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第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編
なぜ鳳天音は反逆したか3
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そして天音は子を宿した。まだ19歳だったから、全神連の皆も驚いたものだ。
「天音ちゃん、あんたやるもんだねえ」
そう笑いながらも、先輩方は祝福してくれた。
……本来なら、全神連の結婚相手は厳しい審査を乗り越えねばならない。任務の重大さが故である。
まして天音は、次代の神人とまで期待されていたから、その審査も並々ならぬ厳しさだったはずだ。
それでも許可してくれたのは、きっとみんな心配してくれていたのだ。
張り詰めて折れそうだった自分が、初めて掴んだ幸せを、皆で応援してくれたのだ。
やがて子が生まれ、夫も妹も、飛び上がって喜んだ。
幼くしておばさんにしてしまった妹は、そんな事など気にもとめず、いつも我が子をあやしてくれた。
赤子が泣く分以外には、何の涙も無い家庭である。
(色々あったけど、生まれてきて良かった……!)
天音は心からそう思った。まさに幸せの絶頂だったのだ。
……だが娘が1歳を迎えぬうちに、その日々は終わりを告げる。
家族で外出していた天音は、空を見上げて顔をしかめた。
「これは……!?」
強い呪いが日本全土を包み、邪気が噴出しているのが分かったのだ。
間違いなく魔族の仕業であろう。
(あの邪気の量……恐ろしく強い何かが蘇ろうとしている!? だとすれば、ここもすぐ地獄になるはず……!)
間もなく押し寄せた餓霊の軍勢は、天音の予想を遥かに超えていた。
数もそのサイズも、生身の能力者がどうこう出来るレベルではなかったのだ。
強い術で攻撃すれば崩れるが、敵は次々攻め寄せてくる。
逃げる途中で夫は負傷し、もうどうにもこうにもならなくなった。
……その時、被災者達が言ったのだ。
『自分達が背負っていってやる』
『自分達が守るから、あんたは化け物を食い止めてくれ』と。
天音は頷いた。
逃げ惑う被災者や、家族を守りながらでは限界がある。
だったら夫と娘を逃がし、自分が時間を稼いだ方がいい……!
………………そこから先は、もう何が何だか覚えていない。
商店街を突き破って押し寄せる化け物を、光の太刀で切り刻み、呪詛の炎で焼き尽くした。
長い長い苦悩の末に、ようやく手にした幸せだ。
この幸せだけは、何が何でも失うわけにいかなかったのだ。
…………やがて命の全てを搾り出すような戦いの果てに、天音はその場の餓霊を殲滅した。
生身でそう出来る事自体が奇跡だったが、それでも何とかやり遂げたのだ。
天音はふらふらと街を歩いた。
あちこちに化け物どもの爪跡が残り、砕かれた建物が行く手を阻む。
足を踏み出す度に傷が痛むし、白かったワンピースから血が滴り、ともすれば意識が遠退きそうだった。
それでも歩いた。ただ大切な娘と、愛しい夫に会うためにだ。
夫と娘の衣服には、天音の霊気を宿したブローチを付けていたから、どこにいても合流出来るはずだった。
やがて天音は辿り着いた。
建物の影で身を潜めていた人々は、天音を見るなり驚いた。
「あっ、あんたか……! 生きてたのか……!」
やけに動揺しているのが気になったが、天音は構わず彼らに尋ねた。
「2人は、2人はどこに……!?」
「……あ、ああ……今案内する。こっちだ」
彼らは天音を案内した。
(2人のブローチとは……違う方向だけど)
それでも天音は付いて行った。
何か事情があったのかも知れない。夫に倣ってそう考える事にした。
(そうね……血で汚れて、着替えをしたかも知れないもの……)
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そして激しい衝撃が走った。
一瞬、目の前が白く光って、気付いたら地面が壁になっていた。
後頭部を殴られたのだ、と気付くまでにかなりの時間を要した。
天音は激しく痙攣し、やがて意識を失ったのだ。
「天音ちゃん、あんたやるもんだねえ」
そう笑いながらも、先輩方は祝福してくれた。
……本来なら、全神連の結婚相手は厳しい審査を乗り越えねばならない。任務の重大さが故である。
まして天音は、次代の神人とまで期待されていたから、その審査も並々ならぬ厳しさだったはずだ。
それでも許可してくれたのは、きっとみんな心配してくれていたのだ。
張り詰めて折れそうだった自分が、初めて掴んだ幸せを、皆で応援してくれたのだ。
やがて子が生まれ、夫も妹も、飛び上がって喜んだ。
幼くしておばさんにしてしまった妹は、そんな事など気にもとめず、いつも我が子をあやしてくれた。
赤子が泣く分以外には、何の涙も無い家庭である。
(色々あったけど、生まれてきて良かった……!)
