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第三章その3 ~敵の正体!?~ 戦いの真相編

出世して敬称がつく。何かこそばゆい

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 誠達は全神連の詰め所へと戻った。

「ただいまーっ、みんな、私よ!」

 鶴は起き上がり小法師こぼしを頭に乗せ、上機嫌で呼びかけた……が、そこには誰もいなかったのだ。

 つい先刻、にぎやかな宴が開かれた畳敷きの広間は、さびれた旅籠はたごのように静まり返っていた。

「おかしいわねえ。かくれんぼでもしてるのかしら?」

 鶴は首をかしげながら、そこらじゅうを探し始めた。

 戸棚の奥、湯飲みの中までのぞき込む鶴に、コマは慌てて止めに入った。

「ちょっと鶴、打ち出の小槌じゃないんだから、そんなとこには隠れないよ」

「あらコマ、私ならやるわよ。やると決めたら徹底的に」

「その根気を他に生かせないもんかな?」

 コマは呆れてツッコミを入れるが、鶴は構わず障子しょうじを開けた。

 廊下は薄闇に包まれ、ひんやりした空気が肌に絡みついてくる。

 誠もさすがに不自然に思った。

「廊下の灯りまで消えてる……まさか襲撃されたのか? それにしては荒らされてない感じだけど……」

 誠が言うと、そこで聞きなれた声が響いた。

「……ご心配には及びません」

 不意に闇の中から、長身の女性が進み出てくる。

 全身黒いスーツ姿。長い黒髪をうなじで縛り、刀をたずさえる彼女は、誠の見知った鳳であった。

「お、鳳さん……? 一体何があったんです?」

 鳳は答えず、そのままうやうやしく片膝をついた。

 こうべを垂れ、胸に手を当てて彼女は言う。

「お帰りなさいませ。姫様、そして黒鷹様」

「く、黒鷹様???」

 鳳は顔を上げ、嬉しそうに誠を見つめる。

「はい。鳴瀬様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

「えっ、いや、そういう事じゃなくて……」

 誠は内心面食らった。

 虐げられ、神使達に飛び蹴りを食らいまくってきた今までからすれば、およそあり得ない事態だったからだ。

 誠は必死に周囲を見回した。

(だ、騙されるなっ、絶対何かある! 油断させて神使が襲ってくるとか!?)

「特にキャメラはございませんよ。ドッキリ企画ではありませんから」

 戸惑う誠を眺め、鳳はくすりと微笑む。明らかに今までの笑みとは違って、全幅の信頼を寄せた表情だ。

 こんなに優しい顔してたんだ……と見とれる誠だったが、首を振って我に返った。

「でっ、でもヒメ子はともかく、なんで俺まで? どうしてそんなにかしこまってるんです?」

「もうその時が来たのです」

 鳳は粛々しゅくしゅくと語り続ける。

「四国を……そして九州を取り戻し、こちらでも邪神の砦を討ち払われました。もう資格は十分ですし、神々もお認めになられました」

「神が認める?? 祭りの神輿みこしにもはね飛ばされたし、おみくじだって大凶なのに???」

「もちろん。この絶望の時が始まって10年……誰もが諦めくじける中、人々を守り続けてきたあなたには、その資格がお有りです」

 なおも怪しんでいる誠に、鳳は安心させるように続けた。

「本当は、もっと前からおしたい……あっ!? いっ、いえ、ご尊敬いたしておりましたが、これで正式にめいがおりましたから……!」

 鳳は少し焦りながら頭を下げる。

「この鳳飛鳥おおとりあすか、これより黒鷹様にもお仕えさせていただきます。いかなるお望みでも、何なりとお申し付け下さい。救国の勇者をお支えする事、それが私の誇りでございます」

(い、いかなる望みも? ……って、何考えてるんだ俺はっ!)

 誠は一瞬変な事を考えそうになり、赤い顔で首を振ったが、鶴は気にせずニコニコしている。

「良かったわね黒鷹、うまいこと出世したわよ」

「う、うーん……良かったのかな???」

「良い事だと思われます。それでは、こちらへ」

 鳳は立ち上がり、先に立って案内を始める。

 通路を曲がり、ますます薄暗い一角へ。以前トイレを借りた際、立ち入るなと言われた区画である。

「…………」

 右手の部屋の障子が開いて、例の女性の写真がぼんやりと見えた。

 誠は思い切って尋ねてみる。

「…………あの女性は?」

「……鳳天音おおとりあまね。今はこの世におりませんが、私の姉でございます」

 鳳は本当に答えてくれた。

「この混乱の始まり頃、旅先で命を落としましたが……出来の悪い私と違い、自慢の姉でございました」

「す、すみません……」

「お気になさらず。それを含めてお役目、私どもの誇りです」

 鳳は気丈にそう言ってくれる。

「立派な姉でしたが、私には優しかったです。あんな事が無ければ、今も人々のために戦い続けていたでしょう…………」

 鳳はそこで言葉を区切り、歩みを止めた。

 彼女が手をかざすと、前方の廊下がぐにゃりと揺らぎ、その姿を変えたのだ。

「……それでは、ここから先は幻想空間。うつつではございません」
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