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第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

称え合う両雄

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 建御名方タケミナカタが無言なのを見て、相手は更に調子に乗った。

「どうした、怖気づいたのか? 臆病ぶりは神代の頃と変わらぬか」

「無理もないぞ、我は無敵の雷神・降稲魂神くだちいなだまのかみ。そしてお前は比類なき剣神・真之御佩刀神つつのみはかしのかみ。こ奴が敗れた建御雷タケミカヅチに匹敵する力を持つのだ」

 だが次の瞬間、2人の邪神の顔色が変わった。

 建御名方タケミナカタの全身が、笑いをこらえるように震えたからだ。

 たちまち雷神が怒り狂った。

「おのれ笑うなっ、我らを愚弄ぐろうするかっっっ!!!」

 瞬く間に間合いを詰めると、手にした太刀に雷をまとわせて斬り付けたのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 けれど建御名方タケミナカタは微動だにしなかった。

 相手の太刀を素手で受け止め、ぎりぎりと握り続けていたのだ。

「なっ、なんだとっ!? なぜ建御雷やつに匹敵する我が太刀を……」

 次の瞬間、雷神の太刀が粉々に砕けた。

 同時に建御名方タケミナカタが動き、敵の顔を鷲掴みにしていた。

「がっ……!?」

 邪神は白目を剥くが、瞬時に顔を握り潰される。そのまま高々と持ち上げられ、凄まじい速度で彼方の山に投げつけられた。

 邪神は全身から黒い邪気を噴き出し、干からびた木乃伊ミイラと化して、土に還っていったのだ。

「ば、化け物めっ……!!」

 自らと並び称される邪神が殺され、剣神は後ずさった。

 舞い上がり、一目散に戦場を後にしようとするが、その逃避行は続かなかった。

 建御名方タケミナカタが投げた剣が、彼の胸を貫いていたからである。

「奴に並ぶ? 寝ぼけるのも大概にせよ」

 建御名方タケミナカタうなるように言うが、そこで油断なく周囲を見据えた。

 多数の邪神が、一斉にこちらに向かって来ていたからだ。

 彼らは眼前に光の幾何学模様を浮かべると、それぞれ強力な術を放とうとしていた。

「避けるなよっ、避ければ人間どもが死ぬぞ?」

 邪神の1人が嘲笑うように言った。

 まずは手ごわい建御名方タケミナカタを倒し、その後に人間達を人質にしようとしたのだ。

 建御名方タケミナカタは、当然のように玄太達の前に立つと、邪神達の術をまともに受けた。

 炎に雷撃、氷柱に風の刃。

 ありとあらゆる術が重ねられ、全身を覆う古代の鎧が、あちこち砕けて舞い上がっていく。

「ええい倒れろっ!!! 倒れろ、このでくの坊がっ!!!」

 邪神達は焦り、更に攻撃の威力を強めた。

 だが、次の瞬間だった。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 凄まじい雷がひらめくと、集まる邪神が黒焦げになっていた。

 数瞬の後、腕組みした1人の武神が、ゆっくりと地に降り立つ。

 あれ程の雷撃を操る神など、この日本には1柱しかいない。

 よく武道場にもまつられている日本最強の武神、鹿島大明神こと建御雷神タケミカヅチノカミだけだ。

(やばいっ、建御雷タケミカヅチ……因縁の相手じゃんか……!!!)

 玄太は内心焦っていた。

 神代の昔、切り結んだ武神2人だ。こんな間合いで向かい合って、事が起こらぬはずが無い。

 次の瞬間、建御雷タケミカヅチが腕組みを解いた。そのまま歩を進め、諏訪の守り神へと歩み寄る。

 建御名方タケミナカタも立ち上がり、やはり相手に近付いた。

 やがて建御雷タケミカヅチが右手を掲げた。

 手の平を広げ、今にも手刀てがたなを打ち込もうとするかのようだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 次の瞬間、轟音と共に武神達は手を打ち合わせていた。

 2人はそのまますれ違い、それぞれの戦いに没頭していく。

 終始ただの一言も交わさなかったが、確かに互いを称え合ったのだ。
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