新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

文字の大きさ
上 下
117 / 160
第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

諏訪大明神の戦い

しおりを挟む
「そうじゃ、人間どもを捕らえろ!」

「魂を喰らえ、傷を癒やすのだ!」

(…………っっっ!!!)

 邪神達の視線が向けられた瞬間、玄太は全身の毛が逆立つのを感じた。

「姉御っ、こころっ、しっかりしろっ!!!」

 必死に呼びかける玄太だったが、画面に映る2人は、あちこち血を流して気絶している。とても短時間で意識が戻るような状態ではない。

(俺が……俺が守らないとっ……!!!)

 人間が勝てる相手じゃないし、その血に飢えた目で見据えられるだけで、とめどなく恐怖が湧き上がってくる。

 けれどその恐れを押し返してくれるのは、2人との思い出だった。

 避難所で泣いていた自分を励ましてくれた姉御と、常に優しい気持ちで包んでくれた……この世で一番大好きなこころ。

 この2人を失う事は、玄太にとって世界が終わるのと同じだった。

 邪神達は見る間に距離を詰め、手を伸ばして玄太達を掴み取ろうとしていた。

 必死に発射し続ける銃弾が、空しく弾かれて宙に舞う。

(すまない姉御、こころ……死ぬ時は一緒だぞ……!)

 だが玄太が死を覚悟した時だった。

 横手から凄まじい衝撃が走り、巨体の神が身を割り込ませていたのだ。

 古代の鎧に身を包み、逞しい背中はいかにも武神といった様相だ。

 その時ふと、玄太は懐かしい感覚を抱いた。目の前の男神がまとう霊気に、確かに覚えがあったからだ。

(この感じ、諏訪大社の……!)

 故郷の山梨に近く、また親戚がいた事もあり、何度か訪れた旧長野県。

 そこでもうでた諏訪大社の雰囲気と、目の前の武神の気が酷似こくじしていたのだ。

 恐らくこの神が信濃の守り神、諏訪大明神なのだろう。

 彼は玄太達に背を向けると、それが当然、と言わんばかりに無数の邪神を迎えうっていく。

「………………」

 玄太はその様を呆然と見つめていた。

 ……正直に言うと、神話の逸話を聞いた玄太は、この武神に憧れを持たなかった。

 出雲の国譲りの際、日本最強の武神である建御雷神タケミカヅチノカミに破れ、島根から長野県まで逃げてきた……そんな話を聞いた玄太は、むしろ建御雷タケミカヅチの方に憧れを持ったのだ。

 ここまで逃げてきた諏訪大明神は、むしろ臆病者でないかとさえ思った。

 でも目の前の男神を見ていると、そんな気持ちは吹き飛んでいた。

 逃げたというより、むしろ再起をはかったのだろう。鍛えて再び挑むためにだ。

 そして追った建御雷タケミカヅチも、彼が強敵だからこそ、とことん決着をつけるべく、どこまでも追いかけたのだ。

 もし弱い相手なら、はるばる長野まで追う必要など無いからだ。

 そもそも最強の武神に立ち向かった時点で勇敢だし、誰にさげすまれる筋合いもないのだが……もちろん目の前の男神は、言い訳など口にしていない。

 神代の昔の敗戦にも、今この戦いにおいてもだ。

 ただ背中で玄太を守りながら、多数の邪神をほふっていくのである。

 ……だが、必死に応戦してくれる建御名方タケミナカタの前に、2柱の邪神が舞い降りた。

 特に構えはとっていないが、他の邪神とは一線をかくす強さを持っている事が玄太には分かった。

「そうか、建御名方タケミナカタよ。ここは貴様の鎮座地だったか」

「山に囲まれ、大和にも出雲にも遠い。負け犬に相応しい隠れ家であるな」

 侮蔑ぶべつの言葉を投げかけながら、両邪神は剣を構えた。

(………こいつら、滅茶苦茶強いっっっ!!!)

 玄太は戦慄する。

 相手は邪神の中でもかなりの手慣れだろう。

 それでも目の前の建御名方タケミナカタは、黙って相手を睨み付けている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...