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第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編

遊び半分に殺される

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 一方その頃、動揺していたのは魔族だけでは無かった。

 同じく館にいた生身の人間……不是ふぜとともに邪神に身を寄せたパイロット達も同じだったのだ。

「……っ!」

 幾度となく地響きが起こる度、マキナは身を震わせた。

 この岩の館に案内されたはいいが、そこから先が地獄だった。

 邪神どもは我が物顔で暴れまわり、その度にマキナ達は、か弱い小動物のように息をひそめて耐えるのである。

 自慢の巻き髪も、今は形崩れして草臥くたびれていたが、とても手入れする気になれなかった。

 耐え難い緊張の中、ふと部下の1人が呟く。

「なんかよぉ……その、思ってたのと違うよな」

 それを皮切りに、次々皆の不満が噴き出してくる。

「確かに……これじゃ生きた心地しねえよ」

「これから一体どうなるんだよ」

 勿論不安はマキナも同じである。

 自分たち特務隊のパイロットは、今まで狩る側の存在だった。

 パイロットとしての才に恵まれ、誰よりも強かった。

 後ろ盾パトロンの政治家を手に入れ、彼の政敵を殺す代わりに、あらゆる悪事の免罪符を手に入れた。

 気に入らない人間を蹴散らし、思いつく限りの暴虐を尽くした。

 幼い頃、まだ弱かったが故に『されてきた悪事』を、利子を付けて世に返したのだ。

 一度は捕われ、死刑を宣告されたものの、自分達を裁こうとした政府は敗走した。

 これでもう、恐れる物は何も無い。楽しく遊び呆けるつもりだった。

 何一つ縛る物の無い楽園で、好き勝手出来ると思っていたのだ。

 …………しかしこの有様は何だ?

 空は一面闇に染まり、時折雷がひらめく以外は真っ暗である。

 大地に生き物の気配は無く、不気味な邪霊が恐ろしげな声を上げて飛び交っているだけだ。

 こんな陰気臭い世界になって、一体何を遊べばいいのだ。

 館には化け物みたいな邪神が闊歩かっぽし、自分達はいてもいなくても同じような扱いを受けている。

(こんなはずじゃなかった。この後一体どうなるのよ?)

(ほんとにこの新しい世界とやらに、あたし達が生きる余地はあるの……?)

 抑えても抑えても、そんな不安が湧き上がってくる。

 ……だがそこで、部下の1人が血相を変えて駆け込んで来た。

「や、やばいっ、トミがやられたっ!!!」



 駆けつけたマキナ達が見たのは、既に絶命した部下の姿だった。

 通路にうつ伏せに倒れ、全身の皮膚は青紫に染まっている。

 やがて黒い蒸気が立ち昇ると、彼の体はどろどろと溶け崩れていったのだ。

「おお残念、潰れてしもうた!」

「そなたの力加減が足りぬのじゃ!」

「次は負けぬぞ、我からじゃ!」

 居並ぶ数人の邪神達は、その様を眺めながら大声で笑っている。

「…………っ!!!」

 マキナは思わず後ずさった。

(次? 次って? また誰か殺す気なの?)

 恐ろしさで歯がカチカチと音を立てたが、それでも何とか虚勢を張った。

「なっ、何するのよ……! あたし達、夜祖ってヤツに呼ばれて来たのよ……!?」

「それがどうした、我らも神ぞ! 夜祖ごときに遅れを取るか!」

 邪神の1人がこちらを見下ろして言った。

 目はらんらんと輝き、口元は嗜虐しぎゃくの笑みを浮かべている。

「そもそもそいつが加護が欲しいと言ったのだ! だから退屈しのぎに与えたまで。その結果どうなろうと、我の知った事ではない!」

「おおそうじゃ! 虫けらども、はよ去ねい!」

 他の邪神もはやし立て、一歩前に踏み出した。

 彼らが足を動かすと、巨獣が歩いたかのような振動が辺りに響いた。

「くっ……!!!」

 マキナはさすがに命の危機を感じ、2歩、3歩と後ずさる。

「あ、あんた達、戻るよっ……!」

 逃げるように立ち去るマキナ達に、邪神がどっとあざ笑う声が聞こえた。
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