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~グランドフィナーレ~ もう一度、何度でも!
婚姻届けをモウ1枚
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「ああ忙しい、忙しいわ! 嫁入り支度とは、かくもうれし恥ずかし嬉野市だったのね!」
「テンション上がってるんだろうけど、何言ってるか分からないよ」
照れまくる鶴に、コマが見かねてツッコミを入れる。
このうっかりものの聖者・鶴は、コマの膨大な不安をよそに、見事日の本を取り戻す事が出来たのだが……そのスットコドッコイぶりは、平和になっても健在である。
風呂敷に詰め込む嫁入り道具は、地獄の鬼がくれたまんじゅう、虎柄の小物類、霊界入浴剤『血の池地獄の素』などなど。本当に使うかどうかも定かでない物ばかりだ。
鶴は赤くなった頬を両手で押さえ、嫌々をするように首を振った。
「あーもう、何からすればいいか分からないわ! あれも要り用これも要り用、狛犬の手も借りたいぐらいよ!」
「貸すけど、借りてどうするのさ」
コマは鶴の肩に飛び乗り、彼女をなだめようと試みる。
「いいからまず落ち着きなよ。始めは必要最低限で、足りない分は生活しながら揃えればいいじゃないか」
「黒鷹との、生活っっっ!!!」
その言葉を口にして、鶴は顔から湯気を出した。
オソロシーイ、ハンズカ・シーイ、と叫び続け、コマの言葉を聞いていないのだ。
「もう無理、無理筋の極みだわ。かくなる上はギブアップ、気分転換に行きましょう」
「まだ5分しかやってないだろ!」
「前向きに考えましょう、5分でも前に進んだのよ」
「照れまくってただけじゃないか」
コマのツッコミも虚しく、鶴はいそいそと散歩に出る。
彼女の肩に揺られつつ、コマはやれやれと呆れるのだった。
こしゃくな狛犬には分からないだろうが、鶴は案外しっかり未来を見据えていた。少なくとも鶴自身はそう思うし、思うだけならタダなので、もうそれでいいのである。
500年を経て2度目の人生を頑張り、日本奪還の偉業を成し遂げたので、そのぐらい自信を持ってもバチは当たるまい…………そんな鋭い読みであった。少なくともナギっぺは、最近鶴にしこたま甘いのだ。
ともかく鶴は、嬉し恥ずかしく毎日を過ごし、照れに照れ倒した嫁入り支度を行っていた。
だがそんな中、時折思う事がある。
……それは鳳さんや雪菜さんといった、他の女性陣の事である。
彼女達も黒鷹が好きだったし、今もそれは変わらないだろう。
特に望月カノンは、鬼の里を抜けてから500年、ずっと黒鷹を想っていたのだ。
次に黒鷹が生まれても、自分は結ばれる事が出来ない……それでもいいから、一目逢いたいと待っていてくれた。
それなのに彼女は、少しも辛そうな素振りを見せない。
鶴と会った時も、何度も祝福の言葉を口にしてくれる。
その笑顔がどこか悲しげな事は、鶴にもよく分かっていたし………その顔が胸にひっかかって、どうしても納得できないのだった。
果たして本当に、このままでいいのだろうか……?
「もっちゃん……500年も待ってたのに」
鶴は512個目の風呂敷を包み終え、嫁入り支度の手を止めた。
もうこれ夜逃げじゃないか、とツッコミを入れるコマをよそに、鶴はなおも独り言を続ける。
「黒鷹は、もう生まれ変われないのよね。来世は……無いのよね」
生まれ変わってもっちゃん達と結ばれる、というのも不可能なのだ。
「…………」
鶴は立ち上がり、次の荷物を用意しようとした。
……が、その時、不意に何かが舞い落ちたのだ。
「……?」
畳に落ちた白い長方形の紙を、鶴はそっと拾い上げた。
それは一見して折りたたまれたおみくじのようだったが、表面にはクイズ・人界百選と書かれている。
かつてコマが持ってきたものであるが、どこに紛れ込んでいたのだろう。鎧の隙間に挟まっていたとしても、よく戦いの間に落ちなかったものだ。
「…………」
鶴はそれをしげしげと読み、しばし考えていたが、やがて踵を返したのだ。
「えっ鶴、また嫁入り支度を中断するの? もう日取りがないよ」
「いいの!」
鶴はずんずん歩き、少し畳が見えている場所に正座する。
そして虚空から霊界黒電話を取り出すと、ジーコジーコと電話をかけ始める。
コマは鶴の肩に乗り、ジト目でツッコミを入れてくる。
「またろくでもない事する気だね」
「だまらっしゃいコマ、後で成敗してあげるわ」
鶴はそう言いつつも、電話の相手が応答するのを待つのである。
鶴はその後、更に暗躍した。
黒鷹にも連絡し、婚姻届の文字を直させたのである。
「折角だから、もっと伸び伸び書いたほうがいいと思うの。この文字をこう、スッとはらって、ここは跳ねて。ああ、もう1枚やり直しましょう」
「こだわるなあ、書道の先生みたいじゃんか」
確かにヒメ子は達筆だけどさ、などと言いつつ、黒鷹は素直に署名を書き直してくれた。
神使の牛も共謀し、「そんな字では天神様に怒られますよ」「モウ1枚」「モウ1枚」とおかわりを繰り返す。
