新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

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第六章その5 ~恐怖の助っ人!?~ ディアヌスとの再会編

河の魔王の完全復活

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「い、いやだあああっっ!!! お前伊能っ、何しやがる! この俺の最高傑作をっ、よりによって魔王にだとおっ!?」

「我慢しろ筑波っ、他に手がねえんだ」

 暴れる筑波を押さえながら、伊能はディアヌスに言った。

「さ、いいぜ。やってくれ大将」

「…………ふん」

 ディアヌスは口元を歪めて笑うと、感慨深げに震天を見上げる。

「まさか……我を倒したこやつと、1つになる日が来るとはな」

「こ、これは一体どういう事なんですか、船団長……?」

 龍恋たつこは床につっぷして泣く筑波の背をさすりながら尋ねる。

「どうもこうもねえよ。敵さんが強すぎて、こうするより他ねえんだ」

 伊能はディアヌスの背を見つめながら答えた。

「震天の人工筋肉も……力の源たる結晶細胞も、元はと言えば祭神の体だ。んでもってその祭神達は、元々ディアヌス……つまり八岐大蛇やまたのおろちの首から生まれたもんだそうだ」

「えっ……ええっ!? 八岐大蛇? ディアヌスがですか?」

 龍恋たつこはかなり戸惑っているが、伊能は構わず話を続けた。

「1つの首だけであれだけ強いやっこさんがだ。元の力を取り戻すと……どうなると思う?」

 やがてディアヌスは片手を上げた。

 震天にかざすように向けた手の平……それに呼応するように、震天の胸に強い光が満ちた。

 青、赤、白、緑、桃色、黄金色、紫。それぞれ祭神達の体と同じ色彩だ。

 彼らの力を結集し、抽出した結晶細胞が、そこに宿っているのである。

 やがて震天の足元に魔法陣が現れ、巨大な鎧は、ゆっくりと沈み込みながら消えていく。

 結晶細胞だけでなく、全身の人工筋肉に至る全てを、ディアヌスに捧げるためだった。

 神代の昔、須佐之男スサノオによって切り落とされた7つの首。分割され、弱まった八岐大蛇の力。

 そして今のディアヌスが、失った力を取り込めばどうなるのか?

 …………こうなるのである。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 激しい光が暴れ周り、地響きが足元を揺さぶった。

 強烈な落雷があったかのように、幾度も轟音が響き渡っている。

 やがて誠達は目を開けた。

 …………そこにディアヌスは立っていた。

 長い黒髪。目元や頬に施した戦化粧。

 頭部の角はそのままに、けれどその身は鎧ではなく衣をまとっていた。

 白を基調とした衣裳は、末端に近づくにつれカラフルに彩られ、光を放って輝いている。

 幾多の勾玉を連ねた首飾りをかけ、全身から発する波動は、先ほどまでとは比べ物にならない力を宿していたのだ。

「ふ、ふははっ、ふはははははははっ!!! 戻ってきた、帰ってきたぞ、我が力が!!!」

 ディアヌスが高笑いする度に、稲妻が彼女の体を駆け巡っている。

 しかしその気配は、決して禍々しいわけではなかった。

 激しく強い、安易に近寄ってはならない神の禁忌きんき……そうした威圧感に加え、どこか清浄なものも感じられたのだ。

 あたかも山深い見知らぬ土地で、偶然にも荘厳な社に出くわしたような感覚だった。

(……そうか、元は神様なんだ……)

