43 / 87
第三章その4 ~手ごわいわ!~ ガンコ勇者の縁結び編
つるちゃんの大暴走1
しおりを挟む
作戦は第2段階、船団長への直接交渉へと移行された。
応接室で嵐山を待つ誠達だったが、そうする間にも鶴の神器のタブレットには、全神連の輪太郎が映し出されていた。
「順調です姫様、精神的ダメージはかなり与えていますね。画面のメガネアイコンに触れてみて下さい」
「メガネアイコン……これね!」
鶴が指で触ってみると、第2・第4船団長達の精神状態が『恋愛感情値』『拒絶値』などの棒グラフで表示されていく。
「両者とも、当初に比べ恋愛値が急上昇しています。かなり意識していますから、いよいよ姫様による直接攻撃をお願いします」
「全部まるごと承知したわ、任せて輪ちゃん」
鶴はちゃっかりメガネをかけ、したり顔で頷いた。
「大活躍してる私だもの、どっちも無下に出来ないはずよ。たちどころに仲直りさせるからコマ、祝勝会の用意を」
「また調子に乗ってるなあ」
そこで入り口の扉が開き、嵐山が入室してきた。
「ごめんなさい、お待たせしました。少し立て込んでしまって」
190センチ近い長身で、ショートカットのさっぱりした黒髪。
はきはきした言動がいかにも運動部のキャプテン、といった印象の彼女だったが、戦いの後遺症でかなり足を引き摺っている。
ちひろや輪太郎もそうだったし、長期間戦い抜いてきた神武勲章隊のメンバーは、皆一様に命をすり減らしているのだった。
嵐山は背をかがめ、こちらに手を差し出してくる。
「改めまして第4船団の船団長・嵐山紅葉です」
「こんにちは、私は三島大祝家に生まれた鶴よ。驚くほど気さくだから、姫でもつるちゃんでも好きなふうに呼んでね」
鶴の肩に乗るコマも、前足を上げて挨拶した。
「僕はコマ、喋る狛犬だけどよろしくね」
「こ、狛犬?? う、うん、まあいいんだけど……」
嵐山は目を丸くしたが、そこで誠の方に顔を向けた。
「それで、君が鳴瀬くんね。雪菜の秘蔵っ子の。大きくなったわねえ」
「は、はいっ、嵐山さん、お久しぶりです」
「活躍は聞いてるわよ~。あ、ごめん、皆さん座って」
嵐山は機嫌よく言うと、誠達に椅子を勧めた。自らもドスンと腰を降ろすと、長い足の膝頭を手でさする。
「ごめんね、座り方荒くて。だんだん言う事聞かなくなっちゃってて」
「まあ、体が悪いの? 治してみようかしら」
鶴が身を乗り出すので、コマが慌てて彼女を止めた。
「駄目だよ鶴、この人は特に酷いよ。邪気が長年染み込んで、神経と……魂そのものもひび割れてる感じかな。無理にやったら、魂が壊れちゃうかも」
「…………よく分からないけど、大した事ないし。気にしないでね」
嵐山は力こぶのポーズで強がってみせる……が、当の彼女の背後には、神器のタブレット画面が浮かんでいたのだ。
画面の恋愛感情値は少し低下して40%前後を上下しているが、拒絶値や警戒値はかなり低い。
誠が雪菜の弟子である事に加え、元々が体育会系で気のいい人なのだろう。
タブレット画面には『誠くん、懐かしいなあ』『雪菜は元気にしてるかな?』といった彼女の内心がチャットのように表示されていく。
以前の怯えぶりはどこへやら、鶴はニヤリと悪い顔で囁いた。
「しめしめ、いい人そうだわ。これはチョロいわね」
鶴の呟きをよそに、誠はタブレットを参考にして会話の糸口を探る。
「雪菜さんはよくバーベルひっくり返してますけど、最近は凄く元気で。あと九州の天草さんにも会ってきました」
「え、瞳も? そっか、そうだよね。九州も取り返したんだもんね!」
嵐山は段々テンションが上がってくる。
タブレット画面には『瞳も雪菜も元気なんだ』『会いたい!』『楽しいな!』といったポジティブな言葉がどんどん表示されていく。
「2人とも、早く日本を取り戻したいって毎日頑張ってますよ」
「そうなんだ。良かった、早く会いたいなあ……!」
