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第三章その5 ~どうしよう!~ 右往左往のつるちゃん編

魂をくっつけろ

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 誠達はすぐに現場に駆けつけた。数台の車両と軍用テントが集まり、それを大勢の人が取り囲んでいる。

 人々は殺気立ち、容易には近づけそうになかったが、気付いた恭介が駆け寄って来た。

「おおい、通してくれ! 船団長の知り合いなんだっ!」

 恭介は肩を押さえながら、気丈に誠達を案内する。自慢のヘアスタイルは乱れ、青いスタジアムジャンパーも血に汚れている。

「前線の士気がガタ落ちだったから、お2人が直々に慰問したんだ。元レジェンド隊だし、むっちゃ人望あるから……いてっ!」

 恭介は時折苦しげに顔をしかめるが、鶴が治療しようとすると、かたくなにそれをこばんだ。

「大丈夫、姫様の霊力ちからはあの2人にとっといて欲しいんだ」

 一見うわついて見える彼だったが、根っこの所は東北人の忍耐強さがあるのだろう。

 バス型医療車のドア付近には、特雪のパイロット達が落ち着かない様子で右往左往していたが、恭介を見ると声を上げた。

「恭介おめっ、相変わらず長いトイレだべな」

「しぐれのためにめかしこんでたのさ。それでその、姫様達が」

「姫様……ああっ!? でかしたべ恭介!!」

 パイロット達は、鶴を見て声を弾ませる。

「この鶴ちゃんが来れば安心よ。さっそくケガを治すわね」

「助かるよ、こっち来て! あたいらもどうしていいか分からなくてさ」

 パワフルな凛子が治療車のドアを乱暴に開け、鶴を中に案内する。

 医療班は目を丸くしていたが、凛子達がすごい気迫で訴えたため、特に止められる事はなかった。

 横たわる船渡氏はあちこち止血帯で覆われ、輸血や点滴のチューブが多数繋がれていた。

「容態はどうですか」

 誠が尋ねると、医療班は戸惑いながら答えてくれた。

「そ、その、極めて不安定な状態です。外傷の割にバイタルが乱れて……こんな患者は初めてです」

 コマはベッドに飛び乗り、船戸氏の様子を観察する。

「魔法傷……それもかなり高度なやり口だね。術で瞬間移動つつ、一瞬で攻撃したんだ。移動と攻撃の術を併用して、終わると同時に姿を消す。こんな芸当、並の能力者じゃ無理だよ」

 コマの後を恭介が続ける。

「そう、そうなんだよコマさん。俺も見張ってたんだけど、全く何も分からなくてさ。気配のけの字もないうちに何か光って、気付いたら吹っ飛ばされてた」

「恭介が気付かないんじゃ、やっぱりかなりの手練てだれだね」

 コマは頷き、鶴の方を見上げた。

「鶴、これはお医者じゃ治せないよ。魂が抜けかけてるから、君の神器でくっ付けるんだ。急場はそれでしのぐしかない」

「魂をくっつける? そんな神器があるのかしら」

「一覧に入ってたと思うよ。魂と肉体のご縁を結ぶ……大国主様の神器だから、打ち出の小槌のそばにないかな」

 鶴が神器のタブレット画面を取り出し、道具の一覧が表示されると、確かに打ち出の小槌の近くに当該の表示が見られた。

「あったわ、霊気が小槌と同じ! 『宇都志縁之国玉うつしえにしのくにたま』、これね」

 鶴がその文字を指で触ると、目の前に黄金色に輝く玉が現れた。

 鶴はさっそく船渡氏に使おうとするが、そこでコマが止めに入った。

「待った鶴! それって1級神器だから、一度使うとしばらく駄目なんだ。船渡さんだけ治療したら、嵐山さんが死んじゃう」

「じゃあどうするの?」

「一緒にやるんだよ。あっちの船団長も呼んで来て、同時に神器を使うしかない」

「分かったわ、ちょっと待ってて」

 鶴は頷くと、光に包まれて姿を消した。

 しばし後、もう一台の治療車がテントをなぎ倒しながら近づいてきた。助手席に陣取る鶴が、強引に運転手に命じているのである。

 一同は救護班にも手伝ってもらい、嵐山の眠るベッドを、台車ごと最初の車に運び込んだ。船渡氏のベッドの隣に並べ、準備完了である。

「さあいくわよ!」

 鶴が気合いモリモリで黄金色の玉を掲げ、何事か念じ始める。やがてまばゆい光が車内に溢れた。

 1秒……2秒……!

 激しい光が薄れた時、船団長達の表情は安らいでいた。

 外傷もすっかり消えて、船団長達かれらはうっすらと目を開けたのだ。

「やった、でかしたべ恭介!!」

 しぐれは恭介に抱きついて涙を流す。

 治療班も飛び上がって喜んだが、当の船団長達は怪訝けげんそうである。

「こ、ここは……?」

「一体あたし、どうして……?」

 船団長達は身を起こし、そこでお互いの存在に気付いた。

「うわ、何でお前がここにっ!?」

「あっ、あんたこそ、何で隣に寝てるのよっ!?」

「それはこっちのセリフだ!」

「何よまったく、ふざけないで!」

 船団長達は見事なシンクロ具合で起き上がると、車を降り、別々の方向に立ち去っていく。

 肩をいからせ、大またにずんずん歩いていくと、そこでぱたりと倒れ伏した。

 倒れた体から魂が抜け、なおも構わず歩いていくので、コマが慌てて呼び止めた。

「駄目だよ2人とも、早く戻って! 魂が抜けてるから!」

「え、魂?」

「魂って何よ?」

 2人は振り返り、そこで自分の体がうつぶせに倒れているのを発見する。

『ええええええっ!!!???』

 絶叫する2人を促し、コマと鶴が体に押し込むと、2人は恐る恐る身を起こした。

「大怪我して魂が抜けてたのを、縁結びの神器で無理やりくっつけたんだ。体に馴染むまでは、鶴からあまり離れないでね」

 コマの説明に、2人は恐る恐る顔を見合わせ、それから戸惑うように目を逸らした。
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