55 / 87
第三章その5 ~どうしよう!~ 右往左往のつるちゃん編
妖怪の棲み家(すみか)
しおりを挟む
一方その頃、第2船団は特雪の待機所である。
と言っても以前のプレハブ建屋は敵の勢力下になったため、軍用の大型テントを詰め所代わりにしているのだ。
木製の看板だけは何とか持ち出されていたので、今もテントの外に飾られている。
恭介は他の隊員と共に休憩していたが、宙を見つめて立ち上がった。
「恭介……? あんたどうしたのさ」
気の強そうな……いや、実際気が強すぎる部隊長である凛子は、パイプ椅子に腰掛けたまま、訝しげにこちらを見ている。
胸には竹刀を抱いており、仮眠中にも武器を手放さないのが彼女らしい。
「どうした恭介、またトイレか?」
「随分近いんだべな」
毛布に包まっていた孝二、しぐれも声をかけてくるが、恭介はぺこりと頭を下げた。
「みんなすまん。俺は今から、長いトイレに行かなきゃならない。もしかしたらケガしてくるかも知れないけど、ほんとにごめんっ」
「恭介……」
孝二は身を起こし、真剣な顔でこちらを見つめた。
「……それはもしかして、世のため人のためのアレか?」
「あのお姫さんと関係ある事だべな?」
一連の騒動を乗り越えてきた2人は、もう大体の予想がついているらしい。
凛子は真っ直ぐこちらを見据え、問いかけてくる。
「それって、あたいらが手助け出来ない事かい……?」
「そういう事。みんなは霊力使えないだろ?」
恭介が言うと、孝二達は頷いた。
「……そうか、なら行って来い。お前は俺達の隊の誇りだ」
「……だべな。ちょっと舌は過ぎるけんども」
「ここはあたいらが守ってるから、しっかりな」
凛子は片手の親指を立て、ぎこちなくウインクしてくれた。ちゃっかり歯も光らせているから、いつもの恭介の真似なのだろう。
「すまないみんな、行って来るっ!」
恭介も親指を立て、同じようにウインクする。
走りながら髪形を整え、スタジャンのホコリをはらった。
どんな時でもお洒落は基本。命が消えるぎりぎりまで、カッコつけるのが男の道だ。
憧れの伊達政宗公もそうだったはずだ、と思いながら、恭介は寒空の下をひた走った。
「ひんやりして、いかにも怪物が出てきそうな所ね」
鶴はそう言いながらも歩みを進め、どんどん路地へ入り込んでいく。
コマは小走りに追いかけながら、横にある像を見上げた。
「何だろうねこの町。妖怪の像がたくさんあるよ」
誠達が到着したのは、日本海側の西部にある避難区・島根半島である。
始まりの地である九州に近く、何度も熾烈な攻撃に晒されてきた場所だったが、人々の強い要望により重点的に守られてきたのだ。
半島中央にある宍道湖から東西に太い水路を掘り、そこに海水を引き入れた事で餓霊どもの侵攻を防いでいる。
本土にある大きな社の所在地としては、伊勢神宮のある志摩半島、そして出雲大社のある島根半島だけが死守されているのだ。
そんなありがたい半島の東……旧地名で境港の路地裏に、当該施設は聳えていた。
目の前の平屋根の洋風建築がそれなのだが、船団長である嵐山の驚きは、今は別のところにあった。
「えっ、ええええっ……!?」
建屋近くで出迎えた面々を眺め、嵐山は驚いている。
「あ、あなた達、ここで何やってるの……?」
「いやあ、とうとうバレちゃいましたね。あたしの算段だと、もちっと誤魔化せるはずだったんですけど」
第4船団のエースパイロットであり、全神連の精鋭でもある湖南は、そう言ってそろばんで肩を叩いた。
普段のパイロットスーツではなく、古式の衣裳に身を包んだ彼女は、修験者のような凛々しい姿である。
「パイロットと全神連のお役目、両立は大変だったんですよ~。お給料も上げてくれると嬉しいですね」
「こら湖南、がめついですわよ?」
そこで津和野がたしなめる。
津和野は船団長達を交互に見つめ、安堵したように言った。
「お2人とも、魂はだいぶ定着してきたみたいですわね。やっぱり出雲の大神様……大国主様は偉大です。どうぞ感謝して下さい」
「……そ、それはもちろん、感謝してますが……」
船渡は戸惑いながらも答え、そこで傍らの恭介を見た。
「ていうか恭介、もしかしてお前も……?」
「そーです船団長。俺もみんなと同じく、人知れず世を守るお役目なんでっ」
恭介は歯を光らせながら親指を立てる。無駄に爽やかな風が吹き抜けるが、それはコマの団扇で起こしているのだった。
船渡は思わず頭を抱えた。
「ま、まったくちひろといい、輪太郎といい……何でもっと早く言わないんだよ……」
「そ、そうよ、もうちょっとこう、気持ちの準備をさせてくれれば……」
嵐山も納得いかない様子だったが、そこで槍を持った少年・才次郎が戻ってきた。
頭には先の尖がった兜を被り、可愛い少年武者のような様子である。
「姫様、他の面子もそろったよ。ぐるっと周囲を囲んでる」
才次郎は槍で建物の方を指し示した。
と言っても以前のプレハブ建屋は敵の勢力下になったため、軍用の大型テントを詰め所代わりにしているのだ。
木製の看板だけは何とか持ち出されていたので、今もテントの外に飾られている。
恭介は他の隊員と共に休憩していたが、宙を見つめて立ち上がった。
「恭介……? あんたどうしたのさ」
気の強そうな……いや、実際気が強すぎる部隊長である凛子は、パイプ椅子に腰掛けたまま、訝しげにこちらを見ている。
胸には竹刀を抱いており、仮眠中にも武器を手放さないのが彼女らしい。
「どうした恭介、またトイレか?」
「随分近いんだべな」
毛布に包まっていた孝二、しぐれも声をかけてくるが、恭介はぺこりと頭を下げた。
「みんなすまん。俺は今から、長いトイレに行かなきゃならない。もしかしたらケガしてくるかも知れないけど、ほんとにごめんっ」
「恭介……」
孝二は身を起こし、真剣な顔でこちらを見つめた。
「……それはもしかして、世のため人のためのアレか?」
「あのお姫さんと関係ある事だべな?」
一連の騒動を乗り越えてきた2人は、もう大体の予想がついているらしい。
凛子は真っ直ぐこちらを見据え、問いかけてくる。
「それって、あたいらが手助け出来ない事かい……?」
「そういう事。みんなは霊力使えないだろ?」
恭介が言うと、孝二達は頷いた。
「……そうか、なら行って来い。お前は俺達の隊の誇りだ」
「……だべな。ちょっと舌は過ぎるけんども」
「ここはあたいらが守ってるから、しっかりな」
凛子は片手の親指を立て、ぎこちなくウインクしてくれた。ちゃっかり歯も光らせているから、いつもの恭介の真似なのだろう。
「すまないみんな、行って来るっ!」
恭介も親指を立て、同じようにウインクする。
走りながら髪形を整え、スタジャンのホコリをはらった。
どんな時でもお洒落は基本。命が消えるぎりぎりまで、カッコつけるのが男の道だ。
憧れの伊達政宗公もそうだったはずだ、と思いながら、恭介は寒空の下をひた走った。
「ひんやりして、いかにも怪物が出てきそうな所ね」
鶴はそう言いながらも歩みを進め、どんどん路地へ入り込んでいく。
コマは小走りに追いかけながら、横にある像を見上げた。
「何だろうねこの町。妖怪の像がたくさんあるよ」
誠達が到着したのは、日本海側の西部にある避難区・島根半島である。
始まりの地である九州に近く、何度も熾烈な攻撃に晒されてきた場所だったが、人々の強い要望により重点的に守られてきたのだ。
半島中央にある宍道湖から東西に太い水路を掘り、そこに海水を引き入れた事で餓霊どもの侵攻を防いでいる。
本土にある大きな社の所在地としては、伊勢神宮のある志摩半島、そして出雲大社のある島根半島だけが死守されているのだ。
そんなありがたい半島の東……旧地名で境港の路地裏に、当該施設は聳えていた。
目の前の平屋根の洋風建築がそれなのだが、船団長である嵐山の驚きは、今は別のところにあった。
「えっ、ええええっ……!?」
建屋近くで出迎えた面々を眺め、嵐山は驚いている。
「あ、あなた達、ここで何やってるの……?」
「いやあ、とうとうバレちゃいましたね。あたしの算段だと、もちっと誤魔化せるはずだったんですけど」
第4船団のエースパイロットであり、全神連の精鋭でもある湖南は、そう言ってそろばんで肩を叩いた。
普段のパイロットスーツではなく、古式の衣裳に身を包んだ彼女は、修験者のような凛々しい姿である。
「パイロットと全神連のお役目、両立は大変だったんですよ~。お給料も上げてくれると嬉しいですね」
「こら湖南、がめついですわよ?」
そこで津和野がたしなめる。
津和野は船団長達を交互に見つめ、安堵したように言った。
「お2人とも、魂はだいぶ定着してきたみたいですわね。やっぱり出雲の大神様……大国主様は偉大です。どうぞ感謝して下さい」
「……そ、それはもちろん、感謝してますが……」
船渡は戸惑いながらも答え、そこで傍らの恭介を見た。
「ていうか恭介、もしかしてお前も……?」
「そーです船団長。俺もみんなと同じく、人知れず世を守るお役目なんでっ」
恭介は歯を光らせながら親指を立てる。無駄に爽やかな風が吹き抜けるが、それはコマの団扇で起こしているのだった。
船渡は思わず頭を抱えた。
「ま、まったくちひろといい、輪太郎といい……何でもっと早く言わないんだよ……」
「そ、そうよ、もうちょっとこう、気持ちの準備をさせてくれれば……」
嵐山も納得いかない様子だったが、そこで槍を持った少年・才次郎が戻ってきた。
頭には先の尖がった兜を被り、可愛い少年武者のような様子である。
「姫様、他の面子もそろったよ。ぐるっと周囲を囲んでる」
才次郎は槍で建物の方を指し示した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
【中華ファンタジー】天帝の代言人~わけあって屁理屈を申し上げます~
あかいかかぽ
キャラ文芸
注意*主人公は男の子です
屁理屈や言いがかりにも骨や筋はきっとある!?
道士になるべく育てられていた少年、英照勇。
ある冬の夜、殺し屋に命を狙われて、たまたま出会った女侠に助けられたものの、彼女が言うには照勇は『皇孫』らしいのだ……。
は? そんなの初耳なんですけど……?。
屁理屈と言いがかりと詭弁と雄弁で道をひらく少年と、わけあり女侠と涙もろい詐欺師が旅する物語。
後宮が出てこない、漂泊と変転をくりかえす中華ファンタジー。
一応女性向けにしています。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる