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第六章その15 ~おかえりなさい!~ 勇者の少年・帰還編
お腹の子供はどうなるのよっっっ!!
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薄闇の中、誠は1人倒れていた。
辛うじて意識は保たれていたが、それも次第にぼんやりしていく。
現実なのか夢の中なのか……床も壁も、水底の景色のようにぐにゃりと歪んで、一定時間ごとに脈打っていた。
誠はふと、500年前の合戦を思い出した。あの日海に沈みながら見上げた空も、こんなふうに波打っていたはず。
あの時自分はこの世に別れを告げながら……鶴の事を考えていたっけ。
「ヒメ子……」
薄れ行く意識の中で、誠は鶴を思い浮かべた。
最後にもう一度、あの姫君の姿を見たいと『願った』のだ。
ちらちらと、何か白い雪のようなものが目の前を漂ったが、それも幻だったのだろうか。
……だが次の瞬間、けたたましい少女の声が響き渡った。
「黒鷹、私よ、黒鷹ああああああっ!!!!!」
「っっっ!!!???」
誠は驚いて目を見開く。
「黒鷹ああああああああっ!!! 私よ、鶴よ、助けに来たわああああ!!!」
いつの間にか眼前には、四角いタブレット画面が現れていたし、そこに映った鶴が叫んでいた。
その必死の形相は、かつて見た夢とそっくりだった。今にもレーザービームが飛んできそうだ。
「黒鷹、黒鷹っ! 良かった……良くないけど、とにかく無事ねっ!」
鶴は目に涙を浮かべながら言う。
鶴の後ろには、沢山の少年少女や神使達がいて、こちらに向かって叫んでいた。
隊長、この野郎、ばかっ、鳴っち、鳴瀬くん、とうへんぼく……様々な単語が乱れ飛んだが、誠はぴんとこなかった。
(鳴瀬……鳴瀬って誰だ……? 俺は何を……)
その時画面に、髪の長い女性が映った。
彼女は……誰だったかもう思い出せないが、とにかくその人はこう言ったのだ。
「いかん、長時間別の世界に居たせいで、意識が溶けかかっている。少し幸魂を借りるぞ……!」
女性は胸の前で手を合わせ、何事か念じた。
すると誠の左手が、じんじん熱くなってきた。
「……?」
目をやると、左手の防護手袋の隙間から、青い光が漏れ出ている。
やがて手袋が粉々に吹き飛ぶと、手の甲に青い宝石のような細胞片が輝いていたのだ。
確か逆鱗という物だったはずだが、すぐにその逆鱗の中から、ダンボール箱が飛び出してきた。そして箱からぶちまけられたのは、自らの思い出の品々である。
小さい頃に遊んだオモチャや、夏休みの課題ポスター、将来の夢を記した作文などなど。
たどたどしい文字で書かれた『鳴瀬誠』の文字を眺め、誠はそこで気が付いた。
(……っ! そうだっ、俺の事じゃないか!!?)
急に意識がはっきりしてきて、誠は全てを思い出す。自分が何者だったのか、今まで何をしてきたのかを。
「ヒメ子、みんな……ていうか岩凪姫まで……!?」
「そうだ、私はしぶといからな」
岩凪姫は頷いて、急ぎ現状を伝えてくれた。
「…………というわけだ。お前が反魂の術を砕いたおかげで、無事に魔王を撃退出来たが、お前が死んでは意味が無い。見たところ物質と精神の入り混じった世界のようだが、何としてもそこから出るのだ」
「で、出るって、どうやって……?」
「知らぬ! とにかく動け、帰って来い!」
女神の言葉を聞くうちに、誠はだんだん鼓動が荒くなってきた。
(戻れる……帰れる……?)
すると急激に不安になってきたのだ。
あの戦いの間も、そして先ほどまでも含めて、誠はほとんど死の恐怖を感じなかった。まるで恐れを知らぬ英雄のようだったのに……今になって、急に怖く感じ始めた。
このどことも知らぬ世界に閉じ込められ、生き埋めになったような状況が、たまらなく息苦しく思えてきた。死を恐れない英雄から、1人の人間に戻ったのだ。
(怖い、嫌だ……このままここで死にたくない……!!!)
