138 / 160
第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編
さあ始めよう、国守る物語を…!
しおりを挟む
現れた深淵の魔王にもひるまず、磐長姫は呼びかけた。
「まだ諦めるな! 常夜命は、完全にこの世に出たわけではない! 魔王の反魂は、完成前に止められている!」
…………そう、まだ終わっていないのである。
皆が絶望に包まれる中、磐長姫は気付いていた。
魔王の魂は、まだ完全には復活していない事に。
それは反魂の術が完成前に破壊された事を意味する。柱に突入した鶴や黒鷹達のおかげだろう。
この不完全な魔王であれば、地の底に追い返す事も可能かも知れない…………磐長姫は直感で思ったのだ。
そしてそのための方法も、磐長姫は理解していた。
悪い事ばかり考えて泣いていたかつての自分とは、驚くべき変化であった。
そして彼女は呼びかけた。その場にいる兵士だけではない。自らの魂と通じた、この国の全ての人に語りかけたのだ。
「勇敢なる日の本の勇者達よ。長きに渡る苦難の時、よくぞ耐えてくれた。よくぞ生き延び、希望を繋いでくれた。お前達ならきっと出来る! こんな絶望なんかに負けるものか!」
女神は声に力を込め、高らかに訴えかけた。
「さあ始めよう。この未曾有の危機を乗り切り、国守る物語を……! きっと未来の子供達は、お前達を伝説の世代として尊敬し、その勇気に感謝するだろう……!」
磐長姫の体は、そこで人間サイズへと戻った。
巨体を維持する霊力すら惜しかったのだ。
そのまま空に舞い上がり、磐長姫は左手を突き出す。広げた手を握ると、そこには黄金の弓が握られていた。
自らの得意とする技、天之破魔弓を、膨大な霊気で具現化させたのだ。
磐長姫は魔王を見据え、ゆっくりと弓を引きしぼった。
現代の所作とは違う、古代の弓の引き方だったが、何も無い虚空から、輝く矢が現れたのだ。
矢はその先端に眩しい光を満たしていたが、これだけではまだ足りない。
磐長姫は再び人々に呼びかけた。
「憎しみの力であれを滅ぼす事は出来ない。絶望には希望を……明日を夢見るみんなの思いを、どうか私に預けておくれ……!!!」
人々は、最初戸惑っているようだった。
どうしていいか分からないようだったが、やがて誰かの声が聞こえた。
『私は、みんなが幸せな気持ちになれるようなお宿を作るわっ!』
それは少女の声だった。魂の波動から、鎮西で生まれた少女であろう。
『日本が平和になったら、いっぱいおもてなしして、頑張った人を癒してあげるの!』
彼女の思いが光になって、矢の先端が輝きを増す。
そしてそこから、堰を切ったように人々の声が届いた。
『俺は世界一うまいお好み焼き屋を作る!』
『総理大臣になって、皆が安心出来る国を作りますぞ! 借金なんかもバンバン返して、子供達が明日を夢見れる国を!』
老いも若きも、男も女も。言葉を解さぬ幼子からも、素直な願いの念が届いた。
皆が望んでいるのである。明日を、希望を。再び朝日が昇る世界を。
「そうだ、そうだとも。お前達ならきっと出来る……!」
人々の願いを聞きながら、磐長姫は頷いていた。
皆の思いが届く度、矢の先端はどんどん輝きを増していった。
あたかも闇に包まれた世界に、新たな太陽が生まれたかのようだ。
あの日始まった『国滅ぼしのお呪い』…………それは確かに強力だった。
人々は希望を失い、自暴自棄となって、自らの国と未来を呪った。
だが今は違うのだ……!
幾多の苦難を乗り越えた人々は、真っ直ぐな希望を抱いている。
届き続ける人々の声は、絶望を打ち破る『国守りの祝詞』となって、絶望の闇を照らしていくのだ。
『みんな気合入れていくぜっ! そおーりゃあっ!!!』
少年らしい活発な声が響くと、別の少年が後を続ける。
『そおーっりゃあっ!!!』
それを皮切りに、皆が次々参加した。
そおりゃっ!!!
そおりゃっ!!!