嵐山はそう言って微笑んだ。
拒絶や警戒のグラフはゼロになり、そこで画面に全神連のメンバーが映った。彼らは『今だ剛GO!』と書かれた垂れ幕を持ち、こちらに合図を送っている。
「きっとまた会えますよ。日本を取り戻したらいつだって……!」
誠は覚悟を決めて、ずいと身を乗り出した。
「でもそのためには、嵐山さんの……第4船団の協力が必要なんです。いくらヒメ子が強くても、僕達だけじゃディアヌスには勝てませんから」
「…………」
嵐山は黙って誠の顔を見つめている。
「もちろんすぐに全面的な交流なんて無理だと思います。だから、いずれ来るディアヌスとの決戦だけでも、協力していただけないでしょうか。まずは勝って生き延びなきゃですし、そのための一時的な共闘を。それが僕達からのお願いです」
誠はそこで、とどめの言葉を搾り出す。
「この10年に及ぶ災厄を、嵐山さんとの同盟で終わらせたいんです……!」
「……………………………………10年、か……」
嵐山は自らの左手甲に目をやる。色あせてひび割れた逆鱗細胞を感慨深そうに眺め、再び誠に目を向けた。
「……分かったわ、こちらとしても味方は必要だもの。千里浜でも大勢助けてもらったし、断る理由なんてないから…………たぶん」
(いよっし、やった! 何とかやり遂げたぞ!)
内心ガッツポーズをしたくなる誠だったが、そこで鶴がとんでもない事を言い出したのだ。
「うんうん、めでたしめでたしね。船渡さんも同じ考えだと思うし、これで万事解決だわ」
その名前が出た途端、嵐山はびくっと身を震わせた。
「ふ、船渡っ!? あいつが……あっいや、第2船団の船団長がどうかしたの……?」
「どうもこうもないわ、戦いに勝ったら、その後2人がくっつくだけよ」
「なっ、ななななっ……!!?」
嵐山は言葉を失い、一瞬にして真っ赤になる。
「ヒメ子、お前何言ってんだよ!」
「そうだよ鶴、まだ早いってば!」
誠やコマが抗議するも、鶴はまったく気にしていない。
「平気よ2人とも、もう同盟は成ったんだもの。ここから先は本音トークよ」
鶴は好奇心剥き出しで身を乗り出し、無遠慮に尋ねる。
「ずっと気になっていたのよ。映像では分からなかったんだけど、どうして2人は別れちゃったの?」
「ええっ、な、なんで知ってるの!? 誰にも言ってなかったのに!!」
「だからちょっと、さっきから鶴!」
コマが必死に呼びかけるが、鶴は欲望のままに追及を続ける。
「知ってるものはしょうがないわ。2人がしっぽりと愛を誓ったのに、どうしてこんなに仲たがいしたのか……ううん、それは後回しでもいいから、今すぐにでも復縁して欲しいの。それが日の本のためなんだから」
「そ、そそそれはっ、だから……」
「さ、今から電話して、早くくっついて。言えないなら私が代わりに言っとくから。今でもメチャラブだから末永くヨロシクと」
「だっ、だめーっっっ!!!」
嵐山は顔から湯気を出しながらソファーに横倒しになった。
「どうしてなの? 好きならお嫁に行けばいいじゃない」
「お、お嫁にっ……!?」
嵐山はクッションを抱いたまま目を白黒させる。
「だっ、ダメなものはダメっ! おお大人には、責任ってものがあるんだからっ!」
背後に浮かぶ神器のタブレットでは、拒絶値が激増している。
グラフの下には『恥ずかしい!』『もう嫌ああ!』『なんでなんで、わけが分からない!』といった内容が高速で表示され、かなりパニック状態のようだ。
そこで画面に輪太郎が映り、慌ててこちらに訴えかけた。
「姫様、拒絶値がかなり高まっています! ここは一旦引いて下さい!」
「何をしゃらくさい、ここが勝負どころだわ!」
なおも食い下がろうとする鶴を引っ張り、誠とコマは室外へと退避していく。
「あ、嵐山さん、失礼しましたっ! また今度、じっくりお詫びさせて下さいっ!」
誠とコマは頭を下げると、そそくさと退室するのだった。
応接室で嵐山を待つ誠達だったが、そうする間にも鶴の神器のタブレットには、全神連の輪太郎が映し出されていた。
「順調です姫様、精神的ダメージはかなり与えていますね。画面のメガネアイコンに触れてみて下さい」
「メガネアイコン……これね!」
鶴が指で触ってみると、第2・第4船団長達の精神状態が『恋愛感情値』『拒絶値』などの棒グラフで表示されていく。
「両者とも、当初に比べ恋愛値が急上昇しています。かなり意識していますから、いよいよ姫様による直接攻撃をお願いします」
「全部まるごと承知したわ、任せて輪ちゃん」
鶴はちゃっかりメガネをかけ、したり顔で頷いた。
「大活躍してる私だもの、どっちも無下に出来ないはずよ。たちどころに仲直りさせるからコマ、祝勝会の用意を」
「また調子に乗ってるなあ」
そこで入り口の扉が開き、嵐山が入室してきた。
「ごめんなさい、お待たせしました。少し立て込んでしまって」
190センチ近い長身で、ショートカットのさっぱりした黒髪。
はきはきした言動がいかにも運動部のキャプテン、といった印象の彼女だったが、戦いの後遺症でかなり足を引き摺っている。
ちひろや輪太郎もそうだったし、長期間戦い抜いてきた神武勲章隊のメンバーは、皆一様に命をすり減らしているのだった。
嵐山は背をかがめ、こちらに手を差し出してくる。
「改めまして第4船団の船団長・嵐山紅葉です」
「こんにちは、私は三島大祝家に生まれた鶴よ。驚くほど気さくだから、姫でもつるちゃんでも好きなふうに呼んでね」
鶴の肩に乗るコマも、前足を上げて挨拶した。
「僕はコマ、喋る狛犬だけどよろしくね」
「こ、狛犬?? う、うん、まあいいんだけど……」
嵐山は目を丸くしたが、そこで誠の方に顔を向けた。
「それで、君が鳴瀬くんね。雪菜の秘蔵っ子の。大きくなったわねえ」
「は、はいっ、嵐山さん、お久しぶりです」
「活躍は聞いてるわよ~。あ、ごめん、皆さん座って」
嵐山は機嫌よく言うと、誠達に椅子を勧めた。自らもドスンと腰を降ろすと、長い足の膝頭を手でさする。
「ごめんね、座り方荒くて。だんだん言う事聞かなくなっちゃってて」
「まあ、体が悪いの? 治してみようかしら」
鶴が身を乗り出すので、コマが慌てて彼女を止めた。
「駄目だよ鶴、この人は特に酷いよ。邪気が長年染み込んで、神経と……魂そのものもひび割れてる感じかな。無理にやったら、魂が壊れちゃうかも」
「…………よく分からないけど、大した事ないし。気にしないでね」
嵐山は力こぶのポーズで強がってみせる……が、当の彼女の背後には、神器のタブレット画面が浮かんでいたのだ。
画面の恋愛感情値は少し低下して40%前後を上下しているが、拒絶値や警戒値はかなり低い。
誠が雪菜の弟子である事に加え、元々が体育会系で気のいい人なのだろう。
タブレット画面には『誠くん、懐かしいなあ』『雪菜は元気にしてるかな?』といった彼女の内心がチャットのように表示されていく。
以前の怯えぶりはどこへやら、鶴はニヤリと悪い顔で囁いた。
「しめしめ、いい人そうだわ。これはチョロいわね」
鶴の呟きをよそに、誠はタブレットを参考にして会話の糸口を探る。
「雪菜さんはよくバーベルひっくり返してますけど、最近は凄く元気で。あと九州の天草さんにも会ってきました」
「え、瞳も? そっか、そうだよね。九州も取り返したんだもんね!」
嵐山は段々テンションが上がってくる。
タブレット画面には『瞳も雪菜も元気なんだ』『会いたい!』『楽しいな!』といったポジティブな言葉がどんどん表示されていく。
「2人とも、早く日本を取り戻したいって毎日頑張ってますよ」
「そうなんだ。良かった、早く会いたいなあ……!」
嵐山はそう言って微笑んだ。
拒絶や警戒のグラフはゼロになり、そこで画面に全神連のメンバーが映った。彼らは『今だ剛GO!』と書かれた垂れ幕を持ち、こちらに合図を送っている。
