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第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編
こんなとこ居たくないよ…!
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室内に戻ると、部下の1人は座り込んで震え始めた。
「違う……あいつ欲しいなんて言ってねえよ。いきなり絡まれて、どの加護がいるか言えって言われて。いらねえっつったら、贈り物を断るのかってキレてよ。それでしゃーなしで選んだら、あんな事になって……!」
その場にいた彼は、相当の恐怖を味わったのだろう。目に涙を浮かべながらそう語った。
「変な光の玉みたいなの渡されて……そしたら血反吐はいて倒れちまって。俺ももう、何が何だか分からねえよ……!」
彼はそこで項垂れ、膝を抱えて黙り込んでしまった。
部下達は口々に騒ぎ始めた。
「なあ、なんかやばくねえか? あいつら頭おかしいぜ」
「その前もタカを切り刻んで殺してたし、大勢でその血ぃ飲んでたんだぜ?」
「こんなはずじゃなかったんだよ。何でこんな事になっちまったんだ?」
部下達の言葉は、そのままマキナが思っていた事だ。
人の世界が大嫌いで、何もかも壊れてしまえばいいと思った。
そうなれば面白い。そうなればスッキリすると思っていた。
……でもそれは間違っていた。自分は今まで、法や倫理で幾重にも守られた安全地帯で、無邪気に反抗していただけだった。
あの城で出会った長身の女……確か夜祖が岩凪姫という女神だと言っていたが、今になって彼女の言葉が思い出された。
『貴様の知る薄ら甘い地獄など、本当の闇は軽々と超えて来る。地の底で封じられているあ奴らが、この世に這い出たら何をするか。それを知ったら、お前は尻尾を巻いて逃げ帰るだろう』
「…………っ!」
マキナは爪を噛みながら、女神の言葉を反芻した。
あれは嘘やハッタリでは無かったのだ。
当時はあの女神が恐ろしく思えた。
勿論強さで言えば、それで間違い無かっただろう。直感を信じるなら、さっきの邪神どもより圧倒的に強い。
だがあの女神は叱っていたのであって、こちらを殺すつもりは無かったのだ。
人の命を玩具のように奪い取る邪神達とは、根本的に違う存在だったのだ。
だがその事に気付いたとて、今更どうする事も出来ない。
出来るとしたら逃げる事ぐらいか?
マキナは振り返り、部屋の奥の不是を見やった。
「ね、ねえ、やばいよあんた。こんなとこ居たくないよ……!」
「そうですよ不是さん。ずらかった方がいいんじゃないですかね」
部下達も不是に駆け寄り、口々に嘆願した。
「……うるせえよ。今更怖気づいたのか?」
壁際に座した不是は、そう言ってこちらを睨む。
邪神どもの暴挙に対し、微塵も恐怖を感じていない鈍感さ。
それは普段なら頼もしかったが、今は厄介でしかないのである。
「い、いや、あんたが強いのは分かってるよ。けどあいつらケタが違うじゃん」
「ですよ不是さん、相手は邪神なんだから……」
だが次の瞬間、不是の怒声が一同の耳を叩いた。
「うるせえっつってんだろうがっ!!!!!」
まるで巨獣の咆哮であり、マキナも部下達も後ずさった。
やがて不是は静かに言う。
「外見ろや、今更どこに逃げるってんだ。バケモンどもが這いずり回って、何でもかんでも喰い殺すんだぜ?」
「そ、それは……そうだけどさ……」
戸惑うマキナ達に、不是はなおも言い放つ。
「ここが一番安全なんだよ。ここにいれば、必ずあいつも来るだろうしな……!」
不是の顔は嗜虐の喜びに歪んでいた。
その表情は人間離れしていて、マキナは背筋が寒くなるのを感じた。
以前目にした、爪繰とかいう魔族が見せた笑みとそっくりだったからだ。
「違う……あいつ欲しいなんて言ってねえよ。いきなり絡まれて、どの加護がいるか言えって言われて。いらねえっつったら、贈り物を断るのかってキレてよ。それでしゃーなしで選んだら、あんな事になって……!」
その場にいた彼は、相当の恐怖を味わったのだろう。目に涙を浮かべながらそう語った。
「変な光の玉みたいなの渡されて……そしたら血反吐はいて倒れちまって。俺ももう、何が何だか分からねえよ……!」
彼はそこで項垂れ、膝を抱えて黙り込んでしまった。
部下達は口々に騒ぎ始めた。
「なあ、なんかやばくねえか? あいつら頭おかしいぜ」
「その前もタカを切り刻んで殺してたし、大勢でその血ぃ飲んでたんだぜ?」
「こんなはずじゃなかったんだよ。何でこんな事になっちまったんだ?」
部下達の言葉は、そのままマキナが思っていた事だ。
人の世界が大嫌いで、何もかも壊れてしまえばいいと思った。
そうなれば面白い。そうなればスッキリすると思っていた。
……でもそれは間違っていた。自分は今まで、法や倫理で幾重にも守られた安全地帯で、無邪気に反抗していただけだった。
あの城で出会った長身の女……確か夜祖が岩凪姫という女神だと言っていたが、今になって彼女の言葉が思い出された。
『貴様の知る薄ら甘い地獄など、本当の闇は軽々と超えて来る。地の底で封じられているあ奴らが、この世に這い出たら何をするか。それを知ったら、お前は尻尾を巻いて逃げ帰るだろう』
「…………っ!」
マキナは爪を噛みながら、女神の言葉を反芻した。
あれは嘘やハッタリでは無かったのだ。
当時はあの女神が恐ろしく思えた。
勿論強さで言えば、それで間違い無かっただろう。直感を信じるなら、さっきの邪神どもより圧倒的に強い。
だがあの女神は叱っていたのであって、こちらを殺すつもりは無かったのだ。
人の命を玩具のように奪い取る邪神達とは、根本的に違う存在だったのだ。
だがその事に気付いたとて、今更どうする事も出来ない。
出来るとしたら逃げる事ぐらいか?
マキナは振り返り、部屋の奥の不是を見やった。
「ね、ねえ、やばいよあんた。こんなとこ居たくないよ……!」
「そうですよ不是さん。ずらかった方がいいんじゃないですかね」
部下達も不是に駆け寄り、口々に嘆願した。
「……うるせえよ。今更怖気づいたのか?」
壁際に座した不是は、そう言ってこちらを睨む。
邪神どもの暴挙に対し、微塵も恐怖を感じていない鈍感さ。
それは普段なら頼もしかったが、今は厄介でしかないのである。
「い、いや、あんたが強いのは分かってるよ。けどあいつらケタが違うじゃん」
「ですよ不是さん、相手は邪神なんだから……」
だが次の瞬間、不是の怒声が一同の耳を叩いた。
「うるせえっつってんだろうがっ!!!!!」
まるで巨獣の咆哮であり、マキナも部下達も後ずさった。
やがて不是は静かに言う。
「外見ろや、今更どこに逃げるってんだ。バケモンどもが這いずり回って、何でもかんでも喰い殺すんだぜ?」
「そ、それは……そうだけどさ……」
戸惑うマキナ達に、不是はなおも言い放つ。
「ここが一番安全なんだよ。ここにいれば、必ずあいつも来るだろうしな……!」
不是の顔は嗜虐の喜びに歪んでいた。
その表情は人間離れしていて、マキナは背筋が寒くなるのを感じた。
以前目にした、爪繰とかいう魔族が見せた笑みとそっくりだったからだ。
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