119 / 160
第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編
愛する娘の名誉のために
しおりを挟む
敵味方入り乱れる戦場から距離をとり、2柱の神は対峙していた。
邪神の最強格たる火之群山大神と、日本の国土を総鎮守する大山積神である。
彼らが館の傍から離れたのは、互いの利害が一致したからだ。
群山の術は大威力・大規模なものが多く、他の邪神を巻き込んでしまうし、大山積は倒れた人間達からこの群山を引き離したかった。
同じく山神達を統べる存在でありながら、彼らは何から何まで正反対だった。
がっしりした大山積と比べ、群山の方はすらりとしている。
大山積が鎧を着込み、分厚い剣を持つのに対し、群山は軽装のゆったりした衣。太刀すら有していなかった。
「どうした、手が出なくなったな。そろそろ限界か?」
群山はそう言うと、静かに右手を眼前に掲げる。
特に力を込めた様子も無かったが、やがて膨大な数の赤い光が現れた。
一見して炎の術のようで、結晶化した鉱物の刃が、炎の中に発現している。
かつてディアヌスに放った術と同じであるが、魂の全てが顕現した今、その威力は比べ物にならない。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
殺到した炎の刃が大山積の全身を襲うも、もちろんまだ終わりではない。
群山が手を振るうと、虚空に次々と怪物どもが浮かび上がった。
髑髏の顔を持つ怪鳥、赤き水晶の鱗で包まれた邪龍。その他無数の化け物どもが、炎をまとって現れたのだ。
「やれっ……!」
群山の号令と共に、それらは大山積に襲いかかった。
四方八方から加えられる攻撃、しかもそれぞれが意思を持って追尾するため、回避も完全に無意味なのだ。
怪物どもは相手に触れると、猛烈な炎となって爆散した。
その1発ずつが凄まじい威力であり、直撃の度に大地が轟く。
腕を交差させ、何とか耐えた大山積だったが、衣のあちこちが焼け焦げていた。
群山は端整な顔に笑みを浮かべた。
「隠しても分かる、随分消耗しているな? 国土全てを鎮守する貴様だ、あの封印を押さえる負担も、一番大きかったはずだろう。今まで戦えたのは見事だが……そのような誤魔化し、この火之群山大神には通用せぬ」
「………………」
大山積は何も言わなかったが、群山の推測通り、かなり事前に力をすり減らしているようだった。
一方でこの狡猾なる邪神は、あの太陽神の放った光も屋内で回避したらしく、さしたるダメージも受けていない。
「どうした、何も言わぬのか? 大体貴様が黙っているから、日の本はこのように穢れたのだろうが……!」
群山はなおも手を掲げると、次々術を放ってくる。どれ1つとっても致命の攻撃を繰り出しながら、言葉でも相手を嬲り続けるのだ。
「そもそも山河は神の土地。それを人間どもに穢されて、何ゆえ貴様は声を上げぬ?」
「殺せば良いではないか、思い知らせば良いではないか。それを野放しにした挙句、異国の信徒にまで山河を売られる始末……!」
「答えろ! 山も水も、いつから人間どもの物になった? いつから神から勝ち得たのだ? ここまで思い上がるなら、容赦などいらぬではないか!」
「この日の本は穢れた、だから我が清めるのだ!! 全ての山河を砕き滅ぼし、我が新しく作るのだ!!!」
群山の言葉は次第に熱を帯びて、攻撃も苛烈になっていく。
やがて群山の周囲に、燃え上がる巨大な岩石が現れた。それも1つや2つではない。
直径数十メートルほどもある大岩が、炎を纏って無数に浮かんでいるのだ。
「砕けろ、偽りの総鎮守よっ!!!」
群山が大山積を指差すと、岩は隕石のように殺到していく。
大地は割れんばかりに揺れ動き、着弾の衝撃で火柱が立ち昇った。
大山積の鎧はひび割れ、あちこち無残に砕けたが、それでも倒れなかったのだ。
群山は少し感心したように呟いた。
「さすがに呆れた頑丈さだな。あの『出来損ない』の親だけはある」
「…………っ!」
その言葉が発せられた瞬間、大山積の体がびくりと震えた。
「気に障ったか? なら何度でも言ってやろう」
バカにするように相手を眺めながら、群山は辛辣な言葉を続けた。
「確か岩凪姫とかいったな? 『出来損ない』だと言ったのだ。貴様に似て野蛮で、当然のごとく出戻ったあげく、人間どもに肩入れした。挙句の果てに、身を滅ぼして無駄死にだろう?」
「…………っっっ!!!!!」
大山積は無言だった。けれど無言の中に、激しい怒りが渦巻いていた。
最愛の娘を侮辱された憤りであり、彼の憤怒と呼応するように、周囲の山々が鳴動していく。
次の瞬間、大山積は突進した。
だがそこで群山は笑い声を上げる。
「ふはは、待っていたぞ、守りを解いたな!!!」
つまりこれは罠だったのだ。
