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第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

愛する娘の名誉のために

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 敵味方入り乱れる戦場いくさばから距離をとり、2柱の神は対峙していた。

 邪神の最強格たる火之群山大神ひのむらやまのおおかみと、日本の国土を総鎮守そうちんじゅする大山積神おおやまつみのかみである。

 彼らが館の傍から離れたのは、互いの利害が一致したからだ。

 群山むらやまの術は大威力・大規模なものが多く、他の邪神を巻き込んでしまうし、大山積おおやまつみは倒れた人間達からこの群山むらやまを引き離したかった。

 同じく山神達を統べる存在でありながら、彼らは何から何まで正反対だった。

 がっしりした大山積と比べ、群山の方はすらりとしている。

 大山積が鎧を着込み、分厚い剣を持つのに対し、群山は軽装のゆったりした衣。太刀すら有していなかった。



「どうした、手が出なくなったな。そろそろ限界か?」

 群山はそう言うと、静かに右手を眼前に掲げる。

 特に力を込めた様子も無かったが、やがて膨大な数の赤い光が現れた。

 一見して炎の術のようで、結晶化した鉱物の刃が、炎の中に発現している。

 かつてディアヌスに放った術と同じであるが、魂の全てが顕現した今、その威力は比べ物にならない。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 殺到した炎の刃が大山積の全身を襲うも、もちろんまだ終わりではない。

 群山が手を振るうと、虚空に次々と怪物どもが浮かび上がった。

 髑髏ドクロの顔を持つ怪鳥、赤き水晶のうろこで包まれた邪龍。その他無数の化け物どもが、炎をまとって現れたのだ。

「やれっ……!」

 群山の号令と共に、それらは大山積に襲いかかった。

 四方八方から加えられる攻撃、しかもそれぞれが意思を持って追尾するため、回避も完全に無意味なのだ。

 怪物どもは相手に触れると、猛烈な炎となって爆散した。

 その1発ずつが凄まじい威力であり、直撃の度に大地がとどろく。

 腕を交差させ、何とか耐えた大山積だったが、衣のあちこちが焼け焦げていた。

 群山は端整な顔に笑みを浮かべた。

「隠しても分かる、随分消耗しているな? 国土全てを鎮守する貴様だ、あの封印を押さえる負担も、一番大きかったはずだろう。今まで戦えたのは見事だが……そのような誤魔化し、この火之群山大神ひのむらやまのおおかみには通用せぬ」

「………………」

 大山積は何も言わなかったが、群山の推測通り、かなり事前に力をすり減らしているようだった。

 一方でこの狡猾こうかつなる邪神は、あの太陽神の放った光も屋内で回避したらしく、さしたるダメージも受けていない。

「どうした、何も言わぬのか? 大体貴様が黙っているから、日の本はこのようにけがれたのだろうが……!」

 群山はなおも手を掲げると、次々術を放ってくる。どれ1つとっても致命の攻撃を繰り出しながら、言葉でも相手をなぶり続けるのだ。

「そもそも山河は神の土地。それを人間どもにけがされて、何ゆえ貴様は声を上げぬ?」

「殺せば良いではないか、思い知らせば良いではないか。それを野放しにした挙句、異国の信徒にまで山河を売られる始末……!」

「答えろ! 山も水も、いつから人間どもの物になった? いつから神から勝ち得たのだ? ここまで思い上がるなら、容赦などいらぬではないか!」

「この日の本はけがれた、だから我が清めるのだ!! 全ての山河を砕き滅ぼし、我が新しく作るのだ!!!」

 群山の言葉は次第に熱を帯びて、攻撃も苛烈になっていく。

 やがて群山の周囲に、燃え上がる巨大な岩石が現れた。それも1つや2つではない。

 直径数十メートルほどもある大岩が、炎をまとって無数に浮かんでいるのだ。

「砕けろ、偽りの総鎮守そうちんじゅよっ!!!」

 群山が大山積を指差すと、岩は隕石のように殺到していく。

 大地は割れんばかりに揺れ動き、着弾の衝撃で火柱が立ち昇った。

 大山積の鎧はひび割れ、あちこち無残に砕けたが、それでも倒れなかったのだ。

 群山は少し感心したように呟いた。

「さすがに呆れた頑丈さだな。あの『出来損ない』の親だけはある」

「…………っ!」

 その言葉が発せられた瞬間、大山積の体がびくりと震えた。

「気にさわったか? なら何度でも言ってやろう」

 バカにするように相手を眺めながら、群山は辛辣しんらつな言葉を続けた。

「確か岩凪姫とかいったな? 『出来損ない』だと言ったのだ。貴様に似て野蛮で、当然のごとく出戻ったあげく、人間どもに肩入れした。挙句の果てに、身を滅ぼして無駄死にだろう?」

「…………っっっ!!!!!」

 大山積は無言だった。けれど無言の中に、激しい怒りが渦巻いていた。

 最愛の娘を侮辱されたいきどおりであり、彼の憤怒と呼応するように、周囲の山々が鳴動していく。

 次の瞬間、大山積は突進した。

 だがそこで群山は笑い声を上げる。

「ふはは、待っていたぞ、守りを解いたな!!!」

 つまりこれは罠だったのだ。

 折り紙付きの頑丈さで、しかも防御に徹した大山積を倒すのは至難。ただ力を消耗するだけだ。

 ならば相手を挑発し、自分から攻撃させればいい。頭の切れる群山らしい立ち回りだった。

 群山が何か念じると、長い棒状のものが無数に浮かんだ。

 赤いマグマを凝縮したような槍であり、それが唸りを上げて殺到したのだ。

 ……だが無数の刃に貫かれながらも、大山積は止まらなかった。

 負傷をものともせずに突進すると、群山の喉を鷲掴わしづかみにしたのだ。

「なっ、何だと……!? そんな……」

 何かを口走りかけた群山だったが、瞬時に喉を握り潰された。

 大山積の怒りはおさまらず、振り回して周囲の山に叩き付ける。

 そのまま何度も山や大地にぶち当てると、相手を宙に投げ上げた。

 そしてまだ宙にある群山を、巨大な岩の手が掴み取る。

 体全体を包む程の巨腕に、必死にあらがおうとする群山だったが、次の瞬間。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 握り潰された群山は、断末魔の悲鳴を上げていたのだ。
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