天音は心からそう思った。まさに幸せの絶頂だったのだ。
……だが娘が1歳を迎えぬうちに、その日々は終わりを告げる。
家族で外出していた天音は、空を見上げて顔をしかめた。
「これは……!?」
強い呪いが日本全土を包み、邪気が噴出しているのが分かったのだ。
間違いなく魔族の仕業であろう。
(あの邪気の量……恐ろしく強い何かが蘇ろうとしている!? だとすれば、ここもすぐ地獄になるはず……!)
間もなく押し寄せた餓霊の軍勢は、天音の予想を遥かに超えていた。
数もそのサイズも、生身の能力者がどうこう出来るレベルではなかったのだ。
強い術で攻撃すれば崩れるが、敵は次々攻め寄せてくる。
逃げる途中で夫は負傷し、もうどうにもこうにもならなくなった。
……その時、被災者達が言ったのだ。
『自分達が背負っていってやる』
『自分達が守るから、あんたは化け物を食い止めてくれ』と。
天音は頷いた。
逃げ惑う被災者や、家族を守りながらでは限界がある。
だったら夫と娘を逃がし、自分が時間を稼いだ方がいい……!
………………そこから先は、もう何が何だか覚えていない。
商店街を突き破って押し寄せる化け物を、光の太刀で切り刻み、呪詛の炎で焼き尽くした。
長い長い苦悩の末に、ようやく手にした幸せだ。
この幸せだけは、何が何でも失うわけにいかなかったのだ。
…………やがて命の全てを搾り出すような戦いの果てに、天音はその場の餓霊を殲滅した。
生身でそう出来る事自体が奇跡だったが、それでも何とかやり遂げたのだ。
天音はふらふらと街を歩いた。
あちこちに化け物どもの爪跡が残り、砕かれた建物が行く手を阻む。
足を踏み出す度に傷が痛むし、白かったワンピースから血が滴り、ともすれば意識が遠退きそうだった。
それでも歩いた。ただ大切な娘と、愛しい夫に会うためにだ。
夫と娘の衣服には、天音の霊気を宿したブローチを付けていたから、どこにいても合流出来るはずだった。
やがて天音は辿り着いた。
建物の影で身を潜めていた人々は、天音を見るなり驚いた。
「あっ、あんたか……! 生きてたのか……!」
やけに動揺しているのが気になったが、天音は構わず彼らに尋ねた。
「2人は、2人はどこに……!?」
「……あ、ああ……今案内する。こっちだ」
彼らは天音を案内した。
(2人のブローチとは……違う方向だけど)
それでも天音は付いて行った。
何か事情があったのかも知れない。夫に倣ってそう考える事にした。
(そうね……血で汚れて、着替えをしたかも知れないもの……)
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そして激しい衝撃が走った。
一瞬、目の前が白く光って、気付いたら地面が壁になっていた。
後頭部を殴られたのだ、と気付くまでにかなりの時間を要した。
天音は激しく痙攣し、やがて意識を失ったのだ。
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