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第三章その4 ~手ごわいわ!~ ガンコ勇者の縁結び編
船団連合会議・後編
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様々な不安が渦巻く中、午後の会議が始まった。
第5船団の船団長・佐々木は、若干の冷や汗を流しながら一同に語りかけた。
「……と、いうわけなのでございますが……いかがでしょう皆さん?」
「もちろん私ども第1船団には、異論はございません」
画面に映る上品な女性は、そう言って微笑んだ。涼やかで知的な印象、白で統一した清潔な着衣。
北海道沿岸を支配する第1船団の長であり、『北の聖母』の異名を持つ二風谷さおり氏である。
「そちらの様子は、娘達から聞いております。よくしていただいてるようですし、全て第5船団にお任せしますわ」
「い、いやー、さすが二風谷さん! 非常に助かります! 娘さんがたも優秀で助かっておりますぞ!」
喜ぶ佐々木に、画面のもう一人が声をかけた。
「こっちも問題なしだぜぇ、佐々木の大将」
なかなかに渋い声である。
関東から東海地方を管轄し、『日本最後の砦』と名高い第3船団の船団長・伊能只彦氏であるが、画面に映る姿はシュールだ。藁苞に入った納豆に手足が生え、目や口がついて語っているのである。
「……いやすまん、休憩中に直そうとしたんだが、殆どウイルスだよ。筑波の野郎、下らないネタ仕込みやがって」
どうやら技術者にイタズラされたらしく、画面が元に戻らないのだ。
仕方なく納豆のまま会議に参加しているのだが、それがむしろ佐々木にとって癒しになっていた。
「日本がピンチだってのに、いがみあってもしょうがないわな。いっちょ団結して、ディアヌスのヤツをぶっとばすぜ」
「いやあ、こちらもさすが! さすが日本最強の第3船団ですな! そうですとも、ネバー・ネバーギブアップ、皆で力を合わせて頑張りましょう!」
佐々木は渡りに船とばかりに同意するが、そこで島津も口を開いた。
「無論佐々木よ、第6船団も問題ないぞ?」
巨体を椅子にもたせかける島津は、戦国武将のように迫力がある。勇猛果敢な九州の人々をまとめあげ、つい先日、領地奪還を果たした第6船団の船団長なのだ。
彼は佐々木と旧知であるため、目配せしながら不器用にウインクした。
「……そもそも先日の決戦で、力を借りた義理もあるしな」
「やった! さすが島津さん、話が分かりますなあ! これは幸先がいい、これならきっとお話がまとまりますな! そう、きっと……」
佐々木は汗を振りまきながら、ぶんぶん首を縦に振った。
それからそーっと目線を動かし、自らの両隣に座る男女を……つまり、第2・第4船団の船団長を交互に見やった。
「あの~……………そ、それで、第2と第4船団にも、ご、ご協力をですな。お互いおっしゃりたい事はあると思うのですが、未曾有の危機でございますから。何卒、いや何卒、ご配慮いただきたいわけで……」
「そんな事は分かっています!!!」
「ひっ!?」
立ち上がり、声を荒げる右隣の女性に、佐々木は飛び上がって驚いた。
歳は20代の後半ぐらいだろう。
185センチを越える長身、ショートカットの黒髪。
ダークグリーンの軍用ジャケットにタイトスカートを身に着け、艶やかな西陣織を羽織って腕組みしている。
豊かな胸元には、七宝焼で作られた第6船団の意匠『鳥居と紅葉』が飾られていた。
はっきりした目鼻立ち、口元の八重歯がいかにも気の強そうな印象の彼女こそ、第4船団を取り仕切る若き女帝。
『強弓の女武者』『古都の摩天楼』こと嵐山紅葉だった。
