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第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編

ただただ夢中だったけれど

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「………………勝っ……た……?」

 ゆっくりと地に降り立ち、磐長姫いわながひめは呟いた。

「………………」

 激しい興奮がゆっくりと冷めていく。

 緊張の糸が切れたのか、体中の力が抜けていくのだ。

 鎧もいつもの衣服に戻り、結んだ髪もほどけていた。

 それと同時に、急に色々な事が気恥ずかしくなってきた。

(ちょっと待て、私は何をしていたのだ? 何であんな大それた事をしたんだろう?)

(いつも後ろに隠れていたのに、他の神々を差し置いて……!)

(もしかしてまた痛い事を口走ったのでは? 数千年の時を経て、黒歴史のおかわりをしたのではないか?)

 考え出すときりがなく、顔から火が出そうだった。

 一刻も早く布団に潜って、何百年でも眠りたくなったし、元の駄目な自分に……岩凪姫いわなぎひめに戻ったようだ。

 だがそんな岩凪姫に、誰かがそっと手を添えた。

「ひっ……!?」

 びっくりして振り返ると、そこには妹の佐久夜姫さくやひめが立っていた。

「………………」

 激しい戦いで消耗しているようだったが、彼女はなぜか嬉しそうだった。

 目にいっぱいの涙を浮かべて、何度も何度も頷くのだ。

「……だから言ったのよ。お姉ちゃんは凄いって」

「お前程では……ないと思うが……」

 戸惑う岩凪姫だったが、そこでにぎやかな声が響いた。

「あーっ!!! ナギっぺ、ナギっぺだわ!!!」

 鶴が目を覚まし、こちらを見つめているのである。彼女はいそいそと身を起こした。

「ほんとに……ほんとにしょうのない女神ね! いつもお説教するくせに、肝心な時にいないんだからっ……!」

 鶴はそこで言葉に詰まった。

 唇は震え、目はどんどん潤んでいく。

 こみ上げる感情をこらえながら、懸命に何か言おうとするのだったが……そこで岩凪姫は助け舟を出した。

 両手を差し出し、愛する娘に呼びかける。

「おいで」

「…………っ!!!」

 鶴は夢中で飛びついてきた。

 そのまま胸元に顔をうずめて泣いた。ひたすらに泣いた。

 コマも嬉しそうに女神達の足元を駆け回っている。

「よく頑張ったな、偉かったぞ鶴。もちろんコマもな」

 頭を撫でる岩凪姫に、鶴は震える声で答える。

「……ほんとだわ。私達、めちゃんこ頑張ったのよ……? うんと話を盛るから、覚悟しておいてね?」

「お手柔らかにな」

 微笑む岩凪姫だったが、その時。

 ふいに頭上に眩しい光が輝いた。

 空そのものが太陽になったかと思える輝きの後、空には数多あまたの神々が現れていたのだ。
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