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第三章その5 ~どうしよう!~ 右往左往のつるちゃん編
男鹿半島工業区1
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秋田県西部に位置する男鹿半島工業区は、全長十数キロ程の大型工場疎開区である。
守りの要は、半島の入り口にあり、周囲に死角の無い寒風山砲撃陣地。そして八郎潟調整池を拡張し、海水を引き入れた巨大な堀である。
餓霊の進行を寄せ付けぬこの場所は、早くから主要な軍需物資の生産拠点にあてられていた。
敵の勢力拡大につれ、陸地的には孤立していたが、海上航路は健在であり、完成した物資は今も各地に輸送されているのだ。
「到着! ここがなまはげの故郷ね。みんな、早くこれを付けて」
鶴は額になまはげのミニお面を付け、皆にもしっかりお面を配る。
「ねえ鶴、これじゃ何の集団か分からないよ」
「甘いわコマ、郷に入れば郷に従うのよ。秋田じゃこれが正装だわ」
鶴がそう言うので、一同は仕方なくなまはげ衣装で歩みを進める。
移築された『なまはげ館』を実家のように違和感なく通り抜けると、巨大な工場群が見えてきた。
「ここの工場から、さっきと同じ気配がするね」
コマはずり落ちそうになるお面に苦心しつつ、前足で目の前の工場を指した。
「……………バカな…………イミナ添機の本工場じゃないか……!!!」
船渡が驚きの声を上げる。
「イミナ添機……ですか?」
誠が尋ねると、船渡は戸惑いながらも説明してくれた。
「イミナ属性添加機械工業……略称イミナ添機さ。ここ1年ぐらいで急激に勢いを増して、資金面でもかなり融通してくれてるんだが……」
「たった1年で急激に?」
誠は思わず聞き返した。
「ああ。最近では対ディアヌス戦を見据えて、新しい人型重機の開発も行ってた。新技術の特殊人工筋肉や属性添加機をのせて、現在最終試験中だったんだが……」
船渡の説明に、誠は考え込んだ。
「……第5船団でも、急激にある男が台頭して、それを敵が後押ししてましたけど……第2船団でも同様だとすれば、ちょっと怪しいですね」
「任せて黒鷹、それをこれから調べるわ」
鶴はさっそく敷地内に踏み込んだ。
しばらく隠れながら進む一同だったが、中には人の気配がない。照明は全て落とされ、物音一つ聞こえてこないのだ。
鶴は段々大胆になって、遠慮なくあちこちドアを開けていくが、どの部屋にも人の姿は無かった。
「あり得ない。メインの工場が抜け殻だなんて。頻繁に連絡を取っていたのに……」
動揺する船渡氏をよそに、鶴は腕組みしてコマに尋ねた。
「特に悪い子はいないわね。コマ、邪気の残り香はどうかしら」
「うーん、工場の入り口まではあったんだけどね」
コマも困った顔で周りを見回す。
誠もしばらく周囲を観察していたが、やがて気になるものを発見した。
「ヒメ子、コマ、あの奥の建物おかしくないか?」
誠は奥まった青紫の建屋を指差す。
「他の工場は壁がシンプルなのに、あそこだけ妙にごてごてしてるだろ。色んなものがくっついて、こないだの砦みたいに見えるけど」
「そうか黒鷹、建物に結界を張ってるんだ! さっそく行ってみよう!」
コマは飛び上がり、一目散に駆け出した。
守りの要は、半島の入り口にあり、周囲に死角の無い寒風山砲撃陣地。そして八郎潟調整池を拡張し、海水を引き入れた巨大な堀である。
餓霊の進行を寄せ付けぬこの場所は、早くから主要な軍需物資の生産拠点にあてられていた。
敵の勢力拡大につれ、陸地的には孤立していたが、海上航路は健在であり、完成した物資は今も各地に輸送されているのだ。
「到着! ここがなまはげの故郷ね。みんな、早くこれを付けて」
鶴は額になまはげのミニお面を付け、皆にもしっかりお面を配る。
「ねえ鶴、これじゃ何の集団か分からないよ」
「甘いわコマ、郷に入れば郷に従うのよ。秋田じゃこれが正装だわ」
鶴がそう言うので、一同は仕方なくなまはげ衣装で歩みを進める。
移築された『なまはげ館』を実家のように違和感なく通り抜けると、巨大な工場群が見えてきた。
「ここの工場から、さっきと同じ気配がするね」
コマはずり落ちそうになるお面に苦心しつつ、前足で目の前の工場を指した。
「……………バカな…………イミナ添機の本工場じゃないか……!!!」
船渡が驚きの声を上げる。
「イミナ添機……ですか?」
誠が尋ねると、船渡は戸惑いながらも説明してくれた。
「イミナ属性添加機械工業……略称イミナ添機さ。ここ1年ぐらいで急激に勢いを増して、資金面でもかなり融通してくれてるんだが……」
「たった1年で急激に?」
誠は思わず聞き返した。
「ああ。最近では対ディアヌス戦を見据えて、新しい人型重機の開発も行ってた。新技術の特殊人工筋肉や属性添加機をのせて、現在最終試験中だったんだが……」
船渡の説明に、誠は考え込んだ。
「……第5船団でも、急激にある男が台頭して、それを敵が後押ししてましたけど……第2船団でも同様だとすれば、ちょっと怪しいですね」
「任せて黒鷹、それをこれから調べるわ」
鶴はさっそく敷地内に踏み込んだ。
しばらく隠れながら進む一同だったが、中には人の気配がない。照明は全て落とされ、物音一つ聞こえてこないのだ。
鶴は段々大胆になって、遠慮なくあちこちドアを開けていくが、どの部屋にも人の姿は無かった。
「あり得ない。メインの工場が抜け殻だなんて。頻繁に連絡を取っていたのに……」
動揺する船渡氏をよそに、鶴は腕組みしてコマに尋ねた。
「特に悪い子はいないわね。コマ、邪気の残り香はどうかしら」
「うーん、工場の入り口まではあったんだけどね」
コマも困った顔で周りを見回す。
誠もしばらく周囲を観察していたが、やがて気になるものを発見した。
「ヒメ子、コマ、あの奥の建物おかしくないか?」
誠は奥まった青紫の建屋を指差す。
「他の工場は壁がシンプルなのに、あそこだけ妙にごてごてしてるだろ。色んなものがくっついて、こないだの砦みたいに見えるけど」
「そうか黒鷹、建物に結界を張ってるんだ! さっそく行ってみよう!」
コマは飛び上がり、一目散に駆け出した。
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