143 / 160
第六章その15 ~おかえりなさい!~ 勇者の少年・帰還編
お腹の子供はどうなるのよっっっ!!
しおりを挟む
薄闇の中、誠は1人倒れていた。
辛うじて意識は保たれていたが、それも次第にぼんやりしていく。
現実なのか夢なのか……床も壁も、水底の景色のようにぐにゃりと歪んで、一定時間ごとに脈打っていた。
誠はふと、500年前の合戦を思い出した。あの日海に沈みながら見上げた空も、こんなふうに波打っていたはず。
あの時自分は、この世に別れを告げながら……鶴の事を考えていたっけ。
「ヒメ子……」
薄れ行く意識の中で、誠は鶴を思い浮かべた。
最後にもう一度、あの姫君の姿を見たいと『願った』のだ。
ちらちらと、何か白い雪のようなものが目の前を漂ったが、それも幻だったのだろうか。
……だが次の瞬間、けたたましい少女の声が響き渡った。
「黒鷹、私よ、黒鷹ああああああっ!!!!!」
「うわっっ、熱っ!!!???」
何かレーザーみたいなもので肌を焼かれ、誠は驚いて目を見開いた。
「黒鷹ああああああああっ!!! 私よ、鶴よ、助けに来たわああああ!!!」
いつの間にか眼前には、四角いタブレット画面が現れていたし、そこに映った鶴が叫んでいた。
その必死の形相は、かつて見た夢とそっくりだった。
「黒鷹、黒鷹っ! 良かった……良くないけど、とにかく無事ねっ!」
鶴は目に涙を浮かべながら言う。
鶴の後ろには、沢山の少年少女や神使達がいて、こちらに向かって叫んでいた。
隊長、この野郎、ばかっ、鳴っち、鳴瀬くん、とうへんぼく……様々な単語が乱れ飛んだが、誠はぴんとこなかった。
(鳴瀬……鳴瀬って誰だ……? 俺は何を……)
その時画面に、髪の長い女性が映った。
彼女は……誰だったかもう思い出せないが、とにかくその人はこう言ったのだ。
「いかん、長時間別の世界に居たせいで、意識が溶けかかっている。少し幸魂を借りるぞ……!」
女性は胸の前で手を合わせ、何事か念じた。
すると誠の左手が、じんじん熱くなってきた。
「……?」
目をやると、左手の防護手袋の隙間から、青い光が漏れ出ている。
やがて手袋が粉々に吹き飛ぶと、手の甲に青い宝石のような細胞片が輝いていたのだ。
確か逆鱗という物だったはずだが、すぐにその逆鱗の中から、ダンボール箱が飛び出してきた。そして箱からぶちまけられたのは、自らの思い出の品々である。
小さい頃に遊んだオモチャや、夏休みの課題ポスター、将来の夢を記した作文などなど。
たどたどしい文字で書かれた『鳴瀬誠』の文字を眺め、誠はそこで気が付いた。
(……っ! そうだっ、俺の事じゃないか!!?)
急に意識がはっきりしてきて、誠は全てを思い出す。自分が何者だったのか、今まで何をしてきたのかを。
「ヒメ子、みんな……ていうか岩凪姫まで……!?」
「そうだ、私はしぶといからな」
岩凪姫は頷いて、急ぎ現状を伝えてくれた。
「…………というわけだ。お前が反魂の術を砕いたおかげで、無事に魔王を撃退出来たが、お前が死んでは意味が無い。見たところ物質と精神の入り混じった世界のようだが、何としてもそこから出るのだ」
「で、出るって、どうやって……?」
「知らぬ! とにかく動け、帰って来い!」
女神の言葉を聞くうちに、誠はだんだん鼓動が荒くなってきた。
(戻れる……帰れる……?)
すると急激に不安になってきたのだ。
あの戦いの間も、そして先ほどまでも含めて、誠はほとんど死の恐怖を感じなかった。まるで恐れを知らぬ英雄のようだったのに……今になって、急に怖く感じ始めた。
このどことも知らぬ世界に閉じ込められ、生き埋めになったような状況が、たまらなく息苦しく思えてきた。死を恐れない英雄から、1人の人間に戻ったのだ。
(怖い、嫌だ……このままここで死にたくない……!!!)
