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第三章その3 ~敵の正体!?~ 戦いの真相編

シンデレラ城に行こう

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 荒れ果てた山野を、コマは全速力で進んでいく。もちろん背には小さくなった鶴や誠、そして第2船団のパイロット達が乗っていた。

 誠達が小さくなったのは、九州でも大活躍した打ち出の小槌のおかげであり、要するに一同は、撤退する敵の後をつけているのだ。



 コマは懸命に走りながら、しきりに疑問を口にした。

「まったく、敵を騙してついていくなんて、聖者のやる事かな」

「平気よコマ、今の世には、囮捜査おとりそうさなるものがあるらしいわ」

 鶴はメガネをかけ、辞書をめくりながら満足げに言った。

「警察がOKなら、私なら何をやっても許されるわよ」

「いやヒメ子、囮捜査って、日本じゃやっちゃダメだっただろ。警察が犯罪を誘発するのはまずいからって……」

 ツッコミを入れる誠だったが、鶴はしたり顔で頷き続け、こちらの話を聞いていない。

「……ま、まあ怪我人は戻らせてるし、あながち無茶とも言いがたいけど……」

 そう言う誠をよそに、第2船団のパイロット達はなごんでいた。

「うわあ、ふかふかだべ……」

「モフモフだね。あたい、ここに住めるかも……」

 しぐれや凛子、それに孝二や恭介も、コマの背中が気に入ったようで、ふわふわの毛やたてがみを心ゆくまで堪能たんのうしている。

「でもさ鶴、敵に案内させるって言っても、この霧の大元おおもとに行くとは限らないよ?」

 コマの言葉に、鶴は自信満々に首を振った。

「平気よ、きっとうまくいくわ」

「そんな都合よくいくかなあ?」

 コマは呆れて呟くのだったが……



「……いや、うまくいくもんだね。君はほんとに、運だけは一流だよ」

 感心するコマをよそに、誠達は高台の草むらから様子をうかがった。

 眼下にあるのは、一言で言えば霧の中の古城である。

 山中に建てられたその城は、魔族が作ったにしては随分と高度な造形美を備えていた。

 中央にそびえる主塔部と、それを囲んで張り巡らされた幾多の尖塔。

 一見不ぞろいに見える各部位は、緻密ちみつな旋律を奏でる音符のように入り乱れていて、どこかき込まれるような魅力さえ感じられた。

「……な、なんかさ、敵の砦にこんな事言うのも変だけど……ちょっと綺麗じゃない? あたいのガラじゃないし、不謹慎なのは分かってるけど……芸術的っていうか」

 顔を赤らめながら言う凛子に、後ろでしぐれも同調した。

「確かにそうだべ、シンデレラ思い出すべな」

「そうそれ! 懐かしいなつい!」

 女子2人が盛り上がるのをよそに、恭介と孝二も相談していた。

「女子はこういうの好きなんだろうけど、綺麗なものにはトゲがあるよな、孝二」

「俺はそう言うのは分からん。分からんが……砦にしては、無駄に装飾されすぎてる気がするな」

 孝二はなかなか鋭い事を言ったらしく、コマが後を続けた。

「その通りだよ。形が複雑なのは、あれ全部魔法陣の柱だね。中にぎっちり呪法具が詰まってて、大きな術を組んでるんだ。魔界の邪気を引き込む術をね」

「ま、魔界の邪気? あたいら、そんなとこにいて平気なのか?」

 凛子がたじろぎながら言うと、鶴がますます満足げに後を続けた。

「大丈夫よ、聖者たる私が一緒にいるもの。でも離れすぎると、たちどころに死ぬでしょうね。サッと離れれば、もうバターンと……あらっ、扉が開くわ!」

「うわっ、ちょっとヒメ子!?」

 鶴が1人で駆け出すので、一同は悲鳴を上げる。コマは慌てて鶴の後を追った。

「やめろ鶴っ、言ったそばから単独行動は!」

「平気平気、3秒ルールよ」

 鶴は気にせず、額に手をかざして城を見下ろした。

 ちょうど巨大な扉が開き、餓霊ども、そして先頭に立つ虎丸達の鎧が城内なかに入っていくのだ。

 扉の周囲には、見張りの魔族らしき集団がたむろしていた。

「どうやって入ろうか、鶴。結界もあるだろうし、小さくなっても見つかるかな」

「任せてコマ、とりあえず元の大きさに戻りましょう」

 鶴は皆を打ち出の小槌で大きくすると、虚空からお面を取り出した。いかにもカラフルで形も様々。祭りの屋台によくあるお面を、10センチほどに縮めた感じである。コマの分は鼻が邪魔にならないよう、アイマスクタイプの『博多にわか面』だ。

「これは鬼うつしの面っていう神器よ。付けると敵は仲間と勘違いするの」

「でも鶴、これ僕はともかく、みんなには小さくない?」

 にわか面で面白い顔になったコマが尋ねるが、鶴は自信満々だった。

「大丈夫、顔が隠れてなくても変身できてるの。邪気が強いから効果は減るけど、たぶんきっとギリギリ平気よ」

 そうこう言いながら、鶴は門へと近づいていく。

 古めかしい装飾を施された門は、巨体の魔族が両脇を固めていた。黒い毛皮に全身を覆われ、何となく熊の獣人のような雰囲気だった。

「こんちわっ、お疲れ様。今戻ったわ」

 鶴が手を上げて通り過ぎると、魔族もおう、と言って手を上げた。

「ほ、ほんとに通れた……大丈夫なのか?」

 おでこに面を付けたまま、誠達は半信半疑で後に続くのだった。
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