そんな生への執着が、堰を切ったように押し寄せてきた。
「よしよし、我に返ったな。さあ、立派な英雄はもうおしまい。1人の男の子に戻って、みんなのところに帰っておいで」
誠は身を起こそうとしたが、そこで猛烈な痛みを感じた。
「っっっ!!!???」
目をやると、パイロットスーツの腹に赤い血が溢れている。
戦いの途中か、それとも最後に吹き飛ばされた時に負傷したのか。
何度も起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
突き刺すような痛みに耐えながら、誠は弱々しく呟いた。
「もう、動けそうに……ない……」
画面の向こうで、皆が言葉を失っている。
だが次の瞬間、不意に赤い髪の少女が割り込んできた。
皆を突き飛ばした彼女は……つまりカノンは、鬼の形相でこちらに叫んだ。
「このっバカ鳴瀬っ!!! 四の五の言ってないで、さっさと起きて帰って来なさいっ!!! あんたが死んだらっ、お腹の子供はどうなるのよっっっ!!!!!」
「……………………えっ!?」
一瞬、誠は硬直していた。カノンの周りも同じである。
皆が目を白黒させながら、先頭のカノンを見つめている。
「えっ……カ、カノン……??? 子供って、一体……」
だがそこで、映像は大きく乱れていく。
画面に砂嵐のようなノイズが走ると、タブレットごと消え去ってしまったのだ。
辺りには再び静寂が戻り、誠は1人目を見開いていた。
「…………ええっっっ?????」
辛うじて意識は保たれていたが、それも次第にぼんやりしていく。
現実なのか夢の中なのか……床も壁も、水底の景色のようにぐにゃりと歪んで、一定時間ごとに脈打っていた。
誠はふと、500年前の合戦を思い出した。あの日海に沈みながら見上げた空も、こんなふうに波打っていたはず。
あの時自分はこの世に別れを告げながら……鶴の事を考えていたっけ。
「ヒメ子……」
薄れ行く意識の中で、誠は鶴を思い浮かべた。
最後にもう一度、あの姫君の姿を見たいと『願った』のだ。
ちらちらと、何か白い雪のようなものが目の前を漂ったが、それも幻だったのだろうか。
……だが次の瞬間、けたたましい少女の声が響き渡った。
「黒鷹、私よ、黒鷹ああああああっ!!!!!」
「っっっ!!!???」
誠は驚いて目を見開く。
「黒鷹ああああああああっ!!! 私よ、鶴よ、助けに来たわああああ!!!」
いつの間にか眼前には、四角いタブレット画面が現れていたし、そこに映った鶴が叫んでいた。
その必死の形相は、かつて見た夢とそっくりだった。今にもレーザービームが飛んできそうだ。
「黒鷹、黒鷹っ! 良かった……良くないけど、とにかく無事ねっ!」
鶴は目に涙を浮かべながら言う。
鶴の後ろには、沢山の少年少女や神使達がいて、こちらに向かって叫んでいた。
隊長、この野郎、ばかっ、鳴っち、鳴瀬くん、とうへんぼく……様々な単語が乱れ飛んだが、誠はぴんとこなかった。
(鳴瀬……鳴瀬って誰だ……? 俺は何を……)
その時画面に、髪の長い女性が映った。
彼女は……誰だったかもう思い出せないが、とにかくその人はこう言ったのだ。
「いかん、長時間別の世界に居たせいで、意識が溶けかかっている。少し幸魂を借りるぞ……!」
女性は胸の前で手を合わせ、何事か念じた。
すると誠の左手が、じんじん熱くなってきた。
「……?」
目をやると、左手の防護手袋の隙間から、青い光が漏れ出ている。
やがて手袋が粉々に吹き飛ぶと、手の甲に青い宝石のような細胞片が輝いていたのだ。
確か逆鱗という物だったはずだが、すぐにその逆鱗の中から、ダンボール箱が飛び出してきた。そして箱からぶちまけられたのは、自らの思い出の品々である。
小さい頃に遊んだオモチャや、夏休みの課題ポスター、将来の夢を記した作文などなど。
たどたどしい文字で書かれた『鳴瀬誠』の文字を眺め、誠はそこで気が付いた。
(……っ! そうだっ、俺の事じゃないか!!?)
急に意識がはっきりしてきて、誠は全てを思い出す。自分が何者だったのか、今まで何をしてきたのかを。
「ヒメ子、みんな……ていうか岩凪姫まで……!?」
「そうだ、私はしぶといからな」
岩凪姫は頷いて、急ぎ現状を伝えてくれた。
「…………というわけだ。お前が反魂の術を砕いたおかげで、無事に魔王を撃退出来たが、お前が死んでは意味が無い。見たところ物質と精神の入り混じった世界のようだが、何としてもそこから出るのだ」
「で、出るって、どうやって……?」
「知らぬ! とにかく動け、帰って来い!」
女神の言葉を聞くうちに、誠はだんだん鼓動が荒くなってきた。
(戻れる……帰れる……?)
すると急激に不安になってきたのだ。
あの戦いの間も、そして先ほどまでも含めて、誠はほとんど死の恐怖を感じなかった。まるで恐れを知らぬ英雄のようだったのに……今になって、急に怖く感じ始めた。
このどことも知らぬ世界に閉じ込められ、生き埋めになったような状況が、たまらなく息苦しく思えてきた。死を恐れない英雄から、1人の人間に戻ったのだ。
(怖い、嫌だ……このままここで死にたくない……!!!)
そんな生への執着が、堰を切ったように押し寄せてきた。
「よしよし、我に返ったな。さあ、立派な英雄はもうおしまい。1人の男の子に戻って、みんなのところに帰っておいで」
誠は身を起こそうとしたが、そこで猛烈な痛みを感じた。
「っっっ!!!???」
目をやると、パイロットスーツの腹に赤い血が溢れている。
戦いの途中か、それとも最後に吹き飛ばされた時に負傷したのか。
何度も起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
突き刺すような痛みに耐えながら、誠は弱々しく呟いた。
「もう、動けそうに……ない……」
画面の向こうで、皆が言葉を失っている。
だが次の瞬間、不意に赤い髪の少女が割り込んできた。
皆を突き飛ばした彼女は……つまりカノンは、鬼の形相でこちらに叫んだ。
「このっバカ鳴瀬っ!!! 四の五の言ってないで、さっさと起きて帰って来なさいっ!!! あんたが死んだらっ、お腹の子供はどうなるのよっっっ!!!!!」
「……………………えっ!?」
一瞬、誠は硬直していた。カノンの周りも同じである。
皆が目を白黒させながら、先頭のカノンを見つめている。
「えっ……カ、カノン……??? 子供って、一体……」
だがそこで、映像は大きく乱れていく。
画面に砂嵐のようなノイズが走ると、タブレットごと消え去ってしまったのだ。
辺りには再び静寂が戻り、誠は1人目を見開いていた。
「…………ええっっっ?????」
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