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第三章その4 ~手ごわいわ!~ ガンコ勇者の縁結び編
こちらニンジャ部隊つるちゃん
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「もしもし姫様、聞こえますか」
輪太郎からの通信が、静まり返った通路に響く。
「そこを曲がれば船団長の自室となります。恐らく眠っているはずですが、念のためそっと進んで下さい」
「オーケーじゃないけど、一応オーケーよ輪ちゃん。黒鷹、コマ、絶対起こさないように、ニンジャのように進むわよ?」
鶴が先頭に立ち、誠もコマも忍び足で続いた。
既に深夜であり、第4船団の旗艦・いずもの仕官居住区は、ほとんど人気が感じられない。
それでも時折見回りが来るので、例のごとく打ち出の小槌で小さくなっているのだ。
いつもならここでコマの背に乗るのだが、それをやると鶴が蚤サイズになって毛皮の中に引きこもるので、今回は徒歩である。
泥棒のようなほっかむりをした鶴は、まだ震えながら文句を言う。
「なんだかおどろおどろしい場所よ。ああ恐ろしい、きっと生きて帰れないんだわ……」
「普通の船じゃないか。そろそろ勇気出してよ鶴」
コマは時折こうして鶴を励ましている。
「説得するにしても手がかりがいるんだから。あの2人はガンコだけど、夢の中ならガードがゆるむ……って、もう着いたぞ。確か橋が彫られたドアだったよね」
手近な木製扉には、京都は嵐山区の渡月橋が浮き彫りで描かれている。
「ああ悲しい、まるで死出の橋よ。ここを渡れば後戻り出来ないのね」
鶴はハンケチで涙をぬぐう。
「折角生き返ったと思ったら、毎日こき使うんだもの。酷い労働環境だわ」
そう言われると、誠もさすがに気の毒になる。
「……まあ確かに、何かとヒメ子に頼りすぎだけど。今は頼むから頑張ってくれよ」
「何かご褒美を考えておいてね?」
鶴は少し機嫌を直し、一同はドアの隙間から室内に入り込んだ。
「たのもう……お手柔らかに頼むわ」
室内は既に消灯されていたが、足元照明だけはつきっぱなしだったので、ぼんやりと部屋の様子が分かる。完全な暗闇でないのは、有事の際にすぐ動けるようにしているのだろう。
「そーっと、そーっと……抜き足差し足、忍び足。出来ればこのまま帰りたい足」
「駄目駄目!」
一同はベッド脇の戸棚によじ登った。
白い敷き布団の上に、女性が背を向けて横たわっていた。
誠達が小さくなっているのもあるが、寝具と比べてもかなり大きい寝姿であり、間違いなく神武勲章隊の最古期メンバー、嵐山紅葉その人だろう。
「大きいわ……まるで山のようよ」
鶴はしぶしぶ嵐山に近づくが、そこで嵐山が寝返りをうった。
その瞬間、鶴は「キャー!」と叫んで飛び上がり、戸棚の裏に頭からダイブした。
「うわっ! 何やってるんだ鶴!」
コマが慌てて戸棚の裏を覗くと、震える鶴がまったく別の棚の下から顔を出した。
「鶴、早く戻ってきなよ」
「だって動いたわ。噛み付いたりしないかしら」
「大丈夫、ほら頑張って」
鶴は仕方なく戸棚の後ろに消えると、ベッドの反対側から現れた。
物陰を動く時にカサカサ鳴るのがあの生き物を連想させるが、とにかく意地でも嵐山の顔のある方に出て来たくないらしい。
誠達も反対側にまわり、鶴と合流を果たした。
「さ、ここで夢見の神器だよ」
コマに促され、鶴は嫌がりながらも夢見の神器を取り出した。小型のテレビ画面から配線が延び、先に吸盤がついている形状だ。
コマはコードを引っ張っていき、吸盤を嵐山の首元にくっつけた。
「これで夢の中に入らなくても、心の様子が見れるからね」
画面に映し出された夢世界には、多数の動画が登録されている。
