新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

文字の大きさ
上 下
94 / 160
第六章その11 ~時代絵巻!?~ 過去の英雄そろい踏み編

源平武者の強力助っ人!

しおりを挟む
「あいつら何だ、黄泉の軍勢か?」

 誠が問うと、コマが走りながら答えた。

「違うよ黒鷹、鎧も古代のものじゃないだろ。源平とか鎌倉の頃の邪霊だよ」

 コマの言葉通り、亡者達の鎧は色こそどす黒いが、古代のそれとは形状が違う。

「戦いに敗れたり、処刑されたりした怨念の持ち主だ。霊格は黄泉の軍勢に及ばないけど……」

 コマはそこで足を止めた。

 骸どもは次々大地から湧き上がっており、恐らくどこをどう走ろうと、すり抜ける事は出来ないだろう。

「どうしよう、1体ずつがそこそこ強いな。相手にしてたら消耗しちゃうぞ」

 コマは呟いたが、そこでかたわらから声がかかった。

「お困りでしょうか……?」

 鈴を振ったように澄んだ声色こわいろだった。

 誠が見ると、そこには白拍子の衣裳に身を包んだ女性が立っていたのだ。

「し、静御前……さんっ!?」

「またお会いしましたね」

 静御前は微笑んだが、現れたのは彼女だけでは無かった。

 白いもやが渦巻くと、鎧姿の武者達が、次々姿を現したのだ。

 この陰気な空間には似つかわしくない、色とりどりできらびやかな大鎧をつけた武者達は、まるで五月人形のように勇壮である。

 その先頭の馬に乗った人物に、静御前は無言で寄り添う。

 言葉こそ交わさなかったが、互いの表情は信頼と愛情に満ちているのだ。

 誠はその人物の正体に気付いた。

「えっ、もしかして源義経さん……!?」

「おお、我も少しは名を馳せておるな」

 義経は馬上からほがらかに微笑んだ。

「いかにも我は、源九郎判官義経みなもとのくろうほうがんよしつね。人の子同士の戦では、もはややる気にならなんだが……世にあだ為す悪霊どもなら話は別だ」

 彼の言葉の合間にも、もやの中から次々人影が現れていく。

 薙刀を携え、僧兵のような格好をした武蔵坊弁慶むさしぼうべんけい

 素早い身のこなしの伊勢三郎いせさぶろう、そして精悍な顔立ちの佐藤嗣信さとうつぐのぶ佐藤忠信さとうただのぶ兄弟達。

 他にも大勢の源氏武者が現れ、まるでタイムスリップしたかのようだ。

「やれやれ、ようやく殿がやる気になられたか。平家との夢戦ゆめいくさでは、料理の真似事などして遊んでおられたが」

 少し口元を歪め、おかしそうに弁慶が言うと、義経は静かに答える。

「勝者も敗者も、皆で作り上げた日の本の国。それをことごとく壊すというのだ。さすがに腹立たしいではないか」

 義経はそう言って片手を前に差し出した。

「矢合わせだ。鏑矢かぶらやを」

 すると弓を構えた涼やかな武者が……恐らくは那須与一なすのよいちが矢を放つ。

 鏑矢は風を切り、独特の音を立てながら飛んでいった。

 双方がこの矢を放つのが源平時代の儀礼だったのだが……骸にはそんな礼儀は通じないようだ。

 矢の音に刺激を受け、1体が突進してくる。

 手にした太刀を振りかぶり、義経を狙って斬りつけるが、すかさず佐藤嗣信さとうつぐのぶが、太刀を抜いて受け止めていた。

 その隙に那須与一が眉間を射抜き、骸はあっさりと倒れ伏したのだ。

「礼ぐらいわきまえよ。武士もののふならば、例え敵でも称えるものだ。屋島の平家もそうであった」

 与一の言葉に、骸はますます逆上したのか、更に数体が迫ってくる。

 ……が、それを斬り払ったのは、精悍で整った顔立ちの大柄な平家武者。

 つまりは平家一の猛将・能登守教経のとのかみのりつねだったのだ。

 傍らには知的な印象の中年男性もおり、こちらが平家の知将・平知盛たいらのとももりなのだろう。

 いつの間にか源氏方の兵だけでなく、平家方の兵も現れていたのである。

「与一殿の言う通りよ。心底安堵あんどしたぞ、このような馬鹿が我らの宿敵でなくてな。こんな奴らと戦うなど、まるで身を張る甲斐がない」

 知盛はわざと大声で言い、武者達はどっと笑った。

「よくぞ言われた、知盛とももり殿!」

「これは辛辣しんらつ! いかに下賎な悪霊とて、さすがに気の毒でしょう!」

「いやいや、それすらかいせぬやも知れぬぞ? 頭も恐らく空であろうし」

 源氏も平家も関係なく、皆で骸どもを大声で笑い、バカにしているのだ。

(怒らせて、引き付けてくれてるんだ……!)

 誠達は彼らの意図に気付いた。

 怨霊武者達をわざと怒らせ、こちらから目を逸らさせようとしているのである。

 やがて怒り狂った骸達は、一斉に押し寄せてくる。

 そこで教経のりつねが言った。

「さあ義経よ。さっさとケリをつけて、あの時の続きだ」

「それは壇ノ浦だんのうらの? それとも夢の戦いか?」

「両方だっ!」

 教経のりつねは叫ぶと同時に前に駆け、迫る骸どもを数体まとめて薙ぎ払った。

 それを皮切りに大乱戦になった。

 骸達と武者が入り乱れ、力の限り斬り結んでいる。

 千年前に激しく憎みあい、雌雄を決した源平の武者達が、今を生きる誠達のために力を貸してくれているのだ。

 静御前は微笑み、戦場の彼方を指差した。

「さあお進み下さい、勇者のご一行さま」

「ありがとう!」

 静御前に答えると、コマは再び駆け出した。

 やがて目の前に、白い霊気が壁のように立ちはだかる。

「体当たりで抜けるから、みんなつかまって!」

 コマの言葉に、誠達はぎゅっとたてがみを握り締めるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...