上 下
45 / 160
第六章その5 ~恐怖の助っ人!?~ ディアヌスとの再会編

サクちゃんはイタズラッコ

しおりを挟む
「よし、どんどん道が開けてきたぞ!」

 誠はホワイトボードの②、つまり結界に関する項目を消したが、そこで船団長の佐々木が言った。

「い、いやあ、素晴らしいですな。実に全く素晴らしい! その作戦を成功させるためにも、決戦地まで戦力を送り届けねばなりません」

 佐々木は喋りながらそろそろと立ち上がっていく。

「それは我々に任せていただきたい! 船の手配もいたしますし、どのルートを通れば妨害無くたどり付けるか、こちらでしっかり調べますので。それではまた」

 佐々木はそそくさとその場を後にしようとした。他の船団長も同様であり、よほどディアヌスが怖いようだ。

 だがそこで、ディアヌスが声を上げた。

「…………おい」

「ひっ!?」

 佐々木は全身から汗を流して固まった。

 てっきり怒られると思ったのだろうが、ディアヌスは腕組みして言葉を続けた。

「貴様らではない。そこな女神に言ったのだ」

「そうね、今戻ったわ」

 不意に聞き慣れた声がしたため、誠達は振り返った。

 そこに佐久夜姫が立っていたのだ。

 佐久夜姫はウインクしながら『イエイ』とピースサインを出している。

「………………」

 一瞬、皆が無言だったが、次の瞬間。

『う、うわああああああっっっ!!!』

 一同が絶叫し、ディアヌスが咆えた。

「やかましいわ貴様らっっっ!!!」

 再び静まり返った所で、佐久夜姫は楽しげに言った。

「ふふふ、みんないいリアクションね」

「い、いやいや、いやいやいやいや……消えたんじゃなかったんですか……!?」

「消えてないわよ、疲れて動けなくなってただけ」

 誠の問いに、佐久夜姫はイタズラっぽく答える。

「でも私、あの近くの……富士のお山が鎮座地でしょ? あの上までは邪気も来てなかったから、そこの霊気で充電してたわけ」

「こ、こんな短期間で治るんですか?」

「魔法傷を受けたわけじゃないもの」

 佐久夜姫は人差し指を立て、得意げに左右に振って見せた。

「神は霊体だし、魂の核さえ残ってればいいの。あとは霊気を補給すればよし。軸となる魂が砕けてたら……そうはいかないんだけどね」

 最後の言葉は、恐らく岩凪姫の事を言っているのだろう。

 それは悲しい事実だったが、それでも神使達は大喜びで佐久夜姫を取り囲み、肩に乗ったキツネや牛が、紙吹雪を振りまいている。

 鶴も少し目に涙を浮かべながら言った。

「まったく、ほんとにサクちゃんときたら、とんでもないイタズラッコだわ。私も負けてられないわね」

「いやいや、君は度が過ぎるんだよ」

 ラッコの着ぐるみ姿で言う鶴に、コマは慌ててツッコミを入れるが、2人ともとても嬉しそうだった。

 ひとしきり再会を喜んだところで、佐久夜姫は皆に言った。

「移動に関しては、私が何としても皆を送るわ。お姉ちゃんが残した、この転移の腕輪でね」

 佐久夜姫はそこで輝く腕輪を取り出すが、ディアヌスが口を挟む。

「転移の腕輪……天鳥船神アメノトリフネが作ったものか。見たところ、まるで霊気が空ではないか」

「それは心配ご無用よ」

 佐久夜姫はそう言うと、パチリと指を弾く。たちまち光が輝いて、虚空に日本列島が映し出された。

 誠達がそれを見ると、東北から旧長野県の辺りまで繋がる山地が、うっすらと光を帯びているのが分かった。

「日本の屋台骨となる山地のエネルギーと、この転移の神器を合わせれば、空間転移の大魔法が使えるわ。かなり大地の力を枯れさせるし、結界の中までは行けないけどね」

「禁術か。今度こそ貴様も危ういかもしれんぞ?」

 ディアヌスが言うと、佐久夜姫はディアヌスを睨んだ。

「だからどうだと言うのかしら? 国家総鎮守こっかそうちんじゅが神たる大山積おおやまつみの娘であり、偉大な姉を持つ私が、怖気づいてなどいられないわ。例えあなたが相手でもね?」

 佐久夜姫は語気に力を込めながら、念押しするように言う。

「はっきり言っておくわ。今は共闘してるようだけど、もしこの子達に危害を加えるなら、容赦しないつもりだから」

「……………………」

 ディアヌスは無言で佐久夜姫を睨む。

 見守る一同は、そのぴりついた雰囲気に震えていたが、やがてディアヌスが口を開いた。

「……ふん。姉妹そろって面白い連中だ」

 ディアヌスは足を組み直し、やや口元を歪めて笑みを浮かべた。

「貴様と闘るのも楽しみだが、生憎今は同盟中だ。その気勢に免じて、我も少しは動いてやろう」

「う、動く……ですか?」

 少し安堵した誠達に、ディアヌスは牙をむき出して言った。

「そうだ。細かいからめ手は好かんが、あのくずどもが相手なら別だ。我をたばかった事、たっぷり後悔させてくれる……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

合言葉(あいことば)は愛の言葉

転生新語
キャラ文芸
 高校一年生の私は、学校の制服姿で囚われていた。誘拐犯と室内にいて、そこに憧れの先輩である、倉餅万里愛(くらもち まりあ)さまが入室してきた……  カクヨムに投稿しています→https://kakuyomu.jp/works/16818093092917531016  また小説家になろうにも投稿しました→https://ncode.syosetu.com/n6577ka/

限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。  妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。  この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。 ※外伝 ・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです  https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298 ※当作品は完全なフィクションです。  登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。  事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。  当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。

ハミット 不死身の仙人

マーク・キシロ
SF
どこかの辺境地に不死身の仙人が住んでいるという。 誰よりも美しく最強で、彼に会うと誰もが魅了されてしまうという仙人。 世紀末と言われた戦後の世界。 何故不死身になったのか、様々なミュータントの出現によって彼を巡る物語や壮絶な戦いが起き始める。 母親が亡くなり、ひとりになった少女は遺言を手掛かりに、その人に会いに行かねばならない。 出会い編 青春編 ハンター編 解明編 *明確な国名などはなく、近未来の擬似世界です。 *過激な表現もあるので、苦手な方はご注意下さい。

処理中です...