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第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編

虎丸の直談判

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 鬼達が雪山を闊歩かっぽしていた頃。虎丸は1人別行動をとっていた。

 彼がいるのは館ではなく、あの巨大な柱の内部である。それにはれっきとした理由があるのだ。

 弟達や他の魔族は、邪神に襲われないよう館の一室に引きこもっているが、それもいつまでもつか分からない。

 もし万が一、弟達が命を奪われる事になったら……虎丸は考えただけでぞっとした。

(今のままじゃ、次郎丸と三郎丸も危ねえ。かと言って無明権現様に泣きついても、他の邪神とは同格。邪神どもが言う事を聞くわけねえ)

 だから虎丸は賭けに出たのだ。

(こうなったらあいつらより上の存在、常夜命に直談判じかだんぱんだ。分霊わけみでも何でもいいから、出てきてガツンと言ってくれりゃいいんだ)

 虎丸はそう考え、身軽に柱の中を駆け下った。

 回転しながら地下深くへめり込んだ柱は、今はその動きを止めている。

 柱の中は幾つもの巨大な階層に区切られ、その階層を貫くように、沢山の白い円柱が伸びていた。

(柱の中にも無数の柱……とんでもない量の霊気を結晶化させて積み上げてるのか。さすが千年かけて作っただけあるぜ)

 虎丸はそう考えつつも、下へ下へと駆け降りていく。幾つもの階を抜け、やがて最下層へと辿り着いた。

「う、うおっ……!?」

 そこで虎丸は声を上げた。

 最下層の巨大な空間を埋め尽くすように、鎧姿のむくろ達が並んでいたからだ。

 触れるだけで命を吸い取る黄泉の軍勢に加え、良く見ると老婆のような存在も見える。

「黄泉の兵隊に黄泉醜女ヨモツシコメか。まずいな、これじゃ近づけねえぞ」

 何とかしてこいつらをすり抜け、常夜命に進言したいのだったが……

「……!?」

 だが虎丸は、そこでふと異変を感じた。居並ぶ黄泉の軍勢が、一斉に揺れ始めたのだ。

 彼ら?は剥き出しの歯をカチカチと鳴らし、細かく体を震わせている。

 やがて床の中央辺りから、黒い煙が立ち昇った。煙ははじめ薄かったが、次第に色濃くなっていく。

 そして煙は、黒い巨大な手となった。

『手』はしばし宙を泳ぐと、ゆっくりと床に叩きつけられた。地の底にいる何かが、大地を掴んで這い上がろうとしているのだ。

 次の瞬間、虎丸は目を見開いた。

「うっ、うおっっ!!?」

 その場を埋め尽くしていた黄泉の軍勢が、そして黄泉醜女ヨモツシコメまでが、小刻みに震えながら崩れ落ちていったのだ。

 彼らが崩壊するたび、黒い粉塵が舞い上がっては『手』に吸い込まれていく。

 周囲の命を吸い取ってしまう黄泉のつわもの達だったが、それすらも常夜命にとっては餌でしかないのだろうか。

 手は煙を吸い込む度に、喜びを表すように不気味に輝いた。

「なっ何だこりゃ……!? こんなもん神でも何でもねえ、ただのバケモンじゃねえか……!」

 最早話が通じる通じないの問題ではなかった。

「上も下もバケモンだらけだ、こんなとこ居たら殺される。こうなったら弟達だけでも……」

 だが、次の瞬間である。

「…………どこに行く気だ、下郎」

 不意に横手から声がかかった。

 しわがれて年老いた声だったし、壁に映るその影は、頭に2本の角が見える。

「!!!!!」

 戦慄し、とっさに身をかわそうとする虎丸だったが、瞬時に目の前が闇に染まった。いや、黒い液体のようなものが、一瞬で視界を覆っていたのだ。

 その黒い腐れ水に触れた途端、全身に焼きつくような痛みが襲った。

「ぐっ……!!!」

 虎丸は体勢を崩し、もんどりうって倒れこんだ。

 周囲の細い柱が砕け、白い蛍火のような光が、一斉に舞い散るのが見えた。
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