そんな生への執着が、堰を切ったように押し寄せてきた。
「よしよし、我に返ったな。さあ、立派な英雄はもうおしまい。1人の男の子に戻って、みんなのところに帰っておいで」
誠は身を起こそうとしたが、そこで猛烈な痛みを感じた。
「っっっ!!!???」
目をやると、パイロットスーツの腹に赤い血が溢れている。
戦いの途中か、それとも最後に吹き飛ばされた時に負傷したのか。
何度も起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
突き刺すような痛みに耐えながら、誠は弱々しく呟いた。
「もう、動けそうに……ない……」
画面の向こうで、皆が言葉を失っている。
だが次の瞬間、不意に赤い髪の少女が割り込んできた。
皆をまとめて突き飛ばした彼女は……つまりカノンは、鬼の形相でこちらに叫んだ。
「このっバカ鳴瀬っ!!! 四の五の言ってないで、さっさと起きて帰って来なさいっ!!! あんたが死んだらっ、お腹の子供はどうなるのよっっっ!!!!!」
「……………………えっ!?」
一瞬、誠は硬直していた。カノンの周りも同じである。
皆が目を白黒させながら、先頭のカノンを見つめている。
「えっ……カ、カノン……??? 子供って、一体……」
だがそこで、映像は大きく乱れていく。
画面に砂嵐のようなノイズが走ると、タブレットごと消え去ってしまったのだ。
辺りには再び静寂が戻り、誠は1人目を見開いていた。
「…………ええっっっ?????」
辛うじて意識は保たれていたが、それも次第にぼんやりしていく。
現実なのか夢なのか……床も壁も、水底の景色のようにぐにゃりと歪んで、一定時間ごとに脈打っていた。
誠はふと、500年前の合戦を思い出した。あの日海に沈みながら見上げた空も、こんなふうに波打っていたはず。
あの時自分は、この世に別れを告げながら……鶴の事を考えていたっけ。
「ヒメ子……」
薄れ行く意識の中で、誠は鶴を思い浮かべた。
最後にもう一度、あの姫君の姿を見たいと『願った』のだ。
ちらちらと、何か白い雪のようなものが目の前を漂ったが、それも幻だったのだろうか。
……だが次の瞬間、けたたましい少女の声が響き渡った。
「黒鷹、私よ、黒鷹ああああああっ!!!!!」
「うわっっ、熱っ!!!???」
何かレーザーみたいなもので肌を焼かれ、誠は驚いて目を見開いた。
「黒鷹ああああああああっ!!! 私よ、鶴よ、助けに来たわああああ!!!」
いつの間にか眼前には、四角いタブレット画面が現れていたし、そこに映った鶴が叫んでいた。
その必死の形相は、かつて見た夢とそっくりだった。
「黒鷹、黒鷹っ! 良かった……良くないけど、とにかく無事ねっ!」
鶴は目に涙を浮かべながら言う。
鶴の後ろには、沢山の少年少女や神使達がいて、こちらに向かって叫んでいた。
隊長、この野郎、ばかっ、鳴っち、鳴瀬くん、とうへんぼく……様々な単語が乱れ飛んだが、誠はぴんとこなかった。
(鳴瀬……鳴瀬って誰だ……? 俺は何を……)
その時画面に、髪の長い女性が映った。
彼女は……誰だったかもう思い出せないが、とにかくその人はこう言ったのだ。
「いかん、長時間別の世界に居たせいで、意識が溶けかかっている。少し幸魂を借りるぞ……!」
女性は胸の前で手を合わせ、何事か念じた。
すると誠の左手が、じんじん熱くなってきた。
「……?」
目をやると、左手の防護手袋の隙間から、青い光が漏れ出ている。
やがて手袋が粉々に吹き飛ぶと、手の甲に青い宝石のような細胞片が輝いていたのだ。
確か逆鱗という物だったはずだが、すぐにその逆鱗の中から、ダンボール箱が飛び出してきた。そして箱からぶちまけられたのは、自らの思い出の品々である。
小さい頃に遊んだオモチャや、夏休みの課題ポスター、将来の夢を記した作文などなど。
たどたどしい文字で書かれた『鳴瀬誠』の文字を眺め、誠はそこで気が付いた。
(……っ! そうだっ、俺の事じゃないか!!?)
急に意識がはっきりしてきて、誠は全てを思い出す。自分が何者だったのか、今まで何をしてきたのかを。
「ヒメ子、みんな……ていうか岩凪姫まで……!?」
「そうだ、私はしぶといからな」
岩凪姫は頷いて、急ぎ現状を伝えてくれた。
「…………というわけだ。お前が反魂の術を砕いたおかげで、無事に魔王を撃退出来たが、お前が死んでは意味が無い。見たところ物質と精神の入り混じった世界のようだが、何としてもそこから出るのだ」
「で、出るって、どうやって……?」
「知らぬ! とにかく動け、帰って来い!」
女神の言葉を聞くうちに、誠はだんだん鼓動が荒くなってきた。
(戻れる……帰れる……?)