「きっとまた会えますよ。日本を取り戻したらいつだって……!」
誠は覚悟を決めて、ずいと身を乗り出した。
「でもそのためには、嵐山さんの……第4船団の協力が必要なんです。いくらヒメ子が強くても、僕達だけじゃディアヌスには勝てませんから」
「…………」
嵐山は黙って誠の顔を見つめている。
「もちろんすぐに全面的な交流なんて無理だと思います。だから、いずれ来るディアヌスとの決戦だけでも、協力していただけないでしょうか。まずは勝って生き延びなきゃですし、そのための一時的な共闘を。それが僕達からのお願いです」
誠はそこで、とどめの言葉を搾り出す。
「この10年に及ぶ災厄を、嵐山さんとの同盟で終わらせたいんです……!」
「……………………………………10年、か……」
嵐山は自らの左手甲に目をやる。色あせてひび割れた逆鱗細胞を感慨深そうに眺め、再び誠に目を向けた。
「……分かったわ、こちらとしても味方は必要だもの。千里浜でも大勢助けてもらったし、断る理由なんてないから…………たぶん」
(いよっし、やった! 何とかやり遂げたぞ!)
内心ガッツポーズをしたくなる誠だったが、そこで鶴がとんでもない事を言い出したのだ。
「うんうん、めでたしめでたしね。船渡さんも同じ考えだと思うし、これで万事解決だわ」
その名前が出た途端、嵐山はびくっと身を震わせた。
「ふ、船渡っ!? あいつが……あっいや、第2船団の船団長がどうかしたの……?」
「どうもこうもないわ、戦いに勝ったら、その後2人がくっつくだけよ」
「なっ、ななななっ……!!?」
嵐山は言葉を失い、一瞬にして真っ赤になる。
「ヒメ子、お前何言ってんだよ!」
「そうだよ鶴、まだ早いってば!」
誠やコマが抗議するも、鶴はまったく気にしていない。
「平気よ2人とも、もう同盟は成ったんだもの。ここから先は本音トークよ」
鶴は好奇心剥き出しで身を乗り出し、無遠慮に尋ねる。
「ずっと気になっていたのよ。映像では分からなかったんだけど、どうして2人は別れちゃったの?」
「ええっ、な、なんで知ってるの!? 誰にも言ってなかったのに!!」
「だからちょっと、さっきから鶴!」
コマが必死に呼びかけるが、鶴は欲望のままに追及を続ける。
「知ってるものはしょうがないわ。2人がしっぽりと愛を誓ったのに、どうしてこんなに仲たがいしたのか……ううん、それは後回しでもいいから、今すぐにでも復縁して欲しいの。それが日の本のためなんだから」
「そ、そそそれはっ、だから……」
「さ、今から電話して、早くくっついて。言えないなら私が代わりに言っとくから。今でもメチャラブだから末永くヨロシクと」
「だっ、だめーっっっ!!!」
嵐山は顔から湯気を出しながらソファーに横倒しになった。
「どうしてなの? 好きならお嫁に行けばいいじゃない」
「お、お嫁にっ……!?」
嵐山はクッションを抱いたまま目を白黒させる。
「だっ、ダメなものはダメっ! おお大人には、責任ってものがあるんだからっ!」
背後に浮かぶ神器のタブレットでは、拒絶値が激増している。
グラフの下には『恥ずかしい!』『もう嫌ああ!』『なんでなんで、わけが分からない!』といった内容が高速で表示され、かなりパニック状態のようだ。
そこで画面に輪太郎が映り、慌ててこちらに訴えかけた。
「姫様、拒絶値がかなり高まっています! ここは一旦引いて下さい!」
「何をしゃらくさい、ここが勝負どころだわ!」
なおも食い下がろうとする鶴を引っ張り、誠とコマは室外へと退避していく。
「あ、嵐山さん、失礼しましたっ! また今度、じっくりお詫びさせて下さいっ!」
誠とコマは頭を下げると、そそくさと退室するのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる