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第三章その2 ~東北よいとこ!~ 北国の闘魂編

ルール無用の残虐ファイター

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「すごいわ黒鷹、今までで一番凄い!」

 鶴が興奮し、誠の背もたれをバンバン叩く……が、誠も内心戸惑っていた。

 前も後ろも、左も右も。戦場に飛び交う餓霊の思念の電磁場が、手に取るように感じられる。

 そして相手の行動を理解した瞬間、機体は最適な動きをとって、たちどころに敵を撃破していくのだ。

 長く戦いを続けてきた経験が一気に開花したのか、それとも動きの速い強敵相手で、感覚が研ぎ澄まされたせいなのだろうか。

「……な、何なのあんた……どうなってんの……!?」

「お、おかしいだろう……合わせ稽古じゃないんだぞ……?」

「おら、夢見てるんだべな……?」

 凛子達がぽかんとした顔で呟くが、スタジャンを着た恭介だけは、親指を立てて調子よく叫んだ。

「さっすが黒鷹さん、姫様のびとだ! いや、未来の旦那さんか」

「そうよ恭ちゃん、いいこと言うわっ!!!」

 鶴は鼻息を荒くしながら答え、ぐいぐい誠の肩を揺らした。

「黒鷹、彼はいい子よ!!」

「ちょっ、ちょっとヒメ子、分かったから集中させてくれっ!」

 機体が千鳥足ちどりあしになる誠だったが、そこでコマの怒鳴り声が響いた。

「おい2人ともっ、手があいたなら加勢しろっ!」

 目をやると、コマは飛び跳ねながら3体の鎧と交戦している。うまく立ち回っているものの、いかんせん多勢に無勢だ。

 誠が射撃しながら機体を走らせると、鎧達は警戒して跳び退すさった。

「来やがったな、白いの! 夜祖様も手柄を立てていいっつってんだ! こうなったら俺等で仕留めてやるぜ!」

 鎧の一体が叫び、手にした山刀を振りかざすと、残り2体の鎧もえる。

「次郎丸、三郎丸、行くぞ!」

 相手は多脚の足で大地を駆け、猛烈な速さで誠に迫った。

 誠は敵の突入コースを見極め、咄嗟に機体の身をかわす。

「よく避けたな! 次はねえぜ!」

 あざ笑うような言葉と共に、再び3方向から鎧が迫る。

 まるで一心同体のような、息の合った高速コンビネーション。こんな相手は今まで見た事がない。

「終わりだ、人間の英雄さんよ!」

 3体の鎧が同時に刀を振りかぶった。

 刃は赤い光を帯びて輝くが、誠は落ち着いて銃を構える。そのまま機体を反転させ、周囲に弾丸をばら撒いた。

 相手の体ではなく、刃でもない、山刀の持ち手を狙ったのだ。そこだけは攻撃の魔法にも、防御の魔法にも覆われていなかったからだ。

「うおっ!?」

 3体の鎧は、ほぼ同時に声を上げた。刀の持ち手、しかも付け根の柄頭つかがしらを撃たれ、大きく体勢を崩したのだ。

 混乱したせいか、体を覆う防御魔法……赤い光の幾何学模様きかがくもようも、その形を大きくゆがめる。

 その防御の乱れを狙って、誠は強化刀を一閃したのだ。

 1体の鎧は、胴を両断されて転倒した。

 もう1体は手で防御体勢ガードしたため、腕が飛び、胸に血しぶきが舞ったものの、両断まではいかなかった。

 最後の鎧は咄嗟の反射神経で身をよじり、こちらの刀を浅く食らいながら転がった。転がりつつ、素早く身を起こして叫んだ。

「おおお、三郎丸、可愛い弟よ! なんて事だ!?」

 先ほどまで殺戮さつりくの喜びであざ笑っていた鎧は、見る影も無く動揺している。

 残った餓霊どもは、負傷した大将達を守るべく、鎧の周りに集まってきた。

 そのまま戦闘は中断し、両陣営は睨みあったのだ。

 餓霊の数は残り5体。鎧を入れても、数の上では人間側が有利だが……

 誠がモニターで確認すると、第2船団のパイロット達は、全員疲労の色が濃い。1人で3体を相手どり、時間稼ぎをしたコマも消耗しただろう。

「……うーん、敵も味方も疲れてるわね」

 鶴は呟くと、唐突に変な事を言い出した。

「潮時よ。みんな、ここで退却しましょう!」

『……………………えっ?』

 一瞬、一同は変な声を出したが、鶴はどっこいしょと身を乗り出し、勝手に操作パネルのスイッチを……外部拡声器スピーカーをONにする。

「こんにちは、私よ、鶴よ! なんだか知らないけど、虎みたいな毛の生えたあなた達。ここは一旦お開きにしましょう」

「お、お開きだと……!?」

 相手の鎧は面食らって動揺している。

「そうよ。そこに転がってる弟さん、さぶちゃんだっけ? あなたはさぶちゃんが心配だし、私達も仲間が心配。ここはお互い帰って治療しましょう」

「そ、そんな……ふざけるなよ……!」

「そうだ兄者、せっかくここまで追い詰めたのに……」

 鎧達は戸惑っている。

「じゃあいいわ。戦いが始まったら、さぶちゃんを優先的に狙うわよ」

 鶴は悪そうな顔でニヤリと笑った。

「ちなみに私は、さっきから全然戦ってないわ。力もまるごと温存してたし、元気いっぱい・モリモリ状態モードよ。開始早々、さぶちゃんを全力の魔法で灰にしてやるわ」

「なっ、なななっ……!」

 リーダー格らしい鎧は、肩をわなわな震わせていたが、やがてこちらを指差した。

「てっ、てめえそれでも、高天原たかまがはらの神が寄越よこした神人か! そんな汚い真似を……」

「だまらっしゃい! この鶴ちゃんは、血で血を洗う戦国の生まれよ! そこらの甘っちょろい聖者と違って、残虐ファイトもお手のものだわ!」

「ちょっと、いくらなんでも酷すぎるよ鶴」

 いつの間にか小さくなったコマが、鶴の肩に飛び乗って抗議するが、鶴は全く気にしない。

「そうと決まればみんな、とにかくさぶちゃんを狙って! 何がどうあっても、さぶちゃんデストロイ作戦でいくわよ!」

「や、やめろっ、やめてくれ! 大事な俺の弟なんだ!」

 敵は地団太じだんだを踏んだが、諦めて片手を前に突き出した。

「……わ、分かった、ここは俺達も退く。引き分けって事でいいな?」

「そうそう、この鶴ちゃんと引き分けただけでも大したものよ。凛ちゃん、あの旗をお願い」

 鶴は適当に頷くと、凛子に頼んで陣地の旗を持って来てもらった。『鶴ちゃん本陣』と書かれた、あののぼり旗である。

「それを証拠に持っていくといいわ。私も女神・岩凪姫ナギっぺに適当に言うから。ひたすら真面目に、かつ一生懸命に戦ったけど、仲間の状況を見てやむなく退いたと」

 なんでいつも話を盛るんだ、とコマに言われつつ、鶴は拳を振り上げて叫ぶ。

「さあみんな、そうと決まれば撤退よ! 帰っておいしいものを食べましょう!」

 一同は何とも言えない空気に包まれながら、取りあえず機体を歩かせた。

 敵も倒れた鎧を背負い、霧の奥へと帰っていく。旗はちゃっかり持ち帰るようだ。

 誠はしばらく警戒していたが、相手は引き返す様子もなかった。

 画面に映る凛子も、自らを納得させるように呟いた。

「ま……まあ、英断かもね。あたいらもギリギリだったし、あのまま戦ってたら、誰か犠牲になってたかも」

 そこは誠も同意見だった。

「てかヒメ子も、本当は疲れてただろうしな。あれだけの邪気の中、ずっと飛び続けてたんだから。ここは一旦退却して……」

 画面の隊員達はうなずいていたが、そこで鶴が首を振る。

「……しないわ!」

「えっ!?」

 一同は驚きの声を上げた。誠が振り返ると、鶴は過去最高のドヤ顔をしていたのだ。

「言ったでしょう黒鷹? 私はルール無用の残虐ファイター、悪役レスラーも真っ青だと」

「………………あっ……そういう事か」

 誠は鶴の企みに気が付き、我ながらかなり引きつった笑みを浮かべた。
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