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第三章その4 ~手ごわいわ!~ ガンコ勇者の縁結び編

平家武者に電話してみた

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 カチン、と神使の猿が拍子木ひょうしぎを鳴らすと、『第一回・仲直り大作戦会議』と書かれた横断幕が広げられていく。

 場所は全神連の西国本部、あの畳敷きの大広間である。

 若いパイロット連中は任務のため欠席していたが、それ以外の面々が胡坐あぐらをかき、あーだこーだと知恵を出し合うのだ。

 だが鶴は相変わらず、隅っこで布団にくるまるフジツボ状態である。

 コマ達神使が舞いを踊り、梨や七輪のもちをちらつかせては、鶴をおびき出そうとしていた。

「ほら鶴、出ておいで。楽しいよ、おいしい梨もお餅もあるよ~」

「まあ、ほんとかしら……?」

 鶴は布団からそーっと顔を出している。ふすまの陰には、鶴を引っ張り出そうとスタンバイする龍の姿があった。

天岩戸神話あまのいわとしんわかよ」

 誠はツッコミを入れつつ、そばにいた輪太郎に向き直った。

「輪太郎さん、ここはお手間なんですけど、同じレジェンド隊のあなたにお願いできないでしょうか」

「それは勿論、事あるごとに言ってますがね。なにぶんガンコな2人でして……」

 倫太郎がメガネを光らせながら肩をすくめると、ちひろが彼の後を続けた。

「こっちもそうなんだわさ。ほんと健児兄けんじにいときたら、かたくなが人になったらああなるのかって思うくらい。レジェンド隊って言っても、あの二人は最年長のリーダー格だから、超がつくほど真面目なのよん」

 ちひろは枝豆……ではなく『だだちゃ豆』とビールを手にしているので、輪太郎がたまらずツッコミを入れた。

「そもそも何でちひろは飲んでるんですか」

「しゃーないでしょ輪ちゃん、飲まなきゃやってられないのよ」

「ほんとに説得してたんですか? 昔から任務も私に丸投げ……むぐっ!?」

「ほ、ほーらおいしいでしょ? 教え子のしぐれちゃんが作っただだちゃ豆。ビールによく合うんだから、さあさあ!」

 輪太郎が喋れなくなったので、誠は仕方なくちひろに尋ねた。

「……だ、だとしたら一番の荒療治は、ここの事情を話す事ですかね。勿論言える範囲でですけど……」

 誠が言うと、ちひろはぶんぶん首を振った。

「あーだめだめ、あの2人はそういうの効かないから。もし目の前にUFOが降りても、丸めて捨てて信じないもん」

「例え魔法を使っても、トリックとかCGだとか言うでしょうね」

 輪太郎もようやく豆を飲み込み、ちひろの言葉に同意した。どうやら相当に頑固な2人らしい。

「なるほどなあ。皆さんは……」

 誠は他の全神連の面々にも声をかけようとしたが、彼らはいつの間にか将棋や花札を始めていたので、アドバイスをもらう事を諦めた。

「ふーむ……だとすると、九州の時みたいに神使が押しかけても駄目か。ヒメ子がご先祖を呼んで、夢枕に立ってもらっても意味ないだろうし……」

「ていうか黒鷹、そもそもここじゃ一般のご先祖は呼べないと思うよ」

 そこでコマが誠の肩に飛び乗り、前足を上げて説明した。

「鶴もパワーアップしてるけど、九州より邪気が強いからね。有名で力の強い魂か、集まって霊団になってるとかじゃないと。この辺で言えば、源平の霊団ぐらいかな。第2船団は源氏、第4船団は平家に縁のある人が多いみたいだけどね」

 源氏と平家は、日本人なら言わずと知れた2大武士もののふ集団であり、日本には彼らの子孫が大勢いるのだ。

 コマは再びフジツボ布団に声をかけた。

「ねえ鶴、こういう時こそおみくじを引いてみなよ」

「えー嫌だわ」

「引くだけ、ね、ほら。引いたらお餅食べていいから」

「しょうがない狛犬ねえ……」

 鶴は虚空から神器のおみくじ箱を取り出すと、しぶしぶくじを1枚引いた。

「ええと……あっ! これは良くないわね、もう1枚……」

「ずるは駄目だよ、見せて」

 コマが無理やりくじを確認すると、以下のように記してある。

『☆みちびき☆ 船団長を仲直りさせると吉』

「ほら鶴、やっぱりこれだ。楽な道は無いんだよ」

「無い道を探すのがプロなのよ。何とかして楽な方に行かなくちゃ……!」

 鶴はこういう時だけ知恵を絞り始める。

「そうだわ、逆転の発想よ! 船団長を説得するより、ほかの全員をせればいいんだわ。その人達からとりなしてもらいましょう」

「いちいち全員回るのかい? その方がよっぽどしんどいけど」

 コマがジト目でツッコミを入れるも、鶴の悪知恵は止まらない。

「平気よコマ、さっきの夢枕の話よ。第2船団は源氏、第4船団は平家のつながりが多いんだから、源平の霊団に頼めば、一気に大勢の夢枕に立てるわ」

「でも鶴、遠すぎるご先祖様が夢に出ても、ぴんと来ないんじゃないの? それに源平は仲が悪いじゃないか」

「日の本の一大事だもの、きっと協力してくれるわ。さっそく電話してみましょう」

 鶴は布団から飛び出ると、どこからか黒いレトロな電話を取り出す。

 受話器を取り、ジーコジーコとダイヤルを回すと、虚空に四角い画面が現れた。

 ほどなく電話は霊界に繋がり、画面にたくましい平家武者が映し出された。

 歳は20代の半ば過ぎぐらいだろう。

 長髪で、精悍せいかんながらも整った顔立ち。

 画面下には、『平家一の剛力武者・若くして散った猛将・能登守のとのかみ教経のりつね』と表示されたので、誠も思わずテンションが上がった。

「うわっ、平教経たいらののりつねさん!? すごい、いきなり有名人だ!」

 出来ればサインを貰いたいと思う誠だったが、鶴は特に気負うでもなく話しかける。

「もしもし、私よ。たいらさんのお宅でしょうか」

「えっ、何だこの顔が映ってるのは。霊界電話……だと? この前で喋ればいいのか?」

「そうそう、こちら、あなたの時代からざっと900年後、コールセンターの鶴よ。あなたは……ええと、平教経たいらののりつねさん?」

「ほう、のちの世の娘が、この俺を知っているのか」

「知ってるも何も有名みたいよ」

 鶴は画面の端に表示された情報を読み上げる。

「剛力無双で勇猛果敢。壇ノ浦だんのうらの合戦では、敵の源氏武者2人を抱えて海に飛び込み、死出しでの旅の道連れにした、と…………かっこいいわね。うまいこと私の手柄に出来ないかしら」

「無茶言うなヒメ子、気ぃ悪くするだろ」

 誠が慌ててツッコミを入れるが、教経のりつねは特に気にするでもない。

「まあ俺は武勇にすぐれていたからな。そうかそうか、未来でもそんなに名が残っているか」

 腕組みし、満足そうに頷くので、コマが「割と気のいい人だね」とささやいた。

 そんなコマの言葉も知らず、教経のりつねは上機嫌で鶴に尋ねる。

「で、娘よ。その有名な俺に何の用だ?」

「実はかくかくしかじかで、子孫の夢枕に立って欲しいの。それはもう、日の本の大ピンチだし、神様も困ってるんだから」

「ふうむ、それは聞き捨てならんな。して、何人ぐらい夢枕に立つのだ? 俺達も数に限りがあるぞ」

 だがそこで、鶴が口を滑らせた。

「大丈夫よ。あっちの船団は源氏に頼むから、こっちだけで」

「何ぃ、源氏にも頼むだとぉ!?」

 さっきまで上機嫌だった教経のりつねは、途端に大声を上げた。顔は見る見る怒りの表情になる。

「断る! 源氏と協力なんぞ出来るか! 出来たとしても絶対やらん!」

「何よ、けち!」

「けちじゃないっ!」

「じゃあ何なの!」

「えっ……!?」

 一瞬ぽかんとする教経のりつねだったが、そこでもう一度語気を荒げる。

「いや、俺が知るかっ!!!」

 画面は真っ暗になり、霊界通話は途切れてしまった。

「……ほらね鶴、やっぱり楽な道なんて無いんだよ」

 ムムム、とうなる鶴に歩み寄り、コマがツッコミを入れる。

「ていうかどんなに周りを味方につけても、あの2人をどうにかしないと意味がないもの。ねえ鶴、やっぱりおみくじ通り、船団長を説得しようよ」

 コマの言葉に、全員の視線が鶴に集中する。

 鶴はムムムム、と唸り、なおも楽な道を探そうとしたのだが、結局観念する事になった。
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