弓道部1という動画には、備品の弓では物足りず、男子でも引けない特注の強弓を持参して周囲に引かれるエピソードがあった。
他には大食いチャレンジのパフェをおかわりしたとか、ごく普通?の高校生としての思い出が沢山ある。
「……そっか。28歳だから、平和な学生生活を送った人なんだ」
誠は罪悪感を覚えながらも、つい物珍しくて見入ってしまう。
思い出に映る彼女はいつも楽しそうで、とても伝説の英傑には見えなかった。
ごく普通??の女の子として青春を過ごした彼女は、18歳の時に突如としてこの世の地獄を味わった。
そして誠達のような後輩を守るために、20代のほとんどの時間を戦いに捧げてきたのだ。
コマが画面をスクロールするにつれ、動画は辛く悲しい表題のものが多くなった。
「うーん、何か手がかりがないかなあ」
動画の膨大さに手こずるコマだったが、そこで誠は気がかりな物を見つけた。動画のタイトル一覧に、うっすらと輝く部分があったのだ。
「コマ、さっきのとこ、何か光る文字が無かったか?」
「戻ってみるね……ほんとだ、これ何だろう」
コマが動画をクリックすると、男女が肩を寄せて座る様子が映し出された。
「むむっ? コマ、ちょっとよく見せて頂戴」
鶴は急に興味をそそられ、身を乗り出して画面を見つめる。
女性の方はかなり長身で、つまりは嵐山氏本人。
男性は彼女以上に体が大きく、男らしい顔立ちの青年。つまり船戸氏だ。両者とも旧型のパイロットスーツに身を包んでいる。
2人はしばし寄り添っていたが、やがて見つめ合い、恐る恐る唇を重ねた。
神器の良心的なプライバシー機能により、唇にはハート型の自主規制が入ったが、鶴は興奮気味に叫んだ。
「こ、この人、さっきの船団長とやらだわ! これは大スプークよ!」
「スクープな」
誠が訂正するが、鶴は好奇心の方が勝ってきたのか、みるみる元気を取り戻していく。
「ドキドキするわ、まさかこんな秘密があったなんて……もっとないのかしら」
鶴が神器の画面を連打するが、他の動画は『ご本人が恥ずかしいため視聴出来ません』の文字が出てくる。
辛うじて見れるのは、一緒に散歩したり、避難区で発見した懐かしい音楽CDを2人で聞く程度の思い出だけだ。
「なぜ見れないのよ! お金を入れなきゃ駄目なのかしら」
「そうじゃないよ鶴、本人の心理的なロックがかかってるんだ。夢の中なのに、随分意志の強い人だね」
「ガンコ者の説得なら、鶴ちゃんの得意分野だわ。肥後もっこすこと天草瞳だって、たちどころに仲間になったんだから」
鶴は立ち上がり、腰に手を当てて言い放つ。
「ええい、こっちで見れないならあっちで見ましょう! 第2船団へ行くわよみんな!」
「急にやる気になってきた。下世話だなあ」
コマは呆れるが、鶴にやる気があるうちに、一同は第2船団へと向かった。
そして第2船団の船団長・船渡氏の夢からも、やはり同じような映像が出てきたのだ。
「こっちも同じだ、間違いないね。2人は恋人同士だったんだ」
船渡氏のいびきに困りながらも、コマが映像をチェックしていく。
「ロックがかかってるのが多いし、不仲の手がかりがあるといいけど……」
しかし根気よく映像を探していくと、1つだけ、2人が別れを告げるシーンが見つかったのだ。
随分激しく言い争っているようだが、誠は妙な違和感を感じた。怒っているのに泣いているみたいというのか……どうも態度が不自然なのだ。
そこでコマが神器の画面のスイッチを切った。
「駄目だ、これ以上は見えないな。でもこれだけ沢山残ってるって事は、まだ未練があるんだね」
「という事は、やるべき事は一つだわ」
鶴は気合いを入れて立ち上がった。
「任せといて、私こういうの得意よ。恋の伝道師、いえ恋の超伝導と呼ばれた鶴ちゃんの力を見せてくれるわ!」
