり魔族達が共同で利用し、邪神達に謁見するための場所である。
御簾の奥には夜祖が座していたが、他に邪神の姿は見当たらない。
青年の傍に立つ黒衣の女は、楽しげに笑みを浮かべた。
「……あんなにいがみ合っていたのに。黄泉の精兵を前に、尻に火がついたのでしょうか」
「……纏葉、膝をつけ……! 大神様の御前だぞ」
笹鐘が横目で睨むと、女は特に反論するでもなく膝をついた。
笹鐘は再び夜祖に顔を向ける。
「如何いたしましょう。泣き暮らしの姫君に襲撃させますか?」
「………………興醒めだな。どう見ても罠であろう」
夜祖は脇息、つまり足つきの肘掛けに手を置いたまま、静かに言った。
「……なぜやるなら船でやらぬのだ。邪気の薄い海上なら、向こうの神人も警戒しやすかろう。陸でやる事自体が罠の証だ」
夜祖は特に興味も無さそうに言うが、そこで忌々しげに頬杖をついた。
「…………とは言え捨て置けば、むざむざ契りを結ばせたと罵るだろうな。双角天や無明はともかく、地の底の高位邪神どもが……」
「……どうも足手まといはお味方にございますな」
笹鐘の言葉に、夜祖はわずかに口元を緩めた。
「……まあよい。あちらの知恵がどれ程のものか……見極めるのも面白いかも知れん」
夜祖はそこで女の方に目をやった。
「……纏葉よ。泣き暮らしを動かして良いが、あれはまだ完全ではない。真っ向からは行かせず、少し気をそらしてから狙わせろ」
「仰せのままに」
女がうやうやしく頭を下げると、夜祖は光に包まれ消えてしまった。
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