上 下
60 / 160
第六章その8 ~こんなはずじゃなかった~ 離反者たちの後悔編

遊び半分に殺される

しおりを挟む
 一方その頃、動揺していたのは魔族だけでは無かった。

 同じく館にいた生身の人間……不是ふぜとともに邪神に身を寄せたパイロット達も同じだったのだ。

「……っ!」

 幾度となく地響きが起こる度、マキナは身を震わせた。

 この岩の館に案内されたはいいが、そこから先が地獄だった。

 邪神どもは我が物顔で暴れまわり、その度にマキナ達は、か弱い小動物のように息をひそめて耐えるのである。

 自慢の巻き髪も、今は形崩れして草臥くたびれていたが、とても手入れする気になれなかった。

 耐え難い緊張の中、ふと部下の1人が呟く。

「なんかよぉ……その、思ってたのと違うよな」

 それを皮切りに、次々皆の不満が噴き出してくる。

「確かに……これじゃ生きた心地しねえよ」

「これから一体どうなるんだよ」

 勿論不安はマキナも同じである。

 自分たち特務隊のパイロットは、今まで狩る側の存在だった。

 パイロットとしての才に恵まれ、誰よりも強かった。

 後ろ盾パトロンの政治家を手に入れ、彼の政敵を殺す代わりに、あらゆる悪事の免罪符を手に入れた。

 気に入らない人間を蹴散らし、思いつく限りの暴虐を尽くした。

 幼い頃、まだ弱かったが故に『されてきた悪事』を、利子を付けて世に返したのだ。

 一度は捕われ、死刑を宣告されたものの、自分達を裁こうとした政府は敗走した。

 これでもう、恐れる物は何も無い。楽しく遊び呆けるつもりだった。

 何一つ縛る物の無い楽園で、好き勝手出来ると思っていたのだ。

 …………しかしこの有様は何だ?

 空は一面闇に染まり、時折雷がひらめく以外は真っ暗である。

 大地に生き物の気配は無く、不気味な邪霊が恐ろしげな声を上げて飛び交っているだけだ。

 こんな陰気臭い世界になって、一体何を遊べばいいのだ。

 館には化け物みたいな邪神が闊歩かっぽし、自分達はいてもいなくても同じような扱いを受けている。

(こんなはずじゃなかった。この後一体どうなるのよ?)

(ほんとにこの新しい世界とやらに、あたし達が生きる余地はあるの……?)

 抑えても抑えても、そんな不安が湧き上がってくる。

 ……だがそこで、部下の1人が血相を変えて駆け込んで来た。

「や、やばいっ、トミがやられたっ!!!」



 駆けつけたマキナ達が見たのは、既に絶命した部下の姿だった。

 通路にうつ伏せに倒れ、全身の皮膚は青紫に染まっている。

 やがて黒い蒸気が立ち昇ると、彼の体はどろどろと溶け崩れていったのだ。

「おお残念、潰れてしもうた!」

「そなたの力加減が足りぬのじゃ!」

「次は負けぬぞ、我からじゃ!」

 居並ぶ数人の邪神達は、その様を眺めながら大声で笑っている。

「…………っ!!!」

 マキナは思わず後ずさった。

(次? 次って? また誰か殺す気なの?)

 恐ろしさで歯がカチカチと音を立てたが、それでも何とか虚勢を張った。

「なっ、何するのよ……! あたし達、夜祖ってヤツに呼ばれて来たのよ……!?」

「それがどうした、我らも神ぞ! 夜祖ごときに遅れを取るか!」

 邪神の1人がこちらを見下ろして言った。

 目はらんらんと輝き、口元は嗜虐しぎゃくの笑みを浮かべている。

「そもそもそいつが加護が欲しいと言ったのだ! だから退屈しのぎに与えたまで。その結果どうなろうと、我の知った事ではない!」

「おおそうじゃ! 虫けらども、はよ去ねい!」

 他の邪神もはやし立て、一歩前に踏み出した。

 彼らが足を動かすと、巨獣が歩いたかのような振動が辺りに響いた。

「くっ……!!!」

 マキナはさすがに命の危機を感じ、2歩、3歩と後ずさる。

「あ、あんた達、戻るよっ……!」

 逃げるように立ち去るマキナ達に、邪神がどっとあざ笑う声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【2章完結】これは暴走愛あふれる王子が私を呪縛から解き放つ幸せな結婚でした。~王子妃は副業で多忙につき夫の分かりやすい溺愛に気付かない~

松ノ木るな
恋愛
スコル侯爵家の長女、ユニヴェールは夜空のごとし群青色の髪を持って生まれた。 それはその地に暮らす人々にとって、厄災に見舞われる呪いの髪色。家ごと蔑まれることを恐れた家族に、彼女は3つの頃から隠されて育つ。 ろくに淑女教育を受けず、社交経験もなく、笑顔が作れない、28歳ユニヴェール。 日陰者の運命を受け入れ慎ましく過ごしていたというのに、ここにきて突然、隣国へ嫁ぐよう言い渡される。 長年断交状態であった隣国と、和平への道が開かれたばかりの昨今。友好の証にあちらの第三王子の元へ……、つまり人質の役目を押し付けられた形だ。 信頼を寄せる執事とメイドを連れ、その地に踏み入れた彼女。 あれよあれよという間に新婚初夜、夫となった人は言う。 『君だけを、世界の終わるその瞬間まで、愛すると誓おう──』 ではなくて、こっちでした。 『君を言語教師に任命する!』 ……赤い花びらの散るベッドで甘い香りに包まれながら、 これは リクルートですか?? ※ 登場人物がふたつの国の言語を話すので   主人公の国の言葉は 「このカッコ」   ヒーローの国の言葉は 『このカッコ』    このように表現しております。 ✽ 正タイトルは「あなたと私を結ぶ運命の青い糸」です。✽

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...