ボールペンは消せないので、新たにモウ1枚書くしかない。その事も鶴に味方したのだ。
全ては鶴の思惑通り……そしてとうとう、式の当日が訪れたのだ。
「テンション上がってるんだろうけど、何言ってるか分からないよ」
照れまくる鶴に、コマが見かねてツッコミを入れる。
このうっかりものの聖者・鶴は、コマの膨大な不安をよそに、見事日の本を取り戻す事が出来たのだが……そのスットコドッコイぶりは、平和になっても健在である。
風呂敷に詰め込む嫁入り道具は、地獄の鬼がくれたまんじゅう、虎柄の小物類、霊界入浴剤『血の池地獄の素』などなど。本当に使うかどうかも定かでない物ばかりだ。
鶴は赤くなった頬を両手で押さえ、嫌々をするように首を振った。
「あーもう、何からすればいいか分からないわ! あれも要り用これも要り用、狛犬の手も借りたいぐらいよ!」
「貸すけど、借りてどうするのさ」
コマは鶴の肩に飛び乗り、彼女をなだめようと試みる。
「いいからまず落ち着きなよ。始めは必要最低限で、足りない分は生活しながら揃えればいいじゃないか」
「黒鷹との、生活っっっ!!!」
その言葉を口にして、鶴は顔から湯気を出した。
オソロシーイ、ハンズカ・シーイ、と叫び続け、コマの言葉を聞いていないのだ。
「もう無理、無理筋の極みだわ。かくなる上はギブアップ、気分転換に行きましょう」
「まだ5分しかやってないだろ!」
「前向きに考えましょう、5分でも前に進んだのよ」
「照れまくってただけじゃないか」
コマのツッコミも虚しく、鶴はいそいそと散歩に出る。
彼女の肩に揺られつつ、コマはやれやれと呆れるのだった。
こしゃくな狛犬には分からないだろうが、鶴は案外しっかり未来を見据えていた。少なくとも鶴自身はそう思うし、思うだけならタダなので、もうそれでいいのである。
500年を経て2度目の人生を頑張り、日本奪還の偉業を成し遂げたので、そのぐらい自信を持ってもバチは当たるまい…………そんな鋭い読みであった。少なくともナギっぺは、最近鶴にしこたま甘いのだ。
ともかく鶴は、嬉し恥ずかしく毎日を過ごし、照れに照れ倒した嫁入り支度を行っていた。
だがそんな中、時折思う事がある。
……それは鳳さんや雪菜さんといった、他の女性陣の事である。
彼女達も黒鷹が好きだったし、今もそれは変わらないだろう。
特に望月カノンは、鬼の里を抜けてから500年、ずっと黒鷹を想っていたのだ。
次に黒鷹が生まれても、自分は結ばれる事が出来ない……それでもいいから、一目逢いたいと待っていてくれた。
それなのに彼女は、少しも辛そうな素振りを見せない。
鶴と会った時も、何度も祝福の言葉を口にしてくれる。
その笑顔がどこか悲しげな事は、鶴にもよく分かっていたし………その顔が胸にひっかかって、どうしても納得できないのだった。
果たして本当に、このままでいいのだろうか……?
「もっちゃん……500年も待ってたのに」
鶴は512個目の風呂敷を包み終え、嫁入り支度の手を止めた。
もうこれ夜逃げじゃないか、とツッコミを入れるコマをよそに、鶴はなおも独り言を続ける。
「黒鷹は、もう生まれ変われないのよね。来世は……無いのよね」
生まれ変わってもっちゃん達と結ばれる、というのも不可能なのだ。
「…………」
鶴は立ち上がり、次の荷物を用意しようとした。
……が、その時、不意に何かが舞い落ちたのだ。
「……?」
畳に落ちた白い長方形の紙を、鶴はそっと拾い上げた。
それは一見して折りたたまれたおみくじのようだったが、表面にはクイズ・人界百選と書かれている。
かつてコマが持ってきたものであるが、どこに紛れ込んでいたのだろう。鎧の隙間に挟まっていたとしても、よく戦いの間に落ちなかったものだ。
「…………」
鶴はそれをしげしげと読み、しばし考えていたが、やがて踵を返したのだ。
「えっ鶴、また嫁入り支度を中断するの? もう日取りがないよ」
「いいの!」
鶴はずんずん歩き、少し畳が見えている場所に正座する。
そして虚空から霊界黒電話を取り出すと、ジーコジーコと電話をかけ始める。
コマは鶴の肩に乗り、ジト目でツッコミを入れてくる。
「またろくでもない事する気だね」
「だまらっしゃいコマ、後で成敗してあげるわ」
鶴はそう言いつつも、電話の相手が応答するのを待つのである。
鶴はその後、更に暗躍した。
黒鷹にも連絡し、婚姻届の文字を直させたのである。
「折角だから、もっと伸び伸び書いたほうがいいと思うの。この文字をこう、スッとはらって、ここは跳ねて。ああ、もう1枚やり直しましょう」
「こだわるなあ、書道の先生みたいじゃんか」
確かにヒメ子は達筆だけどさ、などと言いつつ、黒鷹は素直に署名を書き直してくれた。
神使の牛も共謀し、「そんな字では天神様に怒られますよ」「モウ1枚」「モウ1枚」とおかわりを繰り返す。
ボールペンは消せないので、新たにモウ1枚書くしかない。その事も鶴に味方したのだ。
全ては鶴の思惑通り……そしてとうとう、式の当日が訪れたのだ。
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