 誠はそう納得した。

 彼女は山河の霊気から生まれた神であり、本来は善でも悪でもないのである。荒れ狂い人を飲む事もあるが、また恵みももたらす存在なのだ。

 そしてディアヌスを斬った神器の太刀は、女神・岩凪姫から授かったもの。

『物質や魔物は切れるが、逆に善なる者は切れない』

 あの日女神が言った通りだったし、だからこそディアヌスを斬り伏せても、完全には消滅させなかったのだ。

「……い、いやすげえな大将。それほど元気になるたあ……驚いた」

 船団長の伊能が、ずれたボルサリーノ帽を手で直しながら言うと、ディアヌスは上機嫌で答えた。

「驚いただと? まだ終わりではないであろう」

 ディアヌスは片手を胸の前に上げ、強く拳を握り締める。

 次の瞬間、整備中の全ての人型重機から、青い稲妻が立ち昇った。

 ……いや、機体だけではない。

 武器となる火砲も、装備されていた強化刀も…………更には付近の車両までもが、同様の輝きを放っていたのだ。

「そ、そうかっ……属性添加機の、結晶細胞かっ……!」

 いつの間にか起き上がっていた筑波が、呆然と呟いた。

「結晶細胞……?」

 パイロットの龍恋たつこが繰り返すと、筑波は頷いて額の汗をぬぐった。

「あ、ああそうだ、龍恋たつこいくん。祭神の細胞を使ってるのは、機体の人工筋肉だけじゃない。全ての属性添加機には、純度の差はあれ、細胞を圧縮した結晶が入ってる。それに特殊な電気信号を与えて、各種の属性効果を生み出してるんだが……」

「……って事はあれね!」

 鶴は頷いてコマに尋ねる。

「どういうことかしらコマ」

 コマはずっこけてひっくり返ったが、誠が代わって答えた。

「強くなるんだよ。人型重機だけじゃない、銃も刀も何もかも。元となるディアヌスが復活したから、属性添加機を使った技術体系そのものが、とんでもなくパワーアップしたって事だ」

 だがそこで、鳳が口を挟んだ。

「い、いえ、それだけではないようです黒鷹様。逆鱗げきりんをご覧下さい」

「逆鱗を……?」

 誠は左手の甲に目をやる。

 人型重機パイロットの左手には、祭神の細胞が移植されている。

 通称『逆鱗』と呼ばれるそれは、機体とパイロットの思念をつなぐ通信端末のようなものなのだが……それが今、強い光を帯びて輝いていたのだ。

「そ、そうか! 逆鱗も祭神の細胞を培養したものだ。だからこれも……!」

 戸惑う誠を面白そうに眺めながら、ディアヌスが言った。

「その肉片は我が一部のようなもの。それを持っている以上、邪霊どもの呪いなど跳ね返してやる」

「そ、それって凄い事ですよね……!?」

 誠は興奮して呟いた。

「だったら少なくともパイロット連中は、邪霊の呪いでやられない。思いっきり戦えるんだ……!」

 一同はおおおっ、とどよめき、ディアヌスは満足げに言った。

「どうだ人間ども。貴様らの鎧全てが我が加護を受け、この肥河之大神ひのかわのおおかみの軍勢……いや分霊わけみとなった。負ける事などあるものか」

 筑波は急に元気になって、格納庫内を走り回っている。

「うおおおっ、こりゃーいい、なんちゅうパワーだ! まさに技術革命だな! 素晴らしいぞ龍恋たつこいくん、さっそくパイロット連中を呼んでくれ! この機体出力に合わせて、神経接続を調整するぞ!」

「はっはいっ! それと龍恋たつこです! ほんとにもう……元気になるとすぐふざけて」

 龍恋たつこは嬉しそうに駆け出していく。

 誠は改めて、居並ぶ人型重機を見つめた。

 筑波が銃の属性添加機の出力を上げると、今までとはケタ違いに大きい光の幾何学模様が生まれた。まるで神話の戦いを彩る、神々の武器のようだ。

 鶴は満足げに拳を握ると、元気良く言った。

「いけるわ黒鷹! それじゃ、この調子でどんどん解決しましょう!」

「よしきたヒメ子! 皆さん、場所を変えて、さっきの続きを!」

 一同はおう、と答え、ディアヌスも腕組みして満足げだ。意外と調子のいい神なのかもしれない。
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