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第六章その14 ~私しかおらんのだ!~ 最強女神の覚醒編

闇の魔王の復活

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「お、終わった……?」

 鳳は恐る恐る声を上げた。

 4体の邪神は打ち倒され、魔界の大軍勢も神雷によって撃退された。

 最早この地に、恐るべき相手はいないように思われたのだ。

「やった、やったで! 磐長姫いわながひめ様の勝利や!」

 先ほどまで倒れていた神使達も、喜びの声を上げた。

 神使達を抱き上げ、鳳も感情を爆発させる。

「やりましたね! さすがは代行様ですっ!」

 ……………………だがその時である。

 不意に恐ろしい衝撃が走った。

 地の底で、巨大な何かが動いているような振動だった。

 もう1度同じ衝撃。もう1度、もう1度。

 それはどんどん激しさを増し、まるで地底から魔物が這い上がってくるかのようだ。

「まさか………!?」

 口ではそう言いながら、もう鳳は理解していた。それは神使達も同じである。

 やがて大地がひび割れ、その隙間から黒い何かが溢れ出た。

 肌がちりつくような猛烈な邪気が、凄まじい濃度で噴き出しているのだ。

 息を潜め、祈るように事態を見守る鳳だったが……やがて『それ』は姿を現した。

 大地を砕き、伸ばされた巨大な腕。その後にのぞく顔。

 全てが黒く、ざわざわとうごめく何かに表面を覆われている。

 その1粒1粒が凄まじく強力な呪いであり、それが幾億も集まって、この恐るべき存在を形作っているのだ。

 そして『その存在』は、この地上に顕現した。

 黒き巨体は、最早どのぐらいの大きさがあるのかも分からない。

 その体の一部に、何人かの邪神がからめ取られているのが見えたし、驚いた事に、その中には仄宮の姿もあった。

 仄宮はもがくように蠢いていたが、やがてずぶずぶと黒い体に沈んでいった。

 自らのきさきですら餌とするこの存在こそ、邪神軍団の総大将。

 あらゆる絶望の送り主であり、闇の中の闇。

 常夜命とこよのみこと…………正式には、常夜常日断命とこよつねひたちのみことであった。

「……………………」

 鳳達も、神使達も言葉を失っていた。

 最早これは、戦ってどうこうなる相手ではなかった。

 その身を形作る邪気の総量が、そのかもし出す気配が……皆に絶望を教えていたからだ。

 邪神であろうと何だろうと、この魔王の前では無力であり、その命を吸われてしまう。

 顕現けんげんした時点で敗北、勝ち目など皆無。

 恐らくは天地開闢てんちかいびゃく以来、地の底に沈んだあらゆる負の気を吸い取って成長したのだろう。

 その力の凄まじさは、霊感を持たぬ一般の兵も理解していた。

 誰もがあきらめ、皆が呆然と邪神の王を見上げていた。

 …………ただ1人の女神を除いてだ。

「大丈夫だ、まだ終わっていないっっっ!!!!!」

 絶望に包まれた人々に、磐長姫いわながひめは力強く叫んだ。

「諦めるな、私がいるではないか!!!!!」

 闇に包まれた世界の中で、彼女の光は衰えていなかったのだ。
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