段々叫びが短くなって、その分どんどん力強くなる。
そしてその叫びと共に、矢はますます輝きを増していった。
人々の声が大気を揺るがし、さしもの魔王も気圧されるように後ずさった。
そして磐長姫は語りかけた。
「……深淵の魔王よ。今はただ眠りたまえ……!!!」
放たれた矢は、巨大な太陽のように輝きながら、黒き魔王へと迫った。
魔王は両手を掲げ、それを受け止めようとした。
光と闇、希望と絶望。
激しい力のせめぎ合いが続き…………そして光が弾けたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
上も下も、右も左も分からぬ程に、白い光が辺りを包んだ。
もし上空から見ていれば、きっと誰もが驚いただろう。
闇に包まれた日本列島の上空に、巨大なドクロの姿が見えた。
呪詛で形作られたドクロは、かつて人々の死を嘲笑ったものだったが……今は口を開け、もがくように悲鳴を上げた。
やがて野太い断末魔を上げて、ドクロは消えていったのだ。
…………………………そして青い空が垣間見えた。
最初は一箇所。続いて二箇所。
分厚い邪気の雲が薄れ、少しずつ、元の青空がのぞいていくのだ。
「まだ諦めるな! 常夜命は、完全にこの世に出たわけではない! 魔王の反魂は、完成前に止められている!」
…………そう、まだ終わっていないのである。
皆が絶望に包まれる中、磐長姫は気付いていた。
魔王の魂は、まだ完全には復活していない事に。
それは反魂の術が完成前に破壊された事を意味する。柱に突入した鶴や黒鷹達のおかげだろう。
この不完全な魔王であれば、地の底に追い返す事も可能かも知れない…………磐長姫は直感で思ったのだ。
そしてそのための方法も、磐長姫は理解していた。
悪い事ばかり考えて泣いていたかつての自分とは、驚くべき変化であった。
そして彼女は呼びかけた。その場にいる兵士だけではない。自らの魂と通じた、この国の全ての人に語りかけたのだ。
「勇敢なる日の本の勇者達よ。長きに渡る苦難の時、よくぞ耐えてくれた。よくぞ生き延び、希望を繋いでくれた。お前達ならきっと出来る! こんな絶望なんかに負けるものか!」
女神は声に力を込め、高らかに訴えかけた。
「さあ始めよう。この未曾有の危機を乗り切り、国守る物語を……! きっと未来の子供達は、お前達を伝説の世代として尊敬し、その勇気に感謝するだろう……!」
磐長姫の体は、そこで人間サイズへと戻った。
巨体を維持する霊力すら惜しかったのだ。
そのまま空に舞い上がり、磐長姫は左手を突き出す。広げた手を握ると、そこには黄金の弓が握られていた。
自らの得意とする技、天之破魔弓を、膨大な霊気で具現化させたのだ。
磐長姫は魔王を見据え、ゆっくりと弓を引きしぼった。
現代の所作とは違う、古代の弓の引き方だったが、何も無い虚空から、輝く矢が現れたのだ。
矢はその先端に眩しい光を満たしていたが、これだけではまだ足りない。
磐長姫は再び人々に呼びかけた。
「憎しみの力であれを滅ぼす事は出来ない。絶望には希望を……明日を夢見るみんなの思いを、どうか私に預けておくれ……!!!」
人々は、最初戸惑っているようだった。
どうしていいか分からないようだったが、やがて誰かの声が聞こえた。
『私は、みんなが幸せな気持ちになれるようなお宿を作るわっ!』
それは少女の声だった。魂の波動から、鎮西で生まれた少女であろう。
『日本が平和になったら、いっぱいおもてなしして、頑張った人を癒してあげるの!』
彼女の思いが光になって、矢の先端が輝きを増す。
そしてそこから、堰を切ったように人々の声が届いた。
『俺は世界一うまいお好み焼き屋を作る!』
『総理大臣になって、皆が安心出来る国を作りますぞ! 借金なんかもバンバン返して、子供達が明日を夢見れる国を!』
老いも若きも、男も女も。言葉を解さぬ幼子からも、素直な願いの念が届いた。
皆が望んでいるのである。明日を、希望を。再び朝日が昇る世界を。
「そうだ、そうだとも。お前達ならきっと出来る……!」
人々の願いを聞きながら、磐長姫は頷いていた。
皆の思いが届く度、矢の先端はどんどん輝きを増していった。
あたかも闇に包まれた世界に、新たな太陽が生まれたかのようだ。
あの日始まった『国滅ぼしのお呪い』…………それは確かに強力だった。
人々は希望を失い、自暴自棄となって、自らの国と未来を呪った。
だが今は違うのだ……!
幾多の苦難を乗り越えた人々は、真っ直ぐな希望を抱いている。
届き続ける人々の声は、絶望を打ち破る『国守りの祝詞』となって、絶望の闇を照らしていくのだ。
『みんな気合入れていくぜっ! そおーりゃあっ!!!』
少年らしい活発な声が響くと、別の少年が後を続ける。
『そおーっりゃあっ!!!』
それを皮切りに、皆が次々参加した。
そおりゃっ!!!
そおりゃっ!!!
段々叫びが短くなって、その分どんどん力強くなる。
そしてその叫びと共に、矢はますます輝きを増していった。
人々の声が大気を揺るがし、さしもの魔王も気圧されるように後ずさった。
そして磐長姫は語りかけた。
「……深淵の魔王よ。今はただ眠りたまえ……!!!」
放たれた矢は、巨大な太陽のように輝きながら、黒き魔王へと迫った。
魔王は両手を掲げ、それを受け止めようとした。
光と闇、希望と絶望。
激しい力のせめぎ合いが続き…………そして光が弾けたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
上も下も、右も左も分からぬ程に、白い光が辺りを包んだ。
もし上空から見ていれば、きっと誰もが驚いただろう。
闇に包まれた日本列島の上空に、巨大なドクロの姿が見えた。
呪詛で形作られたドクロは、かつて人々の死を嘲笑ったものだったが……今は口を開け、もがくように悲鳴を上げた。
やがて野太い断末魔を上げて、ドクロは消えていったのだ。
…………………………そして青い空が垣間見えた。
最初は一箇所。続いて二箇所。
分厚い邪気の雲が薄れ、少しずつ、元の青空がのぞいていくのだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜
紫音
キャラ文芸
やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。
*あらすじ*
人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。
「“ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」
どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、“猫神様”の居場所はわからない。
迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。
そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。
彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~
朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
つかの間の平和を楽しむ誠たち。
けれど少しずつ不穏な事件が起きてきて、気づいた時にはもう遅い…!?
空前絶後の大ピンチ!
それでもこの物語、なにくそ日本を守ります!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる