上 下
7 / 87
第三章その1 ~任せてちょうだい!~ 同盟なんてお手のもの編

つるちゃんは大スター!

しおりを挟む
「う、うわーっ!?」

 目の前を埋め尽くす若者達に、誠は思わず声を上げた。

 戦いを終え、羽咋はくい七尾ななお防衛ラインを守る部隊に挨拶に来たのだが、機体を降りた途端、黄色い声援が耳を叩き付ける。

「キャーッ、あれが鳴瀬さんよ!」

「つる様もいたわ! 可愛い!」

「コマ君、こっち向いてーっ!」

 さっきの戦闘での活躍もあって、若者達のテンションは最高潮だった。

 女性ファンも多数おり、まるで有名な音楽スターの来日風景である。

「なっ、なんだこれ!? いや、絶対ドッキリ企画だ、どこかにカメラがあるはずだ。喜んだとこをどん底に落とすつもりだろ、そうはいくかっ……!」

「カメラなんて無いわ黒鷹」

 警戒しまくる誠に、鶴はにこにこしながら言う。

 誠の機体を光で包み、すーっと地面に吸い込むように収納しているので、周囲のどよめきが凄まじい。

 さすがつる様、ナイスイリュージョン、と声援が飛んでくるので、鶴は有頂天で手を振った。

「みんな、ありがとーっ! それで黒鷹、これは現実よ。日本中が団結して魔王に立ち向かうために、私達の冒険を広めたのよ。言わば現代の神話、救国の鶴姫伝説よ。もちろん私の報告書を元にしてね」

「まあ、元が元だからね」

 今は子犬ぐらいの大きさになったコマは、鶴の肩でツッコミを入れる。

「黒鷹も見てみるかい?」

 コマが虚空から本を取り出したので、誠はそれを受け取った。

 第1巻 いざ出陣! 真面目なる聖者・つるちゃん!

 第2巻 九州に行くわ!

 第3巻 グルメと私

 帯にはわけのわからない評論家の顔写真があり、「私がお勧めします!」との文言が書いてある。

「誰なんだよこの評論家ひと……」

 誠が戸惑いながらめくってみると、カラーページが何枚もあり、鶴、そしてキツネや牛といった神使しんし達がダブルピースで写っていた。

 我慢して読み進めていくと、今までの戦いが、まるで神話のように派手に脚色されている。

 誠も無駄に美化され、写真は合成でバラをくわえさせられつつ、背景には星がキラキラと輝いていた。

「こ、これは……いくら何でも盛りすぎじゃないか……???」

 誠が目を白黒させていると、女性ファンが悲鳴を上げる。

「キャーッ、鳴瀬さん、素敵!」

「間近で見るとかっこいいわ!」

「結婚してーっ!」

 鶴は聞き捨てならぬと割って入った。

「まあけしからん、黒鷹は私のものよ! そこへなおりなさい、お説教してくれるわ!」

 だがそれもファンにはご褒美だった。

「キャー姫様、お説教してーっ!」

「私よ、私からよ!」

 コマが『姫様のお説教・最後列』『現在58人待ち』という看板を掲げている。

 整理券が配られているが、残念ながら抽選にれ、顔を手で覆って泣いている子もいた。

 よく見るとポスターやブロマイドも販売されており、全て飛ぶように売れている。

 他にも多数商品化されて、鶴ちゃん語録、鶴ちゃんカレンダー、鶴ちゃんお守りなどなど……

「もう滅茶苦茶だなおい……」

 ドン引き中のドン引きで呟く誠の肩に、コマが慰めるように飛び乗ってきた。

「それだけみんな期待してるんだよ。生きるか死ぬかの瀬戸際だし、僕らの活躍だけが最後の希望なんだからさ」

 コマは懸命に説明を続ける。

「尋常じゃなく話を盛ってるけど、今度ばかりは岩凪姫様もお許しになったんだ。もうすぐとんでもない魔王と戦うから、英雄がいなきゃ心がもたないって」

「だからって、いくら何でもこれは……」

 バラをくわえながら戦う挿絵さしえを見て文句を言う誠だったが、コマはなおもとりなした。

「確かに大げさだけど、君の先輩もそうだっただろ?」

「!」

 誠は痛いところを突かれた。

 言われてみれば確かにそう、あの神武勲章レジェンド隊の先輩達も同じだ。

 大げさに吹聴ふいちょうされた活躍、人々の過剰な期待。

 みんな普通の若者だったのに、人々の求める英雄像を演じてきた。

 皆の希望となるために、彼らは黙って背負ってきたのだ。

 だから今度は自分の番なのか…………と思ったところで、警備員がファンにはり倒されてしまう。

 雪崩なだれのように人が押し寄せ、誠の覚悟は瞬時に吹き飛んだ。

「だっ駄目だ、防衛線が決壊した!」

「いくら私とはいえ、予想外の人気ね。黒鷹、ちょっと逃避行しましょう!」

 鶴は誠の手を握り、一目散に走り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

こちら、異世界対策課です 〜転生?召喚?こちらを巻き込まないでくれ!〜

依智川ゆかり
ファンタジー
   昨今ブームとなっている異世界転生または召喚。  その陰で、その対応に頭を悩ませている神々がいた。    彼らの名は『異世界対策課』。  異世界転生や召喚されがちの我らが国民を救うべく、彼らは今日も働いている。  ──異世界転生? 異世界召喚? 良いから、こちらの世界を巻き込まないでくれ!  異世界対策課の課長である神田は、今日も心の中でそう叫ぶ。  …………これは、彼らの日々の職務内容と奮闘を記録した物語である。 *章ごとに違った異世界ものあるあるを詰め込んだようなお話です。 *このお話はフィクションです。  実在の神様・団体とは何の関係もございません。  ……多分。 *小説家になろう様でも公開しています。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

クセの強い喪女作家のショタ吸血鬼育成日記

京衛武百十
キャラ文芸
クセが強すぎていまいちメジャーになりきれない小説家<蒼井霧雨>はある日、自らを吸血鬼と称する少年<ミハエル>を拾う。柔らかいプラチナブロンド、吸い込まれるような碧眼、傷一つない白い肌、ネコ科の動物を思わせるしなやかな四肢。もはや想像上の生き物としか思えない完璧美少年を己の創作活動のネタとするべく育成を始めた彼女と吸血鬼の少年?との奇妙な二人暮らしが始まったのだった。     なろうとカクヨムでも同時連載します。   https://ncode.syosetu.com/n1623fc/   https://kakuyomu.jp/works/1177354054887376226

命姫~影の帝の最愛妻~

一ノ瀬千景
キャラ文芸
ときはメイジ。 忌み子として、人間らしい感情を知らずに生きてきた初音(はつね)。 そんな彼女の前にあらわれた美貌の男。 彼の名は東見 雪為(さきみ ゆきなり)。 異形の声を聞く不思議な力で、この帝国を陰から支える東見一族の当主だ。 東見家当主は『影の帝』とも呼ばれ、絶大な財と権力を持つ。 彼は初音を自分の『命姫(みことひめ)』だと言って結婚を申し出る。 しかし命姫には……ある残酷な秘密があった。 和風ロマンスです!

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

処理中です...