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第三章その2 ~東北よいとこ!~ 北国の闘魂編

対決・爪牙兵団1

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「ヒメ子、乱戦になったら地図見てる暇が無い! みんなの頭に、思念で直接送り込めるか?」

「このぐらいの数なら平気よ!」

「サンキュー、助かる」

 誠はうなずき、一同に手早く告げた。

「聞いた通りだ、敵が来るタイミングはヒメ子が教えてくれる。陣が破られないうちに、射撃で出来るだけ数を減らそう」

 誠の言葉に、一同は半信半疑で首を縦に振った。

 やがて市街の向こうから、幾つかの光点が近づいてくる。現実の視界に、鶴の神器の表示が重なっているのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 十分に引き付けた後、味方の銃が火を噴いた。餓霊どもは弾丸の雨を身に受ける。

 一回で致命傷とはいかないものの、敵の魔法防御を示す光の幾何学きかがく模様が歪んでいく。

 もんどりうって着地する敵に、誠は冷静に弾丸を発射。防御の弱った相手を、一発ずつ確実に撃ち抜いたのだ。

 餓霊は痙攣けいれんしながら次々に崩れ落ち、一同は胸を撫で下ろした。

 散弾銃ショットガンをばら撒いて足を止め、誠の自動小銃アサルトガンでとどめをさす。およそ理想的な戦い方だろう。

「……な、なんとかうまくいったべな」

 しぐれが安堵あんどした顔で呟くが、そこで一同の脳裏に、再び赤い光点が見えた。

 一方向だけではない。右も左も、前も後ろも、無数の敵が一斉に押し寄せてくるのだ。

「……第2波、来たな」

 誠も気合を入れ直した。

 ここから先は至極単純しごくたんじゅん。弾を撃ち尽くすまで攻撃を加え、ただ敵の数を減らすのみだ。

 敵は入り組んだ建屋に苦しみ、ある程度被弾しながらも、小刻みに移動して致命傷を免れている。

「足場が悪いのに、うまく避けてるわ。このままじゃらちがあかないわね」

 鶴は厳しい顔で戦況を見守っていたが、そこで不意に誠に告げた。

「黒鷹、いったんおびき寄せましょう!!」

「おびき……分かった!」

 誠が理解すると同時に、鶴は凛子に怒鳴った。

「凛ちゃん、みんな刀抜いて! 弾切れのふりよ!」

「ええっ!?」

 目を丸くする凛子に、誠も続けた。

「お願いします、飛崎中尉! ヒメ子の言う通りに!」

「ああもう、了解! あんた達、全機抜刀!」

 凛子は戸惑いながらも一同に告げる。

 隊員達は銃を置き、強化刀を抜いて格闘戦の準備をしたのだ。

 それを弾切れと受け取ったのだろう。敵は一斉にえると、霧の中から突進して来たのだ。

 彼我ひがの距離はどんどんせばまるが、鶴は一同を押しとどめた。

「……まだよ、まだ動かないでね」

「まだって、これ以上何が……」

 凛子が尋ねるが、鶴はもう答えずにタイミングを見計らっている。

 やがて押し寄せる敵の一団は、大地を蹴立てて跳躍した。

 こちらの電磁バリケードを飛び越えるために……踏ん張りのきかず、方向転換もままならぬ空中にだ。

「今だわっ!!」

 瞬間、鶴が叫ぶと、陣地の周囲に青い霊気の壁が輝いた。

 敵はその壁に叩きつけられ、激しい火花を上げている。

 味方はあっけに取られて硬直しているが、誠が叫んだ。

「飛崎中尉、銃をっ!!」

 凛子は一瞬だけ目を見開いたが、素早く配下に指示を送る。

「今だあんたら! 弾切れ上等、撃ち尽くせ!」

 次の瞬間、銃を拾い上げた味方機が、敵部隊に一斉射撃を加えていた。

 発射された弾丸は、敵のかなりの数を一瞬で撃ち滅ぼす。

 鶴の霊力の壁によって、餓霊どもの防御の電磁式が弱まっていたためだ。

「よしよし、だいぶ減ったわね」

 鶴は満足げに戦況を確認している。

 わずか一挙動いっきょどうで敵の大部分を討ち果たし、残るは30体というところか。

 普通なら撤退レベルの損害のはずだが、敵群はいま退く様子を見せない。

 雄たけびを上げて進み出るのは、あの人型の上半身を持つ鎧達だった。恐らく中に魔族が乗っているのだろう。

 彼らが湾曲した山刀を振り上げると、残った餓霊が四方八方からこちらに迫った。
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