折り紙付きの頑丈さで、しかも防御に徹した大山積を倒すのは至難。ただ力を消耗するだけだ。
ならば相手を挑発し、自分から攻撃させればいい。頭の切れる群山らしい立ち回りだった。
群山が何か念じると、長い棒状のものが無数に浮かんだ。
赤いマグマを凝縮したような槍であり、それが唸りを上げて殺到したのだ。
……だが無数の刃に貫かれながらも、大山積は止まらなかった。
負傷をものともせずに突進すると、群山の喉を鷲掴みにしたのだ。
「なっ、何だと……!? そんな……」
何かを口走りかけた群山だったが、瞬時に喉を握り潰された。
大山積の怒りはおさまらず、振り回して周囲の山に叩き付ける。
そのまま何度も山や大地にぶち当てると、相手を宙に投げ上げた。
そしてまだ宙にある群山を、巨大な岩の手が掴み取る。
体全体を包む程の巨腕に、必死に抗おうとする群山だったが、次の瞬間。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
握り潰された群山は、断末魔の悲鳴を上げていたのだ。
邪神の最強格たる火之群山大神と、日本の国土を総鎮守する大山積神である。
彼らが館の傍から離れたのは、互いの利害が一致したからだ。
群山の術は大威力・大規模なものが多く、他の邪神を巻き込んでしまうし、大山積は倒れた人間達からこの群山を引き離したかった。
同じく山神達を統べる存在でありながら、彼らは何から何まで正反対だった。
がっしりした大山積と比べ、群山の方はすらりとしている。
大山積が鎧を着込み、分厚い剣を持つのに対し、群山は軽装のゆったりした衣。太刀すら有していなかった。
「どうした、手が出なくなったな。そろそろ限界か?」
群山はそう言うと、静かに右手を眼前に掲げる。
特に力を込めた様子も無かったが、やがて膨大な数の赤い光が現れた。
一見して炎の術のようで、結晶化した鉱物の刃が、炎の中に発現している。
かつてディアヌスに放った術と同じであるが、魂の全てが顕現した今、その威力は比べ物にならない。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
殺到した炎の刃が大山積の全身を襲うも、もちろんまだ終わりではない。
群山が手を振るうと、虚空に次々と怪物どもが浮かび上がった。
髑髏の顔を持つ怪鳥、赤き水晶の鱗で包まれた邪龍。その他無数の化け物どもが、炎をまとって現れたのだ。
「やれっ……!」
群山の号令と共に、それらは大山積に襲いかかった。
四方八方から加えられる攻撃、しかもそれぞれが意思を持って追尾するため、回避も完全に無意味なのだ。
怪物どもは相手に触れると、猛烈な炎となって爆散した。
その1発ずつが凄まじい威力であり、直撃の度に大地が轟く。
腕を交差させ、何とか耐えた大山積だったが、衣のあちこちが焼け焦げていた。
群山は端整な顔に笑みを浮かべた。
「隠しても分かる、随分消耗しているな? 国土全てを鎮守する貴様だ、あの封印を押さえる負担も、一番大きかったはずだろう。今まで戦えたのは見事だが……そのような誤魔化し、この火之群山大神には通用せぬ」
「………………」
大山積は何も言わなかったが、群山の推測通り、かなり事前に力をすり減らしているようだった。
一方でこの狡猾なる邪神は、あの太陽神の放った光も屋内で回避したらしく、さしたるダメージも受けていない。
「どうした、何も言わぬのか? 大体貴様が黙っているから、日の本はこのように穢れたのだろうが……!」
群山はなおも手を掲げると、次々術を放ってくる。どれ1つとっても致命の攻撃を繰り出しながら、言葉でも相手を嬲り続けるのだ。
「そもそも山河は神の土地。それを人間どもに穢されて、何ゆえ貴様は声を上げぬ?」
「殺せば良いではないか、思い知らせば良いではないか。それを野放しにした挙句、異国の信徒にまで山河を売られる始末……!」
「答えろ! 山も水も、いつから人間どもの物になった? いつから神から勝ち得たのだ? ここまで思い上がるなら、容赦などいらぬではないか!」
「この日の本は穢れた、だから我が清めるのだ!! 全ての山河を砕き滅ぼし、我が新しく作るのだ!!!」
群山の言葉は次第に熱を帯びて、攻撃も苛烈になっていく。
やがて群山の周囲に、燃え上がる巨大な岩石が現れた。それも1つや2つではない。
直径数十メートルほどもある大岩が、炎を纏って無数に浮かんでいるのだ。
「砕けろ、偽りの総鎮守よっ!!!」
群山が大山積を指差すと、岩は隕石のように殺到していく。
大地は割れんばかりに揺れ動き、着弾の衝撃で火柱が立ち昇った。
大山積の鎧はひび割れ、あちこち無残に砕けたが、それでも倒れなかったのだ。
群山は少し感心したように呟いた。
「さすがに呆れた頑丈さだな。あの『出来損ない』の親だけはある」
「…………っ!」
その言葉が発せられた瞬間、大山積の体がびくりと震えた。
