新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART3 ~始まりの勇者~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

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~プロローグ~ いざ、本州上陸

シッカりトドメをささねえと

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「見えてきたわ、黒鷹! まるでくちなわ……ううん、でっかい蚯蚓みみずみたいね!」

 鶴の言葉通り、ひしめく餓霊の向こうに敵の大将が見えてきた。

 ぶよぶよとした砂色の巨体は、ファンタジー風に言えば、巨大砂蟲サンドワームのような姿だ。

 それは目の無い頭部でこちらを見据えると、口腔こうくうに赤い光を満たす。数瞬の後、何かの液体を大量に吐き出し始めた。

 赤い光を帯びた液が雨のように降り注ぐと、蒸気を上げて路面を溶解せしめていく。

 まともに戦う気などなく、こちらを足止めするのが目的のようだ。

「凄い嫌がらせですこと。高濃度の呪いの塊、邪気まみれの腐れ水ですわね……!」

 あの女性パイロットが、素早く一同の前に結界を展開する。

 だがこれでは相手に近付く事が出来ない。

 あの神獣のような鹿達も、光の壁で防御するのが精一杯だ。

 その間に敵陣は体勢を立て直し、誠達を取り囲もうと迫っている。

 合流したパイロット達も焦りの表情を浮かべるが、そこで鶴が、誠の背もたれを掴んで身を乗り出した。

「黒鷹、もう平気よ! そろそろ霊気が回復したわ!」

「ようしっ、ヒメ子、頼む!」

 誠は機体を操作して、大きくバックステップした。

「皆さん、俺とヒメ子が上空うえからいきます!」

「分かりました、援護します! 才次郎さいじろう津和野つわのさんもお願い!」

 藤色の髪の少女が叫ぶと、おかっぱ頭の少年、長い髪の女性も頷く。

 幼い大和くんも気合いを入れているが、そこは鹿になだめられていた。

 誠の機体は空中高く飛び上がり、上空から弾丸を発射。

 敵ボスの気を引くべく、目立つ動きを繰り返しながら、相手の後ろ斜め上方へと回り込む。

 ボスは誠を撃ち落とそうと首を反らすが、その隙に味方は突進。

 青い光の電磁鞭でんじべんが、そして槍が閃くと、敵の体を大きくえぐる。

 気付いたボスが頭部を動かすものの、最大出力フルパワーの結界がその動きを鈍らせていた。

 周囲の餓霊は鹿やコマ達が蹴散らし、ボスに近づけなくさせている。

「黒鷹殿っ、長くはもちません、今ですわっ!」

「了解っ!」

 誠は機体を急降下させた。

 降りながら、阿吽あうんの呼吸で鶴が念じると、機体の持つ強化刀に、物凄い雷の力が宿った。

「ヒメ子、急所は!?」

「頭のところ! ほかにもあちこち!」

 鶴の思念がイメージとなって伝わって、誠は相手の急所を理解する。

 まず頭、そして心臓部。体の各所にも散在しているのは、巨体を動かすために神経が分散しているのだろう。まるで節足動物の神経節しんけいせつだ。

 誠はそのまま敵の頭を一刀両断、着地して素早く各所の神経節しんけいせつをも切断した。

 細切こまぎれになった敵は、地響きを立てて落下したが、巨体はまだもがくようにうごめいている。

 だがそこで鹿達が殺到して、敵の大将をボコボコに踏み潰した。

「念入りにやれよ。この手のヤツはしぶとい、シッカりトドメをささねえとな」

 煙管きせるをくわえた鹿の号令で、鹿達は何度も往復しながら餓霊をぐりぐり踏み潰す。

 さしもの大将級の餓霊も溶け崩れ、周囲の敵ももがきながら消えていった。

 餓霊はその一帯のボスを倒せば、配下も一緒に消える性質があるからだ。

「とりあえずこれで、付近の敵は消えたのか……?」

 誠は少し安堵したが、そこで弾けるように機体を振り返らせた。

「!!!???」

 はるか南西の方角から、凄まじい気配を感じたからだ。

 霊感の有無など関係なく、生きとし生けるもの全てが感じ取れる、禍々まがまがしい存在感。

 彼方かなたに立ち込める暗雲は、時折稲光いなびかりで照らされながら、少しずつ周囲に広がっている。

「……物凄く大きな邪気よ。あれが魔王のディアヌスかしらね」

 鶴も珍しく緊張した様子でつぶやいている。

 そこで機体のモニターに、長い黒髪の女性が映った。

 やや切れ長の目元、力強い表情。

 全身をまばゆい光で包まれた彼女こそ、鶴をこの世につかわした日本神話の女神・岩凪姫いわなぎひめである。

 岩凪姫は一同に語りかけた。

「皆、急な任務だが良くやってくれた。ねぎらいたいところだが、ディアヌスの邪気を見たか?」

 誠達は無言で頷く。

「感じた通りだ、決して生易しい相手ではない。ここに来た以上、片時も油断をするでないぞ」

「平気よ、任せておいて、ナギっぺ」

 軽く答える鶴だったが、そこで合流したパイロット達の顔がモニターに映し出された。

 藤色の髪の少女が、一同を代表して語りかける。

「それでは代行だいこう様、ご案内してよろしいでしょうか」

「うむ、湖南こなんよ、後は任せる」

 女神は頷き、あっさり画面から姿を消した。

 …………そうなのだ。このパイロット達は、ただの戦闘員ではない。

 以前のようにお面を付けていないものの、鹿児島で誠達に加勢し、魔族どもと戦った人々。女神とも面識のあるつわもの達。

 はるか昔から、神に仕えてきた全日本ぜんにほん神道連合しんとうれんごう…………すなわち全神連ぜんしんれんのメンバーなのだ。
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