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第三章その5 ~どうしよう!~ 右往左往のつるちゃん編
災いはつぎつぎと
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避難区は激しく混乱していた。
あの新手の骸骨どもの攻撃で、両船団ともに大きく後退せざるを得なかったからだ。
人々を誘導する兵の言動にも余裕が無かった。
絶望的な状況下、たった一つの心の支えだった鶴達が敗北した事で、再び恐怖心が顔を出したのだ。
絶望の使者が押し寄せて、ついに自分達のすぐ傍までやってきた。いよいよ終わりの時が来たのか?
そんな畏れが渦巻いて、避難区の人々を包み込んでいたのだ。
誠達は再び全神連の詰め所に集まり、対策を練る事にした。
「こりゃーいかん。みんなかなりショックを受けとるぜ」
西国本部の筆頭・高山は、そう言って短髪の頭をガシガシ掻いた。作務衣の懐に手を入れ、落ち着きなく右往左往する。
「ちょっとあんた、一旦座りな。埃が立つじゃないか」
勝子もそう言いつつしきりに髪を直している。
かつてない危機に直面し、皆どうしていいか分からないのだ。
高山はうろうろしつつ、急に振り返って尋ねた。
「パイロットの連中はどうした? 間近で見たあいつらがいなきゃな」
「……今は休んでもらってるの。相当疲れてたから……」
因幡はそう言って、困ったように目を細めた。
「それにしても、いきなりあんな高位の邪霊が出てくるなんて。敵も切り札を出してきたのかしら……」
一同はぽつりぽつりと意見を口にするが、どれも根本的な解決には至らない。
疲れて寝息を立てている鶴をよそに、誠は輪太郎と相談を続けていた。
「今回の戦いで、ある程度の情報は分かりましたね。あの黄泉の軍勢は、仮に幽鬼兵団とでも名付けましょうか」
輪太郎はパソコンに入力した情報を、広間のテレビ画面に映し出した。
「幽鬼兵団は強力な黄泉の正規軍。不完全な具現化とは言え、本来はそうそう呼べるものではありません。それを可能にしているのがあの柱……そして、地下に張り巡らされた邪気の網目のはずです」
画面には地下の邪気網、そして柱の分布が示されていく。
「網目は陸の奥地から、時間をかけて広がってきたのでしょう。地下深くを少しずつ近付き、網が覆い尽くしたエリアには、地上に筍のように柱が伸びる。柱と柱に囲まれた範囲には、反魂の術が複雑な相乗効果で掛け合わされ、幽鬼兵団が姿を現します。そして柱・躯・地下の網のいずれが破損しても、周囲からエネルギーが供給され、復活する仕様だと思われます」
画面に映し出された幽鬼兵団の姿に、誠は歯噛みした。
「……って事は輪太郎さん、あの敵の砦も囮だったって事でしょうか。こっちが上に気を取られてる間に、地下で計画を進めていたとか……」
「恐らくそう思われます。あれだけ濃い邪気霧があれば、下まで気が回りませんから」
誠の言葉に、輪太郎は頷いた。
「油断して同盟交渉に気を取られていたのも仇となりましたね。おかげでますます前線に手が回りませんでしたし」
「……全部手の平の上だったのか……!」
誠はぎゅっと手を握り締めた。
(こっちの敵は、今までの相手とまるで異質だ……)
そう、人間側の動きを全て見透かし、巧妙に裏をかいてくるのだ。
(魔王が近くなってきたら、こんな相手ばかりなのか……?)
