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~グランドフィナーレ~ もう一度、何度でも!
もう一度、何度でも!
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そしてしばしの時が流れ、よく晴れた春の日である。
誠は1人散策していた。
普段なら誰かしら傍にいるのだが、今日はみんな、島の女性達の集まりに呼ばれているのだ。
小道から大通りへ出ると、すぐ大山祗神社に差し掛かる。
頭を下げながら鳥居の前を過ぎ、披露宴をした宴会場エリアを越えると、商店街が見えてくる。
一時はかなり寂れた場所だったのだが、島の復興とともにどんどん賑やかになっていて、誠を見ると皆が声をかけてくれた。
頭上のスピーカーからは、謎の歌声が流れて来る。
真面目ひっとすじ、つるちゃんと♪ 不真面目、こしゃくな狛犬の♪
つるちゃん音頭で、ございいまああすうう♪
「いつ作ったんだよこんな曲」
ツッコミを入れる誠に、皆が揚げたてのじゃこ天や猪のメンチカツをくれたが、その袋にはつるちゃん商店街のロゴがあった。
食べながら商店街を抜けると、宮浦港へ辿り着く。
石灯籠の並ぶ道を……昔、ハリウッド映画の撮影があったという景色を眺めていると、不意に後ろから声がかかった。
「黒鷹、ここにいたか。少し面倒事があってな」
振り返ると、そこには長い黒髪を伸ばした長身の女神が。つまり岩凪姫が立っていたのだ。
「面倒事って何ですか?」
「実は邪神の中に、まだ弱っていない一団があってな。東北に出張っていた勢力が、地下に隠れているらしいのだ。奴等が率いる残党が、巻き返しを狙っているとの報告が入った」
岩凪姫はそう説明する。
「現世も邪気に満ちていないし、せいぜい配下を繰り出す程度だろう……が、私も他の神々も力を使い過ぎて派手には動けん。だからお前に出て欲しいのだ」
「分かりました、すぐに行きます!」
誠は一も二も無く即断した。
「折角復興したんですから、絶対誰も泣かせません!」
「うむ、良い顔だ。少し……夏木に似てきたかな?」
女神はよく分からない事を言う。
誠がきょとんとしていると、女神は微笑んで首を振った。
「気にするな。男が己を磨いた時、そういう風になるのかも知れぬ。誇っていい事だ」
誠は少し戸惑ったが、女神は尚もこう言った。
「それと1つ言い忘れていたがな。このお役目を経て、鶴は立派になっただろう?」
「……はい」
誠は素直に頷いた。
「あなたが導いてくれたおかげです」
そこで岩凪姫は、腕組みして宙を見上げた。
「それがだな。天音の魂を入れた影響が、そろそろ出る頃だと思う」
「影響?」
「うむ。巻き戻すというか、精神年齢というか……」
「えっ……それって、ヒメ子の記憶が消えるって事ですか……!?」
「いや、記憶はあるぞ。あるのだが……あれだ。天音も本当は、もっと遊びたかったんだろう」
「???」
誠はその意味が理解できなかったが、次の瞬間。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
凄まじい稲光が輝くと、宙から何かが飛び降りてくる。
巨体からは想像もつかない身軽さで着地したそれは、一言で言えば巨大なライオン……いやコマだ。
そしてコマの上に立つ少女は、全身を眩い光に包まれていた。
風にたなびく空色の着物と、時代錯誤の古風な鎧。
紛れもなくこの日の本を守り抜いた聖者鶴姫であったが、彼女の髪は、肩に届かぬ程に短くなっていたのだ。
表情も無邪気に明るく、今生で初めて会った時のようだ。
とまどう誠をよそに、女神は面白そうに笑みを浮かべる。
「さあもう一度、お転婆姫のお出ましだ」
「えっ……ええっ!?」
誠はようやく理解した。
(天音さんと魂が合体して……天音さんは遊びたくて。ヒメ子の髪が縮んでて……まさかっ!?)
次の瞬間、誠の脳裏に、今までの冒険が一気に蘇ってきた。
鶴と一緒に駆け抜けた……というより、鶴に振り回された大冒険の記憶が、嵐のように襲ってきたのだ。
長い長い苦労の果てに、ようやく少し大人びてきた鶴だったのに……それが全部やり直しだというのか。
「あ、あれを、もう1回ですか……?」
「そうだな。もう一度、何度でもだ」
女神はからかうように微笑んだ。
そこで鶴とコマが言い争いを始める。
「おい鶴、また考えずに突っ走るのか? ちゃんと場所を決めてからにしよう!」
「だまらっしゃい、心配性な狛犬ね! こういうのは勢いが大事なのよ!」
鶴は適当な事を言うと、それから誠に向き直る。
手にした扇子を開き、高らかに呼びかけた。
「さあ黒鷹、また私達の出番よ! この鶴ちゃんとともに悪鬼羅刹を討ち払い、日いづる国を守りましょう!」
本来なら戸惑うはずの場面だろう。だが誠は、鶴に向かって即答する。
「任せとけ、ヒメ子っ!」
誠は1人散策していた。
普段なら誰かしら傍にいるのだが、今日はみんな、島の女性達の集まりに呼ばれているのだ。
小道から大通りへ出ると、すぐ大山祗神社に差し掛かる。
頭を下げながら鳥居の前を過ぎ、披露宴をした宴会場エリアを越えると、商店街が見えてくる。
一時はかなり寂れた場所だったのだが、島の復興とともにどんどん賑やかになっていて、誠を見ると皆が声をかけてくれた。
頭上のスピーカーからは、謎の歌声が流れて来る。
真面目ひっとすじ、つるちゃんと♪ 不真面目、こしゃくな狛犬の♪
つるちゃん音頭で、ございいまああすうう♪
「いつ作ったんだよこんな曲」
ツッコミを入れる誠に、皆が揚げたてのじゃこ天や猪のメンチカツをくれたが、その袋にはつるちゃん商店街のロゴがあった。
食べながら商店街を抜けると、宮浦港へ辿り着く。
石灯籠の並ぶ道を……昔、ハリウッド映画の撮影があったという景色を眺めていると、不意に後ろから声がかかった。
「黒鷹、ここにいたか。少し面倒事があってな」
振り返ると、そこには長い黒髪を伸ばした長身の女神が。つまり岩凪姫が立っていたのだ。
「面倒事って何ですか?」
「実は邪神の中に、まだ弱っていない一団があってな。東北に出張っていた勢力が、地下に隠れているらしいのだ。奴等が率いる残党が、巻き返しを狙っているとの報告が入った」
岩凪姫はそう説明する。
「現世も邪気に満ちていないし、せいぜい配下を繰り出す程度だろう……が、私も他の神々も力を使い過ぎて派手には動けん。だからお前に出て欲しいのだ」
「分かりました、すぐに行きます!」
誠は一も二も無く即断した。
「折角復興したんですから、絶対誰も泣かせません!」
「うむ、良い顔だ。少し……夏木に似てきたかな?」
女神はよく分からない事を言う。
誠がきょとんとしていると、女神は微笑んで首を振った。
「気にするな。男が己を磨いた時、そういう風になるのかも知れぬ。誇っていい事だ」
誠は少し戸惑ったが、女神は尚もこう言った。
「それと1つ言い忘れていたがな。このお役目を経て、鶴は立派になっただろう?」
「……はい」
誠は素直に頷いた。
「あなたが導いてくれたおかげです」
そこで岩凪姫は、腕組みして宙を見上げた。
「それがだな。天音の魂を入れた影響が、そろそろ出る頃だと思う」
「影響?」
「うむ。巻き戻すというか、精神年齢というか……」
「えっ……それって、ヒメ子の記憶が消えるって事ですか……!?」
「いや、記憶はあるぞ。あるのだが……あれだ。天音も本当は、もっと遊びたかったんだろう」
「???」
誠はその意味が理解できなかったが、次の瞬間。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
凄まじい稲光が輝くと、宙から何かが飛び降りてくる。
巨体からは想像もつかない身軽さで着地したそれは、一言で言えば巨大なライオン……いやコマだ。
そしてコマの上に立つ少女は、全身を眩い光に包まれていた。
風にたなびく空色の着物と、時代錯誤の古風な鎧。
紛れもなくこの日の本を守り抜いた聖者鶴姫であったが、彼女の髪は、肩に届かぬ程に短くなっていたのだ。
表情も無邪気に明るく、今生で初めて会った時のようだ。
とまどう誠をよそに、女神は面白そうに笑みを浮かべる。
「さあもう一度、お転婆姫のお出ましだ」
「えっ……ええっ!?」
誠はようやく理解した。
(天音さんと魂が合体して……天音さんは遊びたくて。ヒメ子の髪が縮んでて……まさかっ!?)
次の瞬間、誠の脳裏に、今までの冒険が一気に蘇ってきた。
鶴と一緒に駆け抜けた……というより、鶴に振り回された大冒険の記憶が、嵐のように襲ってきたのだ。
長い長い苦労の果てに、ようやく少し大人びてきた鶴だったのに……それが全部やり直しだというのか。
「あ、あれを、もう1回ですか……?」
「そうだな。もう一度、何度でもだ」
女神はからかうように微笑んだ。
そこで鶴とコマが言い争いを始める。
「おい鶴、また考えずに突っ走るのか? ちゃんと場所を決めてからにしよう!」
「だまらっしゃい、心配性な狛犬ね! こういうのは勢いが大事なのよ!」
鶴は適当な事を言うと、それから誠に向き直る。
手にした扇子を開き、高らかに呼びかけた。
「さあ黒鷹、また私達の出番よ! この鶴ちゃんとともに悪鬼羅刹を討ち払い、日いづる国を守りましょう!」
本来なら戸惑うはずの場面だろう。だが誠は、鶴に向かって即答する。
「任せとけ、ヒメ子っ!」
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