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第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

対決・不是VS誠

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「おおおおおおおっっっ!!!」

「くそだらあああっっっ!!!」

 機体の属性添加機が甲高い唸りを上げ、互いの咆哮が画面越しに聞こえる。

 激しく飛行しながら切り結び、弾丸を発射し、かわした隙を狙って切り込む。

 誠も不是も、最初から相手を倒すつもりで仕掛けていた。

 手加減出来る相手じゃなかったし、まして誠には、残された時間がほとんど無かった。

 反魂の術が完成し、魔王が這い出てくるまであと僅か。

 ここまで支えてくれた鶴や隊員達……そして外で奮戦する皆に報いるために、こんな所で手間取っていられないのだ。

「ぐっ……!!!」

 激しい戦闘の中、誠は全身が焼き付くような痛みを感じた。

 このまま全力を出せば、確実に死ぬ。それは分かっていたが、だからと言って出し惜しみするわけにはいかない。

 誠は意識を集中し、相手の周囲の電磁場を……不是の思考と次の動きを読み取った。

 奴の機体の強化刀が、頭上から振り下ろされる未来がスローモーションで頭に浮かぶ。

 その動きを見切り、横に身をかわしながら繰り出した誠の刃が、不是の機体の腹に迫った。

「うおっっっ!?」

 相手は下がりながら弾をばら撒くが、誠は更にその軌道を読んで、弾丸のわずかな隙間を突破していた。

「くそがっ、これも避けるのかよっ!?」

 不是は焦りを見せながら、突き出されたこちらの刃を肩の大型装甲で受けた。

 内蔵された属性添加機を貫き、爆発で若干距離が離れたが、誠はなおも追いかける。

 ……だがそこで、不是機の右前腕の装甲が大きく歪んだ。

 誠はこれに見覚えがあった。先の戦いで、奴が肩からシールドを作り出した時と似ていたからだ。

 あの時は初見で面食らったが、今は2回目。大人しくそれを許す程、誠はお人良しではない。

 !!!!!!!!!!!!!!!!

 誠は機体の銃を構え、不是の物質創生より早く射撃した。

 まだ創生途中のシールドの強度は脆く、腕の装甲と共に砕け散った。

「ちいっ、マジかこいつっ!!」

 不是は舌打ちしながら更に後退を繰り返した。

「何しても無駄だっ、もう前に見たんだよっ!!!」

 誠は叫びながら機体を突っ込ませる。

 無駄だと思わせる事で動揺させ、新たな引き出しを開けさせないためだ。

 さすがの不是も防戦一方だったのだが…………画面に映るその顔には、なぜか若干の余裕が感じられた。

 少し嘲笑うように笑みを浮かべ、彼は言った。

「強え……強えよなあ。まだ届かねえのかよ……?」

「ヒメ子が、みんなが待ってるんだ! お前と遊んでる暇は無いっ!」

「そうつれねえ事言うなよっ!」

 不是は機体の正面に、幾重にも壁を創り出した。そして誠も痛みのため、その発動を防ぐ対応が遅れてしまった。

 このまま突っ込めば、壁に隠れて不意打ちされるだろう。

 誠は格闘戦を諦め、射撃でそれらの壁を撃ち砕いていく。

 その間に不是の機体は十分に後退していた。

「こないだと全然違うじゃねえかよ。機体がパワーアップしたのか……それとも手加減してやがったのか?」

 不是はそこで画面上でニヤリと笑った。

「……ま、今回は覚悟決めてるみてえじゃねえか。人殺しは2度目になるもんなあ? 慣れてるんだろ、殺し屋の英雄さんよ」

 明日馬さんの事を言っているのだろうが、誠はひるまず睨みつけた。

 確かに不是の言う通り、人間相手の戦いでは、誠はどうしても躊躇ちゅうちょがあった。

 だが今この瞬間の誠は、そんな配慮の一切を放棄していた。

 無理に殺意を抱こうとは思わない。しかしもし全力の戦いの結果、相手に何か起きても構わない……そんなふうに考えていたのだ。

 自分でも驚くほどに覚悟が決まり、どんな罪を背負ってでも、前に進もうと決意していた。

 それはまるで、あの血で血を洗う戦国に宿した決意が、500年の時を経て戻ってきたかのようだった。

 だがそこで、不是は唐突に妙な事を口走った。

「……けど分からねえなあ。何でそんな強ええのに……てめえは俺と違うんだよ」
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