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~グランドフィナーレ~ もう一度、何度でも!

大好き! もう1秒も我慢できないの!

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 誠は最後に、カノンの方へ向き直った。

「…………っ!!!」

 彼女は何か言おうとして口を開くが、込み上げる思いに何も言えない。

 段々涙が浮かんできて、彼女はそれを必死にこらえる。

 よく見ると、カノンだけは白無垢なのに綿帽子でなく、横幅の広い角隠しを被っている。

 角隠しだから鬼嫁という洒落なのだろうか……ツッコミを入れた方がいいのだろうか……などと深読みする誠だったが、取り合えずこう言ってみた。

「いいじゃん。似合ってるじゃんか」

「…………っっっ!!!!!」

 せきを切ったように、カノンの目から熱い涙が溢れ出す。

 震える指を胸の前で組み合わせ、何とか言葉を搾り出すのだ。

「……ごっ、500年、待ちました……!!!」

「うん」

「あっ、あの日……あの日助けて……いただいたっ……!!」

 そこが彼女の限界だった。

「ああああああっっっ!!!!!」

 カノンはもう耐え切れずに抱きついてきた。そのまま泣いた。猛烈に泣いた。

 ともすれば背骨ごとへし折られそうな怪力だったが、誠はもう覚悟を決めた。

(耐えるっ……! 折れたらヒメ子に治してもらおう……!)

 カノンのこの体質ごと、自分が受け止めるしかないのだ。

 ……このまま終われば感動的だったのだが、そううまくいかないのが人生である。

 そこで全神連の筆頭・高山が声をかけてきた。

「いやぁーカノンさん、喜んでるところ悪いんですがねぇ」

 そばの勝子、因幡と共に飲みまくっていた高山は、既にべろんべろんになっていた。

 長い間、日本を守る重責に駆られていた分、反動も大きいのだろうが……彼はカノンにこう言ったのだ。

「黒鷹さんは、まだ魂が完全にくっついておらんので。くれぐれも、霊気を出すような事はつつしんでくださいや」

「えっ……気を出すって……?」

 カノンは不思議そうに尋ねる。

「そりゃあ決まってるでしょう。あっちの方です」

「…………………………………えっ???」

 カノンは一瞬理解出来なかったようだが、やがて気付いて絶叫する。

「ええええええええええええっっっ!!!??? ま、また待つの!? 500年も待ったのにっっっ!!!???」

 荒ぶり過ぎやろ、とツッコミを入れる難波をよそに、カノンは高山を揺さぶった。

「い、いいいっ、いつならいいですか?」

「うぐっ、そりゃあまあ、別の魂と混ぜてるんで。あと半年ぐらいですかねえ」

「そっ、そんな……そんなあっっっ……せっかく、ようやく……!!!」

「ええやんカノっち、500年に半年足したぐらい」

「もっ、もう無理っ、もう1秒だって無理なのっ!!!」

 カノンは誠にタックルし、紋付袴もんつきはかまを脱がそうとしてくる。

「あかんカノっち! ほんと凄い力やな!」

 皆になだめられ、カノンはぺたんと床に座り込んだ。

 少し拗ねたような目で、恨めしそうに佐久夜姫を見つめる。

「や、やっぱりリスクあるんじゃないですかっ……!」

 佐久夜姫は首を傾げて微笑んだ。

「そうね、お互い嘘つきだったみたいね?」

 カノンはうっ、と黙り込んだ。

 神使達が『私は嘘つきです』と書かれたボードを運んできて、カノンの首から下げさせる。

 そこで渡辺さんや料理人達が、超巨大な大皿を持って入場してきた。

「さあみんな、とっておきだよ! 頑張ったみんなのための、日本全国、復興皿鉢さわちさ!」

「ええっっっ!? さ、皿鉢ですって!!!???」

 流石に雪菜は食いつきが違うが、それ以外の人からも、どっと歓声が沸き起こった。

 厨房の奥からは、様々な種類の皿鉢料理が運ばれてくる。

 北海道皿鉢、東北皿鉢、東海皿鉢など、各地の登り旗と共に入場する様は、まるで戦国武将の出陣のようだ。

 大皿に盛りに盛られたご馳走を、皆で記念に写真を撮る。

 おいしいものがてんこ盛りで、日本が復活した象徴とも言える料理だ。

 どの食材もおいしかったが、土佐巻き、つまりニンニクとカツオのタタキが入った巻き寿司は、土佐の野性味が感じられて最高だ。

 一口食べれば、頑張って日本を復興させる元気がモリモリ沸いてくるのだ。
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