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第三章その2 ~東北よいとこ!~ 北国の闘魂編

姫はこういう事も出来る

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「敵襲だわ!!!!!」

『うわっ!?』

 鶴が急に叫んだため、一同はひっくり返ったが、鶴は構わず半透明の地図を表示させた。

 誠が身を起こしてのぞくと、内陸から敵の一団が猛烈なスピードで迫っている。

(なんか、いつもより大雑把おおざっぱだな。いくら新しい土地に来たからって……)

 誠はそこで違和感を感じた。半透明の地図の表示が、普段よりかなり不鮮明なのだ。

 新天地に来てしばらくは、あまり精度が良くないのは知っていたが、それにしても雑過ぎる。

 敵は形状も分からず、ただ動く光点としか示されていなかった…………が、それでも第2船団のパイロットにとって、初見で未知のわざなのである。

「ええっ!? それは何だべ?」

 なまりの強い少女が尋ねると、コマは彼女の肩に飛び乗って前足を上げた。

「鶴が使う神器の地図、道和多志みちわたし大鏡おおかがみだよ。にしてもさすがディアヌスのお膝元だ、敵もガンガン来るね。どうする鶴?」

 鶴は自信満々で鎧の胸を叩いた。

「もちろん迎え撃つわ。彼らを懲らしめるのはそれからよ」

「いやヒメ子、この人達は懲らしめなくていいから」

 誠は慌ててツッコミを入れるが、そこでちひろがまとめに入った。

「はいはい、それではあたしから総括そうかつ。疲れてるとこ悪いけど、その子達も一緒に、急ぎ迎撃に出て欲しいの」

「ちょ、ちょっと司令っ!? あたいらさっき会ったばっかで、共闘なんて無理ですよ!」

 凛子が慌てて抗議する。

 だがちひろは、そこで急に真面目な顔になった。どこか悲しげで、潤んだ瞳で、ちひろは皆に訴えかける。

「……ごめんねみんな、今はみんなが頼りなんだ。あたしが戦えたらいくらでも替わってあげるんだけど……もう戦えないからさ。お願い……平和になったら、いっぱいおごってあげるから……!」

「いっ、いえそんなっ! あたいら別に、不満とかじゃありませんからっ……」

 凛子はいい人なのか、あっという間に騙されてしまった。

 このへんのごまかし方は流石だなあ、と思う誠をよそに、ちひろは画面に各種情報を表示し、手早く状況を伝えた。

「……というわけなのよ。詳細は端末にも送ったけど、いつも通り素早い敵だから。相手の動きに合わせて、対応は臨機応変にね」

『了解!』

 返答する一同をよそに、屋外では轟音が響いている。

 連絡を受けたであろう整備班が、既に出撃準備を始めているのだ。

 布張りの格納庫のとばりが開くと、輸送車両、そして荷台に座した人型重機が外に出てくる。

北上きたかみ2式』の名で知られる無骨な人型重機は、全身を青と白に塗装されていた。

 設計は奇をてらう事なく質実剛健。

 乗り手に合わせた特殊な改造はしていないようで、肩の機体番号と武装にわずかな差があるだけなのが朴訥ぼくとつでいさぎよい。

 手にした銃は散弾銃ショットガンタイプ。腕部や胸、肩などの前面装甲が厚い。要するに、主に敵との格闘戦を想定しているようだった。

 出撃命令から起動までが極端に短いので、どうやら普段から機体の人工筋肉を待機ウェイティング状態にしているようだ。これも激戦区ならではの対応だろう。

「それじゃ黒鷹、こっちも鎧を出すわね」

 誠が振り返ると、鶴が胸の前で手を合わせていた。

 するとたちまち地面に光の円が現れ、白い人型重機・心神が競りあがってくる。

 操縦席に乗り込むと、凛子が驚いた顔で通信を入れてきた。

「あ、あんたら一体何者なの? 地面から機体出すなんてさ」

「ふふ、だから言ったでしょう、姫だと」

「姫でも無理だろ普通は」

 誠はそう言いながら、各種動作チェックを短縮で行った。

 機体の人工筋肉が脈動し、お馴染みのゴムを圧縮するような音が周囲に響いた。

「あたいは飛崎凛子ひざきりんこ、この特雪の隊長やってる。メンバー表と機体の識別番号はそっちに送ったから」

 凛子はそこで顔を険しくし、額にねじり鉢巻をしめた。力強いその表情は、大海原の獲物に挑む漁師のようだ。

「言っとくけど、こっちの敵は半端じゃないから! 詳しいことは道すがら、そんじゃー出るよっ!」

 凛子の号令に従い、輸送車は急速発進したのだ。
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