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第三章その4 ~手ごわいわ!~ ガンコ勇者の縁結び編

船団連合会議・前編

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 史上初の船団連合会議は、第5船団の仲立ちで行われた。

 会場は第5船団が日本海まで派遣した、旗艦『みしま』の艦上である。

 日本が6つの船団に分かれて以来、およそ10年ぶりとなる、各船団長が一堂いちどうに会する大イベント。

 あの白髪の女性……つまり全神連の筆頭たる因幡いなばは、配下と共に艦内にスタンバイ。魔族の攻撃がないよう見守っていたのだが……彼女の報告によると、会議は惨憺さんたんたるものだったらしい。

 前半は大もめにもめて終了、現在はそれぞれの控え室にて休憩中。特に第2・第4船団がかたくなで、激しく口撃こうげきし合ったという。

「おいしい! この梨、みずみずしくて素敵だわ。九州のマンゴーも良かったけど、こっちはこっちで、さっぱりしていくらでもいけるわね」

 鶴は因幡から梨を受け取り、しきりに口に運んでいる。

 コマは見かねてツッコミを入れた。

「よく言うよ、マンゴーだっていくらでも食べてたじゃないか」

「お黙りコマ。それで佐々木っちゃん、かなり手こずってるというわけね」

「いや、鶴ちゃんさん、わしはもう胃が溶けて無くなるかと思ったよ」

 佐々木はくたくたになって項垂うなだれている。

 第5船団の船団長であり、ロマンスグレーの髪や髭がイケおじ(※イケてるおじさん)風の佐々木だったが、今は百歳ぐらい老けたように見える。

「……まさかあそこまで頑固とは思わなんだ。ディアヌスとの戦いを控えてるし、協力してくれるとばかり。日本をまとめる大きな会議を、わしが成功させる……これぞ現代の薩長同盟じゃあ、とか思って乗り込んだのに。後半が憂鬱ゆううつだわあ……」

 因幡はしきりに梨の皮むきをしながら、佐々木の後を続けた。

「とにかくタイミングが悪すぎまして。姫様方がお留守の間、兵員同士が突発的な小競り合いを起こしてしまい、数名が負傷したのです」

 因幡は困ったように首をかしげた。細い目はますます糸目になり、少し泣きそうな雰囲気である。

「本人達は、ついカッとなったと反省しているのですが、元々あった両船団の緊張が噴出してしまい……船団長だけでなく、民衆もかなり反発しています。第2船団のタカ派の企業は、既に同盟拒否の意思表示をしていますし、第4船団で大きな力を持つ市民団体も、大規模な反対デモをしているそうです」

 神器のタブレット画面には、第4船団の避難区の様子が映し出された。そろいの白装束を着た大勢の人が通りにあふれ、第2船団との同盟をやめろ、と叫んでいるのだ。

「大丈夫よみんな、何も心配いらないわ」

 肩に乗るコマにも梨を食べさせながら、鶴はしたり顔で頷いた。

「午後からは私がドンドンサポートするから。言うべきセリフは思念波テレパシーで送るし、いざとなったら乱入して適当に丸め込むわ」

「ほ、ホント? わし信じていい?」

 佐々木はわらにもすがる思いで鶴を見上げる。目は少女マンガのようにうるみ、手の指は祈るように組み合わされている。

「もちろんよ! 今の鶴ちゃんは絶好調、メリメリと音を立てて成長しているの。不可能なんてないんだから」

 鶴はドヤ顔で胸を叩いた。

「今の私にかかれば……そうね。抜け落ちた香川隊員がわちんの髪だって、それっ!」

 鶴がパチリと指を弾くと、光の玉が宙に浮かぶ。玉は部屋を一周すると、壁を通り抜けてすっ飛んでいった。

 神器の地図で見守ると、光は真っすぐ四国に向かい、誠達の駐屯地に直撃したのだ。

「これで元通りのフサフサになったはずよ」

「……い、いやヒメ子、香川あいつは脱毛してくれって言ってなかったか?」

 香川少年は誠の隊の隊員であり、寺の家系なので脱毛を希望していたが、鶴が変なふうに魔法をかけて、落ち武者のような髪形になっていたのだ。

 誠が念のため四国に連絡を取ると、復活した香川の髪が格納庫を突き破る様が映っていたので、誠はそっと通信を閉じた。
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