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第三章その2 ~東北よいとこ!~ 北国の闘魂編

悪い子はいねが?

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「到着! どこに着いたか知らないけど、勘で適当にここに来たわ」

 地面に足がついた途端、鶴は満足げに腰に手を当てた。

「今更だけど、君はほんとに勢いだけで突っ走るね」

 鶴の肩に乗るコマは、そう言って2本足で立ち上がり、すんすんと風の匂いをかいだ。

「たぶん富山湾の匂いだな。能登半島の東側っぽいよ」

「そ、そうなのか? 俺も瀬戸内海じもとだったら、匂いで大雑把な位置は分かるけど……」

 誠はたじろぎながら答えた。

 誠達がいるのは、屋外の通路である。

 通路と言っても地面がむき出しで、左手には、よく建築現場で見るようなプレハブの建屋が。右手にはダークグリーンの布張りの、格納庫らしきテントが見える。

 通路はそれらの合間を縫うように続いていて、幾つかの足跡が、プレハブ建屋の入り口に吸い込まれていた。

 引き戸の隣には、分厚く縦長い一枚板に『第2船団・第101特別人型重機小隊』と記されている。

 まるで武道場の看板のようで、書かれた筆文字にもやたらと威圧感があった。

「第2船団のヒトマルって事は、雪月花せつげっか……特雪とくゆきの詰め所か」

 誠の言葉に、鶴は目を輝かせる。

「まあ、得雪? 何かお得な物があるのかしら?」

「いや、そうじゃなくて。特雪ってのは、第2船団のエースパイロットの集まりだよ。船団設立当初から続いてて、激戦区ばかりを転戦してるらしい」

「つまるところ、そのお買い得集団を懲らしめればいいわけね。任せて、私そういうの得意よ」

 鶴は適当な理解で頷くと、全身を光に包まれる。

 すると彼女は、瞬く間に恐ろしげなお面と稲藁いなわらをつけた『なまはげ』の姿に変わった。

 ご丁寧に、肩に乗るコマまでミニサイズのなまはげ衣裳コスに変えられている。

 鶴は稲藁いなわらをガサガサ鳴らしながら通路を駆け抜け、乱暴にプレハブの引き戸を開ける。

「たのもう、私よ! 悪い子はいますかーっ!」

 鶴が叫びながら飛び膝蹴りの要領で室内に飛び込むと、入り口付近で悲鳴が聞こえた。どうやら中の人に膝蹴りが当たったらしい。

 誠が慌てて屋内に入ると、派手なスタジアムジャンパーを着た少年が目を回して倒れていた。ジャンパーの背中には、武将の伊達政宗だてまさむねが男前な顔で歯を光らせ、親指を立てている。

 室内の少年少女は、当然ながら混乱していた。

「うっ、うわっ、なまはげだべ!」

「なんでこんな時になまはげなの!?」

 鶴はそこでなまはげ衣裳コスをさっと取る。

「なまはげじゃないわ、姫よっ!」

「姫!?」

 コマも鶴の肩に2本足で立ち、お面とわらを投げ捨てた。

「僕は狛犬だよっ」

「こ、こまいぬ!?」

「もう何がなんだか……」

 中にいた少年少女は、ドン引きで圧倒されている。初対面から怒涛どとうのやりたい放題だ。

 掴みはオッケーだわ、と満足げに頷くと、鶴はずかずか奥に踏み込んだ。

「こんにちは。私は三島大祝みしまおおほうり家に生まれた可愛かわい子ちゃん、名は鶴よ。なかなかどうして高貴だけど、気さく過ぎて困るほどなの」

 困るのは僕だけどね、と言うコマにデコピンすると、鶴はびしっと一同を指差す。

「それじゃ、単刀直入に言うわ。あなた達、第4船団と仲良くなさい!」

 そこで背の高いポニーテールの少女が尋ねる。

「……って事は、あんたたち第4船団の連中なの?」

「違うけど、そっちの方向から来たわ」

「つまり殴り込みカチコミってわけか。上等だね」

 長身の少女は、手にした竹刀を構える。

 いかにも野生的というか、たくましい印象のする彼女は、恐らくこの特雪の指揮官なのだろう。

「それで? こんなところに侵入して、一体何を企んでるって?」

 だがそこで、倒れていた少年が起き上がってきた。

「おお、いてて……うわっ、これは姫様! 思ったよりお早いお着きで!」

 彼は目を丸くして驚いたが、どうやら彼も全神連の人間らしい。さっそくその場の面々をなだめ始めた。

「ま、まあみんな、そう気色ばむ事もないだろ。ここは俺に免じて、ひとつ穏便にいかないか?」

 だが竹刀を持つ少女は、ぎろりと少年の方を睨んだ。

「恭介、あんた何かばってんのさ!」

「そうだ、どう見ても怪しいだろうが!」

「んだ、そもそもおめだけよくサボるし、東北ぽくねえ。今日という今日は性根を叩きなおすべ!」

 他の隊員も加わり、少年を懲らしめていくが、一応ケガをしないよう、竹刀は置いてぬいぐるみでのお仕置きである。

 さくらんぼや起き上がり小法師こぼしのぬいぐるみはともかく、マグロのぬいぐるみは巨大で威力がありそうだった。

「ひどい! いてっ、ちょっと待って、いったっ! マグロだけズバ抜けて強いっ!」

(こ、この絵面えづら他人事ひとごととは思えないな……!)

 神使に攻撃される自分を思い出し、誠は止めに入ろうとしたが、そこでふと横手から声がかかった。

「は~い、そこまでよ~。愛しの教え子たち、ちひろお姉さんの登場よん♪」

 声の主は、室内に据え付けられていた作戦伝達ブリーフィング用モニターで手を振っていた。

 ショートカットでニヤニヤ顔の女性、つまり全神連のちひろ氏である。

「ほ、本荘ほんじょう司令……!」

 ぬいぐるみを掲げたまま、少年少女は動きを止める。

「その子らはあたしこと、本荘ちひろの知り合いなのだわさ。怪しくないと言えば無理があるけど、信用できるから一旦落ち着こう」

 ちひろはドン、と紙芝居のようにイラストを差し出し、誠達の身の上を説明してくれた。

「第5船団の鶴姫部隊って、聞いた事あるでしょ? 四国を奪還して、九州でも大活躍した凄腕の子達よ。ついさっきも第4船団側の防衛線が突破されそうになったのを、彼らの助っ人で追い返したんだから」

 イラストは誠達の活躍を描いていたが、鶴の姿は都合よく美化され、少女マンガのようなキラキラ目だったので、鶴は「そっくりだわ」と満足げである。

 そこでポニーテールの少女が尋ねる。

「……じゃ、じゃあ司令がこの連中を助っ人に呼んだんですか?」

「そうよ凛子ちゃん。いずれあの魔王ディアヌスとドンパチしなきゃいかんでしょ? 今は対立してても、第4船団と共闘するかも。その時の橋渡しには、この子らに入ってもらえば助かると、天からのお告げがビンビン来るのよ」

「何がお告げですか、まったく司令は……」

 多少文句を言いつつも、第2船団のパイロット達は大人しくなった。さすがに元レジェンド隊だけあって、ちひろは人望があるらしい。

「それで、この子らどうするんですか? 司令の所に連れて行きます?」

 凛子と呼ばれた少女は尋ねるが、その時。
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