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第六章その6 ~最後の仕上げ!~ 決戦前のドタバタ編

ディアヌスの情報工作

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 騒がしい宴を嫌って、邪神は1人歩を進めた。

 眉目秀麗びもくしゅうれい男神おとこがみである。

 長い深緑の髪を背の中ほどで結び、ゆったりした衣裳をなびかせている。

 衣には色鮮やかな模様が踊っていたが、どこまでが絵なのか定かではない。

 描かれた鳥獣は、その目や羽を動かしていたし、草木は途中から隆起して、現実に花を咲かせていたからだ。

 頭に被る烏帽子えぼしにも、腰に下げた太刀の鞘にも、同様になにがしかの植物が絡み、まるで彼がまとう物全てが、新たな命を育むかのようだ。

 名を高嶺瑞山之神たかねみずやまのかみといい、神代の昔には、東北地方の山地を統べた神であった。



「…………無粋な。いつまでも騒がしい連中だ」

 歩んでも歩んでも届く笑い声に、高嶺たかねは忌々しげに顔をしかめる。

 山々の霊気から生まれた彼は、静寂の方が好みなのだ。

 しばし歩み、館の窓から外を眺める。

 かつては緑豊かだったであろうこの土地は、今はまるで死の世界だ。

 一面に黒々した岩肌が広がり、唯一の命と言えば、所々に不自然に生える桜花のみ。

 自然じねん神である高嶺たかねは、その光景を不愉快に思った。

(……早く日の本を取り戻し、大地に息吹を吹き込みたい。何としても我が鎮座地を、再び命溢れる山として繁栄させるのだ)

 そう誓う高嶺たかねだったが、そこでふと、何かの思念を感じ取った。

『……高……よ……高嶺よ……!』

 恐らく横手の暗がりの中だ。

 高嶺は少し躊躇ちゅうちょしたが、闇に足を踏み込んだ。明かりの乏しいその場所は、よく見るとかなり壁が崩れていた。

(この辺り……肥河之大神ひのかわのおおかみが暴れた場所か)

 やがて瓦礫の陰に、うっすらと光る物が見えてきた。

 手の平に収まる程の大きさで、とげのような突起も見受けられる。

 どうやらあの肥河之大神ひのかわのおおかみが残した、外皮の一部であるようだ。

肥河ひのかわか。お前は死んだと思っていたが……」

 高嶺が言うと、黒い欠片は輝きながら語りかけてくる。

『貴様を待っていた。我に力を貸せ……!』

「力を貸せだと?」

『そうだ、その代わり真実を教える。我を手に取れ』

 高嶺は右の手の平を広げた。

 黒い欠片は舞い上がり、高嶺の手に収まった。

「…………っ!!?」

 その瞬間、何かの映像が流れ込んできた。

 肥河之大神ひのかわのおおかみと、数人の邪神が対峙している様子だ。

 派手がましい女の邪神は、扇で口を隠しながら言った。

『……ほんに惨めよ。貴様の縄張りがどう処されるか、何も知らぬのであろう?』

 相手は更に言葉を続ける。

『言うた通りよ。貴様の鎮座地など、この日の本と共に消え去るのじゃ』

 他の邪神も口々にはやし立てた。

『大地は一度無に返され、新しく創造するのだ。多くの山神や自然じねん神は、帰る場所すら失うであろう』

 山河の神にとって、これ以上の怒りは無い。

 怒り狂った肥河は、眼前の邪神達を叩き伏せた。

 散々に暴れ回った挙句、火之群山大神ひのむらやまのおおかみや武神達によって撃退されたのだ。



 高嶺は言葉を失っていた。

 火之群山大神ひのむらやまのおおかみは、邪神の中でも山神の総大将のような存在。

 当然、高嶺の上役にあたる神だったが、彼は映像の中でこう言ったのだ。

『……知っている。砕き作り替えるのは我である』

(砕く? 作り替えるだと?)

(知っていた? 知ってて黙っていたというのか?)

(この日の本を砕くというなら、我が鎮座地はどうなるのだ!)

 幾多の思考が入り乱れ、高嶺は混乱していたが、混乱は次第に激しい怒りにとって替わった。

「…………っっ!!!」

 高嶺は無言で黒い欠片を握り締めた。

 烏帽子のつるが音を立てて伸び、手が怒りで痙攣けいれんしている。

「おのれ……我をたばかったのかっ……!」

 肥河の欠片は、そんな高嶺に語りかける。

『理解したか、我がなぜ離反したかを。同じ山河の神たる貴様なら、我の怒りが分かるであろう』

 欠片はなおもこう言ったのだ。

『ならばやる事は1つ……我に手を貸し、あの阿呆どもから貴様の山を取り戻すのだ……!』
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