すると急激に不安になってきたのだ。
あの戦いの間も、そして先ほどまでも含めて、誠はほとんど死の恐怖を感じなかった。まるで恐れを知らぬ英雄のようだったのに……今になって、急に怖く感じ始めた。
このどことも知らぬ世界に閉じ込められ、生き埋めになったような状況が、たまらなく息苦しく思えてきた。死を恐れない英雄から、1人の人間に戻ったのだ。
(怖い、嫌だ……このままここで死にたくない……!!!)
そんな生への執着が、堰を切ったように押し寄せてきた。
「よしよし、我に返ったな。さあ、立派な英雄はもうおしまい。1人の男の子に戻って、みんなのところに帰っておいで」
誠は身を起こそうとしたが、そこで猛烈な痛みを感じた。
「っっっ!!!???」
目をやると、パイロットスーツの腹に赤い血が溢れている。
戦いの途中か、それとも最後に吹き飛ばされた時に負傷したのか。
何度も起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
突き刺すような痛みに耐えながら、誠は弱々しく呟いた。
「もう、動けそうに……ない……」
画面の向こうで、皆が言葉を失っている。
だが次の瞬間、不意に赤い髪の少女が割り込んできた。
皆をまとめて突き飛ばした彼女は……つまりカノンは、鬼の形相でこちらに叫んだ。
「このっバカ鳴瀬っ!!! 四の五の言ってないで、さっさと起きて帰って来なさいっ!!! あんたが死んだらっ、お腹の子供はどうなるのよっっっ!!!!!」
「……………………えっ!?」
一瞬、誠は硬直していた。カノンの周りも同じである。
皆が目を白黒させながら、先頭のカノンを見つめている。
「えっ……カ、カノン……??? 子供って、一体……」
だがそこで、映像は大きく乱れていく。
画面に砂嵐のようなノイズが走ると、タブレットごと消え去ってしまったのだ。
辺りには再び静寂が戻り、誠は1人目を見開いていた。
「…………ええっっっ?????」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
龍神のつがい~京都嵐山 現世の恋奇譚~
河野美姫
キャラ文芸
天涯孤独の凜花は、職場でのいじめに悩みながらも耐え抜いていた。
しかし、ある日、大切にしていた両親との写真をボロボロにされてしまい、なにもかもが嫌になって逃げ出すように京都の嵐山に行く。
そこで聖と名乗る男性に出会う。彼は、すべての龍を統べる龍神で、凜花のことを「俺のつがいだ」と告げる。
凜花は聖が住む天界に行くことになり、龍にとって唯一無二の存在とされる〝つがい〟になることを求められるが――?
「誰かに必要とされたい……」
天涯孤独の少女
倉本凜花(20)
×
龍王院聖(年齢不詳)
すべての龍を統べる者
「ようやく会えた、俺の唯一無二のつがい」
「俺と永遠の契りを交わそう」
あなたが私を求めてくれるのは、
亡くなった恋人の魂の生まれ変わりだから――?
*アルファポリス*
2022/12/28~2023/1/28
※こちらの作品はノベマ!(完結済)・エブリスタでも公開中です。
逢魔ヶ刻のストライン
和法はじめ
キャラ文芸
女装巫女に使役され、心の闇を食うバケモノの少女。
彼女はある日、己が使役者の少年に恋をしている事を知った。
そんな彼女の、終わりと始まりの物語。
※他サイト様にも投稿しております。
異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました
雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。
女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。
強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。
くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。
下宿屋 東風荘 2
浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※
下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。
毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。
しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。
下宿屋は一体どうなるのか!
そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___
※※※※※
下宿屋東風荘 第二弾。
お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……
ma-no
キャラ文芸
お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……
このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。
この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。
☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
1日おきに1話更新中です。
BLACK BLOOD
邦幸恵紀
キャラ文芸
時は21世紀。闇に妖魔が跋扈して人を食い殺す時代。
妖魔を専門に狩る人々は〝妖魔ハンター〟と呼ばれていた。
その一人である北山俊太郎は、同業者で幼なじみの友部正隆となりゆきで組んで仕事をしている。
しかし、彼とは人には言えない因縁があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる