上 下
71 / 160
第六章その9 ~なかなか言えない!~ 思いよ届けの聖夜編

レジェンド隊・最後の夜1

しおりを挟む
 雪菜と天草が室内に入ると、そこには既に1人の女性がいた。

 軍用ジャケットにタイトスカート。ストレートの長髪で、真っ直ぐ断ち切ったぱっつん前髪。

 かつて同じ隊だった越中こしなかヒカリである。

 彼女は退屈げに部屋を歩き回っていたが、こちらを目にするや否や、凄い勢いで歩み寄ってきた。

「やあ、遅かったね2人ともっ! 若者らしくラブい事してきたかい?」

「……………………」

 ヒカリの問いに、雪菜も天草も無言だった。

 ヒカリはしばしこちらを見つめていたが、やがてド直球を投げ込んできた。

「うわあその顔、ふられちゃったのかい?」

「うっ……!!!」

 雪菜はつい反応してしまったが、こうなったら隠しても仕方ない。

「……そっそのっ、面と向かって言われたわけじゃないけど、流石に分かるわ。ていうか無理っ、私じゃかなわないわよ! 人生2回分……ううん、500年分の愛情だもん」

 ヒカリは肩をすくめて容赦のない感想を述べる。

「あーあ、逆源氏物語だったのにね。何も知らない無垢な男子を、背徳感ギリギリで理想の婿むこに仕立てたのに」

「人聞き悪すぎっ! 私は師匠キャラだったのよ?」

 雪菜は思わずツッコミを入れた。

「……だから言ったじゃないヒカリ。最後まで分からないって」

「そうだね、雪菜の言う通りだ」

 ヒカリはガシガシ後ろ頭をかいて、それから天草の方を見た。

「それはそうとさ、もう1人もふられた顔してるけど」

 ヒカリの言葉とほぼ同時に、天草は全身真っ赤になった。

 顔から湯気を出しながら、彼女は蚊の鳴くような声でびる。

「……そ、その雪菜、ごめんなさい。またかぶっちゃって……」

「ほんとに悪い子よね、瞳は」

 雪菜が苦笑すると、ヒカリは調子よく後を続けた。

「うんうん、ボクがちひろ姉に言っておくよ。悪い子はなまはげに成敗して貰わなくちゃ」

 雪菜はジト目でヒカリを睨む。

他人事ひとごとみたいに言ってるけど、そういうそっちはどうなのよ?」

「ええっ!? やっ、やだなあ、ボクの事なんてどうでもいいじゃないか」

 ヒカリは目を丸くし、露骨に戸惑っている。

 この愛すべき?同僚は、他人の恋は好き勝手気まま、情け容赦なくいじるくせに、自分の事はたなに上げるのだ。

 その棚の総面積は驚愕に値するが、雪菜はそこに逃げ込む隙を与えなかった。

「どうでも良くはないわよヒカリ。人の色恋の時は鬼コーチだったんだから、今度はこっちも負けずに行くわよ?」

「もちろん私も行くわけだけども」

 天草も頷き、2人でヒカリを挟み込む。

 ヒカリはたちまち弱気になって、叱られた子犬みたいに大人しくなった。

「いっ、言ってなかったかい? ボ、ボクはそのっ、なかなかどうして腰抜けなんだよ……」

「……ほんと、いい歳して駄目な3人ね」

 雪菜が言うと、天草もヒカリもおかしそうに笑うのだが、そこで賑やかな足音が聞こえてきた。

 勢い良く扉が開くと、まずは女性が飛び込んでくる。

「いや~あ、メンゴメンゴ。もう忙しいなんてもんじゃないからさあ」

 ショートカットの髪で、明るい顔立ちの彼女は本荘ほんじょうちひろ。

 いつも大抵ふざけているが、実は優しく面倒見のいい人物であり、何度も命を助けてもらった。

「ちひろお姉さんは根が真面目だからさあ。仕事に没頭してたら、こんな時間になっちゃったのよん」

「よく言いますね、隙あらばサボってましたよ?」

 彼女の後ろから入室するのは、いかにも知的なメガネ青年・鯖江輪太郎さばえりんたろうだ。

 ちひろと幼馴染である彼は、今も昔と変わらずツッコミ役を続けている。

「やれやれ、こっちも終わったぞ。いや、遅くなって悪いな」

「集合時間に遅れたんじゃ、後輩達に怒られるわね」

 更に後に続いたのは、がっしりした巨体の船渡健児ふなとけんじ

 そしてこちらも長身の嵐山紅葉あらしやまもみじである。

 2人とも謝ってくれているが、そもそも彼らは船団長であり、他のメンバーより忙しくて当然なのだ。

 本来ならこの場に来られるだけで奇跡であり、恐らく優しい部下達が、2人を気遣って行かせてくれたのだろう。その薬指の指輪が示す通り、この2人は新婚さんでもあるからだ。

「うわっ、俺が最後かよっ。すまんみんな」

 そう言いつつ入ってきたのは、頭に赤いバンダナを被った青年だった。

 名は赤穂士あこうつかさといい、彼の姿が見えた途端、ヒカリはびくんとなって固まった。

 そこで雪菜と天草が背をつついた。

「……ほらヒカリっ、さっきの威勢はどうしたのよ」

 雪菜が小声で催促すると、ヒカリは困りながらつかさに言った。

「つ、つかさくんっ、チミは一体何をやってるんだ? 最近たるんどるよ」

「いや、お前に言われたくないんだよっ」

 つかさはツッコミを入れるが、雪菜と天草は苦笑いした。

(……ほんと駄目ねヒカリは)

 雪菜は自らを棚に上げながら思ったが、これでようやく神武勲章レジェンド隊の全員がそろったわけである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。  妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。  この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。 ※外伝 ・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです  https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298 ※当作品は完全なフィクションです。  登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。  事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。  当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...