誠は少し弱気になりそうだったが、首を振って悪い考えを追い払った。
輪太郎はメガネを光らせながら、淡々とデータを整理していく。
「解析したところ、地下の邪気網は今のところ拡大を止めています…………が、エネルギーそのものは蓄積されているようです。恐らく一定時間ごとに爆発的に成長するのでしょう」
「時期はどのぐらいですか?」
「…………かなり近いはずです。恐らくは…………数日中に」
輪太郎の言葉に全員が絶句した。
たった数日であの幽鬼兵団の攻略法を見つけなければならないのか。
しばし無言の一同だったが、そこで虚空に光が輝き、ショートカットで軍服姿の女性……つまりちひろが姿を現した。
「みっ、みんなごめんっ、ちょっと大変なのよ!!」
ちひろは手を振り回し、つんのめりながら叫んだ。
「どうしたんです、ちひろ」
「どうしたじゃないのよこのメガネっ!」
ちひろは血相を変えて輪太郎を掴むと、激しく揺さぶる。メガネがせわしなく上下し、今にも輪太郎から分離しそうだったが、ちひろは構わずまくしたてた。
「まっ、また襲撃が起きて、船団長が負傷したの! それも2人同時に!!」
「何だって!?」
全神連の詰め所は、最早騒然となっていた。
あの新手の骸骨どもの攻撃で、両船団ともに大きく後退せざるを得なかったからだ。
人々を誘導する兵の言動にも余裕が無かった。
絶望的な状況下、たった一つの心の支えだった鶴達が敗北した事で、再び恐怖心が顔を出したのだ。
絶望の使者が押し寄せて、ついに自分達のすぐ傍までやってきた。いよいよ終わりの時が来たのか?
そんな畏れが渦巻いて、避難区の人々を包み込んでいたのだ。
誠達は再び全神連の詰め所に集まり、対策を練る事にした。
「こりゃーいかん。みんなかなりショックを受けとるぜ」
西国本部の筆頭・高山は、そう言って短髪の頭をガシガシ掻いた。作務衣の懐に手を入れ、落ち着きなく右往左往する。
「ちょっとあんた、一旦座りな。埃が立つじゃないか」
勝子もそう言いつつしきりに髪を直している。
かつてない危機に直面し、皆どうしていいか分からないのだ。
高山はうろうろしつつ、急に振り返って尋ねた。
「パイロットの連中はどうした? 間近で見たあいつらがいなきゃな」
「……今は休んでもらってるの。相当疲れてたから……」
因幡はそう言って、困ったように目を細めた。
「それにしても、いきなりあんな高位の邪霊が出てくるなんて。敵も切り札を出してきたのかしら……」
一同はぽつりぽつりと意見を口にするが、どれも根本的な解決には至らない。
疲れて寝息を立てている鶴をよそに、誠は輪太郎と相談を続けていた。
「今回の戦いで、ある程度の情報は分かりましたね。あの黄泉の軍勢は、仮に幽鬼兵団とでも名付けましょうか」
輪太郎はパソコンに入力した情報を、広間のテレビ画面に映し出した。
「幽鬼兵団は強力な黄泉の正規軍。不完全な具現化とは言え、本来はそうそう呼べるものではありません。それを可能にしているのがあの柱……そして、地下に張り巡らされた邪気の網目のはずです」
画面には地下の邪気網、そして柱の分布が示されていく。
「網目は陸の奥地から、時間をかけて広がってきたのでしょう。地下深くを少しずつ近付き、網が覆い尽くしたエリアには、地上に筍のように柱が伸びる。柱と柱に囲まれた範囲には、反魂の術が複雑な相乗効果で掛け合わされ、幽鬼兵団が姿を現します。そして柱・躯・地下の網のいずれが破損しても、周囲からエネルギーが供給され、復活する仕様だと思われます」
画面に映し出された幽鬼兵団の姿に、誠は歯噛みした。
「……って事は輪太郎さん、あの敵の砦も囮だったって事でしょうか。こっちが上に気を取られてる間に、地下で計画を進めていたとか……」
「恐らくそう思われます。あれだけ濃い邪気霧があれば、下まで気が回りませんから」
誠の言葉に、輪太郎は頷いた。
「油断して同盟交渉に気を取られていたのも仇となりましたね。おかげでますます前線に手が回りませんでしたし」
「……全部手の平の上だったのか……!」
誠はぎゅっと手を握り締めた。
(こっちの敵は、今までの相手とまるで異質だ……)
そう、人間側の動きを全て見透かし、巧妙に裏をかいてくるのだ。
(魔王が近くなってきたら、こんな相手ばかりなのか……?)
誠は少し弱気になりそうだったが、首を振って悪い考えを追い払った。
輪太郎はメガネを光らせながら、淡々とデータを整理していく。
「解析したところ、地下の邪気網は今のところ拡大を止めています…………が、エネルギーそのものは蓄積されているようです。恐らく一定時間ごとに爆発的に成長するのでしょう」
「時期はどのぐらいですか?」
「…………かなり近いはずです。恐らくは…………数日中に」
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たった数日であの幽鬼兵団の攻略法を見つけなければならないのか。
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