鶴が大声を出したので、そこで船渡氏が寝返りをうった。
鶴は「キャー!」と叫んで家具の裏に飛び込み、一同はその場を退散したのだ。
輪太郎からの通信が、静まり返った通路に響く。
「そこを曲がれば船団長の自室となります。恐らく眠っているはずですが、念のためそっと進んで下さい」
「オーケーじゃないけど、一応オーケーよ輪ちゃん。黒鷹、コマ、絶対起こさないように、ニンジャのように進むわよ?」
鶴が先頭に立ち、誠もコマも忍び足で続いた。
既に深夜であり、第4船団の旗艦・いずもの仕官居住区は、ほとんど人気が感じられない。
それでも時折見回りが来るので、例のごとく打ち出の小槌で小さくなっているのだ。
いつもならここでコマの背に乗るのだが、それをやると鶴が蚤サイズになって毛皮の中に引きこもるので、今回は徒歩である。
泥棒のようなほっかむりをした鶴は、まだ震えながら文句を言う。
「なんだかおどろおどろしい場所よ。ああ恐ろしい、きっと生きて帰れないんだわ……」
「普通の船じゃないか。そろそろ勇気出してよ鶴」
コマは時折こうして鶴を励ましている。
「説得するにしても手がかりがいるんだから。あの2人はガンコだけど、夢の中ならガードがゆるむ……って、もう着いたぞ。確か橋が彫られたドアだったよね」
手近な木製扉には、京都は嵐山区の渡月橋が浮き彫りで描かれている。
「ああ悲しい、まるで死出の橋よ。ここを渡れば後戻り出来ないのね」
鶴はハンケチで涙をぬぐう。
「折角生き返ったと思ったら、毎日こき使うんだもの。酷い労働環境だわ」
そう言われると、誠もさすがに気の毒になる。
「……まあ確かに、何かとヒメ子に頼りすぎだけど。今は頼むから頑張ってくれよ」
「何かご褒美を考えておいてね?」
鶴は少し機嫌を直し、一同はドアの隙間から室内に入り込んだ。
「たのもう……お手柔らかに頼むわ」
室内は既に消灯されていたが、足元照明だけはつきっぱなしだったので、ぼんやりと部屋の様子が分かる。完全な暗闇でないのは、有事の際にすぐ動けるようにしているのだろう。
「そーっと、そーっと……抜き足差し足、忍び足。出来ればこのまま帰りたい足」
「駄目駄目!」
一同はベッド脇の戸棚によじ登った。
白い敷き布団の上に、女性が背を向けて横たわっていた。
誠達が小さくなっているのもあるが、寝具と比べてもかなり大きい寝姿であり、間違いなく神武勲章隊の最古期メンバー、嵐山紅葉その人だろう。
「大きいわ……まるで山のようよ」
鶴はしぶしぶ嵐山に近づくが、そこで嵐山が寝返りをうった。
その瞬間、鶴は「キャー!」と叫んで飛び上がり、戸棚の裏に頭からダイブした。
「うわっ! 何やってるんだ鶴!」
コマが慌てて戸棚の裏を覗くと、震える鶴がまったく別の棚の下から顔を出した。
「鶴、早く戻ってきなよ」
「だって動いたわ。噛み付いたりしないかしら」
「大丈夫、ほら頑張って」
鶴は仕方なく戸棚の後ろに消えると、ベッドの反対側から現れた。
物陰を動く時にカサカサ鳴るのがあの生き物を連想させるが、とにかく意地でも嵐山の顔のある方に出て来たくないらしい。
誠達も反対側にまわり、鶴と合流を果たした。
「さ、ここで夢見の神器だよ」
コマに促され、鶴は嫌がりながらも夢見の神器を取り出した。小型のテレビ画面から配線が延び、先に吸盤がついている形状だ。
コマはコードを引っ張っていき、吸盤を嵐山の首元にくっつけた。
「これで夢の中に入らなくても、心の様子が見れるからね」
画面に映し出された夢世界には、多数の動画が登録されている。
弓道部1という動画には、備品の弓では物足りず、男子でも引けない特注の強弓を持参して周囲に引かれるエピソードがあった。
他には大食いチャレンジのパフェをおかわりしたとか、ごく普通?の高校生としての思い出が沢山ある。
「……そっか。28歳だから、平和な学生生活を送った人なんだ」
誠は罪悪感を覚えながらも、つい物珍しくて見入ってしまう。
思い出に映る彼女はいつも楽しそうで、とても伝説の英傑には見えなかった。
ごく普通??の女の子として青春を過ごした彼女は、18歳の時に突如としてこの世の地獄を味わった。
そして誠達のような後輩を守るために、20代のほとんどの時間を戦いに捧げてきたのだ。
コマが画面をスクロールするにつれ、動画は辛く悲しい表題のものが多くなった。
「うーん、何か手がかりがないかなあ」
動画の膨大さに手こずるコマだったが、そこで誠は気がかりな物を見つけた。動画のタイトル一覧に、うっすらと輝く部分があったのだ。
「コマ、さっきのとこ、何か光る文字が無かったか?」
「戻ってみるね……ほんとだ、これ何だろう」
コマが動画をクリックすると、男女が肩を寄せて座る様子が映し出された。
「むむっ? コマ、ちょっとよく見せて頂戴」
鶴は急に興味をそそられ、身を乗り出して画面を見つめる。
女性の方はかなり長身で、つまりは嵐山氏本人。
男性は彼女以上に体が大きく、男らしい顔立ちの青年。つまり船戸氏だ。両者とも旧型のパイロットスーツに身を包んでいる。
2人はしばし寄り添っていたが、やがて見つめ合い、恐る恐る唇を重ねた。
神器の良心的なプライバシー機能により、唇にはハート型の自主規制が入ったが、鶴は興奮気味に叫んだ。
「こ、この人、さっきの船団長とやらだわ! これは大スプークよ!」
「スクープな」
誠が訂正するが、鶴は好奇心の方が勝ってきたのか、みるみる元気を取り戻していく。
「ドキドキするわ、まさかこんな秘密があったなんて……もっとないのかしら」
鶴が神器の画面を連打するが、他の動画は『ご本人が恥ずかしいため視聴出来ません』の文字が出てくる。
辛うじて見れるのは、一緒に散歩したり、避難区で発見した懐かしい音楽CDを2人で聞く程度の思い出だけだ。
「なぜ見れないのよ! お金を入れなきゃ駄目なのかしら」
「そうじゃないよ鶴、本人の心理的なロックがかかってるんだ。夢の中なのに、随分意志の強い人だね」
「ガンコ者の説得なら、鶴ちゃんの得意分野だわ。肥後もっこすこと天草瞳だって、たちどころに仲間になったんだから」
鶴は立ち上がり、腰に手を当てて言い放つ。
「ええい、こっちで見れないならあっちで見ましょう! 第2船団へ行くわよみんな!」
「急にやる気になってきた。下世話だなあ」
コマは呆れるが、鶴にやる気があるうちに、一同は第2船団へと向かった。
そして第2船団の船団長・船渡氏の夢からも、やはり同じような映像が出てきたのだ。
「こっちも同じだ、間違いないね。2人は恋人同士だったんだ」
船渡氏のいびきに困りながらも、コマが映像をチェックしていく。
「ロックがかかってるのが多いし、不仲の手がかりがあるといいけど……」
しかし根気よく映像を探していくと、1つだけ、2人が別れを告げるシーンが見つかったのだ。
随分激しく言い争っているようだが、誠は妙な違和感を感じた。怒っているのに泣いているみたいというのか……どうも態度が不自然なのだ。
そこでコマが神器の画面のスイッチを切った。
「駄目だ、これ以上は見えないな。でもこれだけ沢山残ってるって事は、まだ未練があるんだね」
「という事は、やるべき事は一つだわ」
鶴は気合いを入れて立ち上がった。
「任せといて、私こういうの得意よ。恋の伝道師、いえ恋の超伝導と呼ばれた鶴ちゃんの力を見せてくれるわ!」
鶴が大声を出したので、そこで船渡氏が寝返りをうった。
鶴は「キャー!」と叫んで家具の裏に飛び込み、一同はその場を退散したのだ。
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