船団長としては若すぎる異例の出世なのだが、かつて活躍した伝説の人型重機部隊・神武勲章隊の副隊長であるため、その辺りの事情が働いているのだろう。
嵐山は拳を握り、強い口調で続けた。
「私が申し上げたいのは、今回の衝突に関する原因究明です! 第2船団の隠し事がはっきりしなければ、同盟などあり得ません!」
「聞き捨てなるか! それはこっちの言い分だろう!」
咆えるように叫ぶと、佐々木の左隣の青年が立ち上がった。
こちらも歳は30歳手前だろう。
嵐山を越える長身で、日に焼けてがっしりした体格。顔立ちはいかにも実直そうで、飾り気のない短髪だ。
同じく軍用ジャケットに身を包み、神武勲章隊の指揮官だった彼は、幾多の苦難から体をはって被災者達を守り抜いた伝説のパイロットだ。
命に関わる大ケガから何度も復活した事から『鉄人』『東北の麒麟児』とも称えられた、船渡健児その人である。
かつて『始まりの2人』と呼ばれ、ボロボロになりながら日本を守ってきた彼らは、なぜか激しく対立しているのだ。
「そもそもあの衝突は、第4船団が仕掛けたものだと聞いているが!?」
「何言ってるの!? ふざけないで頂戴!」
「ご、ご両人、ちょっとその、ここはひとまず仲良くですな……」
佐々木は椅子の背もたれに隠れ、恐る恐る言葉をかけるが、2人に同時に睨まれた。
「ご両人ですって!?」
「その呼び方はやめていただきたい!!!」
「ひいいっ!!?」
2人は佐々木を瞬時に蹴散らし、なおも言葉の刃を交わした。
「とにかく、衝突の原因究明と再発防止に向け、何らかの約定をかわさなければ、第4船団は協力出来ません!」
嵐山が机をドンと叩くと、佐々木が怯えて飛び上がるが、今度は船渡が机を叩く。
「こっちの台詞だ! いつ背中を刺されるか分からん相手と共闘出来るか!」
「そっちが悪いんでしょうが!!」
「なぜ決め付ける!!」
「ひっ、ひいいいいっ!!!???」
ドンドンドンドン、と左右から迫る爆音に、佐々木はどちらに逃げる事も出来ず、どんどんやせ細っていく。
佐々木は呼吸を荒くしながら、懸命に鶴の助けを求めていた。
「つ、鶴ちゃんさん、早く……早く助けてくだされ……! わしゃもう限界じゃ。胃が、胃が溶けてしまいますぞ……!」
一方その頃。誠や鶴達は、控え室で会議の様子を見守っていた。
神器のタブレット画面に表示された『佐々木氏胃袋メーター』の急減を受け、誠は慌てて鶴を促す。
「や、やばいヒメ子っ、胃の残量が5割を切った! 早くフォローを!」
「そうだよ鶴、早く助けないと!」
だが当の鶴は、真っ青になって震えていた。
「は、はわわわ……!」
いつもの元気はどこへやら、心ここにあらずといった様子である。
「おいヒメ子、ヒメ子っ、大丈夫か!? コマ、ヒメ子どうしたんだ?」
「ええと、霊気は特におかしくないけど……」
コマは画面と鶴を交互に見ていたが、そこで思い切り飛び上がった。
「あっ、もしかして!?」
「ど、どうしたコマ!?」
コマは手足をばたつかせながら、何とか誠の肩に着地する。
「そうだよ黒鷹、鶴のご両親にそっくりなんだ!」
「ご両親???」
「そう、すごく教育が厳しかったんだ! まあ武家だから当然だけど、鶴が遊びすぎるから、かなり厳しく躾けてね」
「それでこれか!? じゃないっ、なんてこった……!」
誠は呆然と画面を見つめた。
両船団長は荒れに荒れ、机をぶん投げてつかみ合いを始めている。
長いパイロット時代の負傷で、体はかなり不自由なはずなのに、元の腕力がケタ違いなのだ。
「何だその格好は! チャラチャラ飾り立てやがって!」
「文化を守るためでしょ! あんたに言われる筋合いはないっ!」
佐々木は倒れ、家具調度品が宙を舞う。
結局この乱闘を期に、対ディアヌスの全船団軍事同盟はお流れとなったのだ。
第5船団の船団長・佐々木は、若干の冷や汗を流しながら一同に語りかけた。
「……と、いうわけなのでございますが……いかがでしょう皆さん?」
「もちろん私ども第1船団には、異論はございません」
画面に映る上品な女性は、そう言って微笑んだ。涼やかで知的な印象、白で統一した清潔な着衣。
北海道沿岸を支配する第1船団の長であり、『北の聖母』の異名を持つ二風谷さおり氏である。
「そちらの様子は、娘達から聞いております。よくしていただいてるようですし、全て第5船団にお任せしますわ」
「い、いやー、さすが二風谷さん! 非常に助かります! 娘さんがたも優秀で助かっておりますぞ!」
喜ぶ佐々木に、画面のもう一人が声をかけた。
「こっちも問題なしだぜぇ、佐々木の大将」
なかなかに渋い声である。
関東から東海地方を管轄し、『日本最後の砦』と名高い第3船団の船団長・伊能只彦氏であるが、画面に映る姿はシュールだ。藁苞に入った納豆に手足が生え、目や口がついて語っているのである。
「……いやすまん、休憩中に直そうとしたんだが、殆どウイルスだよ。筑波の野郎、下らないネタ仕込みやがって」
どうやら技術者にイタズラされたらしく、画面が元に戻らないのだ。
仕方なく納豆のまま会議に参加しているのだが、それがむしろ佐々木にとって癒しになっていた。
「日本がピンチだってのに、いがみあってもしょうがないわな。いっちょ団結して、ディアヌスのヤツをぶっとばすぜ」
「いやあ、こちらもさすが! さすが日本最強の第3船団ですな! そうですとも、ネバー・ネバーギブアップ、皆で力を合わせて頑張りましょう!」
佐々木は渡りに船とばかりに同意するが、そこで島津も口を開いた。
「無論佐々木よ、第6船団も問題ないぞ?」
巨体を椅子にもたせかける島津は、戦国武将のように迫力がある。勇猛果敢な九州の人々をまとめあげ、つい先日、領地奪還を果たした第6船団の船団長なのだ。
彼は佐々木と旧知であるため、目配せしながら不器用にウインクした。
「……そもそも先日の決戦で、力を借りた義理もあるしな」
「やった! さすが島津さん、話が分かりますなあ! これは幸先がいい、これならきっとお話がまとまりますな! そう、きっと……」
佐々木は汗を振りまきながら、ぶんぶん首を縦に振った。
それからそーっと目線を動かし、自らの両隣に座る男女を……つまり、第2・第4船団の船団長を交互に見やった。
「あの~……………そ、それで、第2と第4船団にも、ご、ご協力をですな。お互いおっしゃりたい事はあると思うのですが、未曾有の危機でございますから。何卒、いや何卒、ご配慮いただきたいわけで……」
「そんな事は分かっています!!!」
「ひっ!?」
立ち上がり、声を荒げる右隣の女性に、佐々木は飛び上がって驚いた。
歳は20代の後半ぐらいだろう。
185センチを越える長身、ショートカットの黒髪。
ダークグリーンの軍用ジャケットにタイトスカートを身に着け、艶やかな西陣織を羽織って腕組みしている。
豊かな胸元には、七宝焼で作られた第6船団の意匠『鳥居と紅葉』が飾られていた。
はっきりした目鼻立ち、口元の八重歯がいかにも気の強そうな印象の彼女こそ、第4船団を取り仕切る若き女帝。
『強弓の女武者』『古都の摩天楼』こと嵐山紅葉だった。
船団長としては若すぎる異例の出世なのだが、かつて活躍した伝説の人型重機部隊・神武勲章隊の副隊長であるため、その辺りの事情が働いているのだろう。
嵐山は拳を握り、強い口調で続けた。
「私が申し上げたいのは、今回の衝突に関する原因究明です! 第2船団の隠し事がはっきりしなければ、同盟などあり得ません!」
「聞き捨てなるか! それはこっちの言い分だろう!」
咆えるように叫ぶと、佐々木の左隣の青年が立ち上がった。
こちらも歳は30歳手前だろう。
嵐山を越える長身で、日に焼けてがっしりした体格。顔立ちはいかにも実直そうで、飾り気のない短髪だ。
同じく軍用ジャケットに身を包み、神武勲章隊の指揮官だった彼は、幾多の苦難から体をはって被災者達を守り抜いた伝説のパイロットだ。
命に関わる大ケガから何度も復活した事から『鉄人』『東北の麒麟児』とも称えられた、船渡健児その人である。
かつて『始まりの2人』と呼ばれ、ボロボロになりながら日本を守ってきた彼らは、なぜか激しく対立しているのだ。
「そもそもあの衝突は、第4船団が仕掛けたものだと聞いているが!?」
「何言ってるの!? ふざけないで頂戴!」
「ご、ご両人、ちょっとその、ここはひとまず仲良くですな……」
佐々木は椅子の背もたれに隠れ、恐る恐る言葉をかけるが、2人に同時に睨まれた。
「ご両人ですって!?」
「その呼び方はやめていただきたい!!!」
「ひいいっ!!?」
2人は佐々木を瞬時に蹴散らし、なおも言葉の刃を交わした。
「とにかく、衝突の原因究明と再発防止に向け、何らかの約定をかわさなければ、第4船団は協力出来ません!」
嵐山が机をドンと叩くと、佐々木が怯えて飛び上がるが、今度は船渡が机を叩く。
「こっちの台詞だ! いつ背中を刺されるか分からん相手と共闘出来るか!」
「そっちが悪いんでしょうが!!」
「なぜ決め付ける!!」
「ひっ、ひいいいいっ!!!???」
ドンドンドンドン、と左右から迫る爆音に、佐々木はどちらに逃げる事も出来ず、どんどんやせ細っていく。
佐々木は呼吸を荒くしながら、懸命に鶴の助けを求めていた。
「つ、鶴ちゃんさん、早く……早く助けてくだされ……! わしゃもう限界じゃ。胃が、胃が溶けてしまいますぞ……!」
一方その頃。誠や鶴達は、控え室で会議の様子を見守っていた。
神器のタブレット画面に表示された『佐々木氏胃袋メーター』の急減を受け、誠は慌てて鶴を促す。
「や、やばいヒメ子っ、胃の残量が5割を切った! 早くフォローを!」
「そうだよ鶴、早く助けないと!」
だが当の鶴は、真っ青になって震えていた。
「は、はわわわ……!」
いつもの元気はどこへやら、心ここにあらずといった様子である。
「おいヒメ子、ヒメ子っ、大丈夫か!? コマ、ヒメ子どうしたんだ?」
「ええと、霊気は特におかしくないけど……」
コマは画面と鶴を交互に見ていたが、そこで思い切り飛び上がった。
「あっ、もしかして!?」
「ど、どうしたコマ!?」
コマは手足をばたつかせながら、何とか誠の肩に着地する。
「そうだよ黒鷹、鶴のご両親にそっくりなんだ!」
「ご両親???」
「そう、すごく教育が厳しかったんだ! まあ武家だから当然だけど、鶴が遊びすぎるから、かなり厳しく躾けてね」
「それでこれか!? じゃないっ、なんてこった……!」
誠は呆然と画面を見つめた。
両船団長は荒れに荒れ、机をぶん投げてつかみ合いを始めている。
長いパイロット時代の負傷で、体はかなり不自由なはずなのに、元の腕力がケタ違いなのだ。
「何だその格好は! チャラチャラ飾り立てやがって!」
「文化を守るためでしょ! あんたに言われる筋合いはないっ!」
佐々木は倒れ、家具調度品が宙を舞う。
結局この乱闘を期に、対ディアヌスの全船団軍事同盟はお流れとなったのだ。
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