「気に障ったか? なら何度でも言ってやろう」
バカにするように相手を眺めながら、群山は辛辣な言葉を続けた。
「確か岩凪姫とかいったな? 『出来損ない』だと言ったのだ。貴様に似て野蛮で、当然のごとく出戻ったあげく、人間どもに肩入れした。挙句の果てに、身を滅ぼして無駄死にだろう?」
「…………っっっ!!!!!」
大山積は無言だった。けれど無言の中に、激しい怒りが渦巻いていた。
最愛の娘を侮辱された憤りであり、彼の憤怒と呼応するように、周囲の山々が鳴動していく。
次の瞬間、大山積は突進した。
だがそこで群山は笑い声を上げる。
「ふはは、待っていたぞ、守りを解いたな!!!」
つまりこれは罠だったのだ。
折り紙付きの頑丈さで、しかも防御に徹した大山積を倒すのは至難。ただ力を消耗するだけだ。
ならば相手を挑発し、自分から攻撃させればいい。頭の切れる群山らしい立ち回りだった。
群山が何か念じると、長い棒状のものが無数に浮かんだ。
赤いマグマを凝縮したような槍であり、それが唸りを上げて殺到したのだ。
……だが無数の刃に貫かれながらも、大山積は止まらなかった。
負傷をものともせずに突進すると、群山の喉を鷲掴みにしたのだ。
「なっ、何だと……!? そんな……」
何かを口走りかけた群山だったが、瞬時に喉を握り潰された。
大山積の怒りはおさまらず、振り回して周囲の山に叩き付ける。
そのまま何度も山や大地にぶち当てると、相手を宙に投げ上げた。
そしてまだ宙にある群山を、巨大な岩の手が掴み取る。
体全体を包む程の巨腕に、必死に抗おうとする群山だったが、次の瞬間。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
握り潰された群山は、断末魔の悲鳴を上げていたのだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和
二位関りをん
キャラ文芸
昭和17年。ある島の別荘にて病弱な財閥令嬢の千恵子は華族出の母親・ヨシとお手伝いであやかし・濡れ女の沼霧と一緒に暮らしていた。
この別荘及びすぐ近くの海にはあやかし達と、人語を話せるシャチがいる。
「ぜいたくは敵だ」というスローガンはあるが、令嬢らしく時々ぜいたくをしてあやかしやシャチが取ってきた海の幸に山の幸を調理して頂きつつ、薬膳や漢方に詳しい沼霧の手も借りて療養生活を送る千恵子。
戦争を忘れ、ゆっくりとあやかし達と共に美味しいご飯を作って食べる。そんなお話。
※表紙はaipictorsで生成したものを使用しております。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
桃源庵 (仮)
浅井 ことは
キャラ文芸
昔、祖父母から聞かされていた滝の上の鳥居の話。すっかり忘れていたが、ふと思い出し近くに行くと、白い着物を着た人が……
滝の上に行く方法は無いのになぜ人がいるのだろう?
そう思い、上に行く方法を探すのだが……
天蚕糸の月 Good luck.
梅室しば
キャラ文芸
晩秋を迎えた潟杜大学で学園祭が開かれる。温泉同好会に籍を置く潟杜大学生物科学科の二年生・佐倉川利玖は、出店しているお汁粉の屋台のビラ配りをしている最中、バンドサークルでボーカルを務める工学部三年生の友人・熊野史岐と邂逅する。飲酒を強要する悪質なサークルを振り切って物陰に移動した二人は、湖と神話の土地・潮蕊からやって来た夫婦神に「落とし物を探してほしい」と頼まれる。利玖は、史岐のライブに間に合うように彼らの落とし物を見つけ出せるのか──。
※本作は「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。
アマテラスの力を継ぐ者【第一記】
モンキー書房
ファンタジー
小学六年生の五瀬稲穂《いつせいなほ》は運動会の日、不審者がグラウンドへ侵入したことをきっかけに、自分に秘められた力を覚醒してしまった。そして、自分が天照大神《あまてらすおおみかみ》の子孫であることを宣告される。
保食神《うけもちのかみ》の化身(?)である、親友の受持彩《うけもちあや》や、素戔嗚尊《すさのおのみこと》の子孫(?)である御饌津神龍《みけつかみりゅう》とともに、妖怪・怪物たちが巻き起こす事件に関わっていく。
修学旅行当日、突如として現れる座敷童子たちに神隠しされ、宮城県ではとんでもない事件に巻き込まれる……
今後、全国各地を巡っていく予定です。
☆感想、指摘、批評、批判、大歓迎です。(※誹謗、中傷の類いはご勘弁ください)。
☆作中に登場した文章は、間違っていることも多々あるかと思います。古文に限らず現代文も。
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる