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第六章その5 ~恐怖の助っ人!?~ ディアヌスとの再会編

よく効く胃薬、胃がラック

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「さ、それじゃ聞かせて頂戴。さらっと敵の全てについて」

 鶴は筆と帳面を取り出すと、遠慮なく魔王に言った。

 輸送機の格納庫にはテーブルが据えられ、先ほどよりメンバーが増えたが、まだ状況確認の段階なので、あまり多くが参加すると話が進まなくなる。

 そのため第5船団以外では、鶴が強引に引っ張ってきた各船団の船団長と、付き添いの秘書官のみが出席していた。

 船団長達の動揺は隠し切れず、中でも第5船団の佐々木氏は、胃の辺りを押さえて切ない顔をしていた。

 彼の胃の残量は気になったが、今は耐えてもらうしかない。

 コマは『胃がラック』と書かれた胃薬を佐々木に差し入れている。

「……ではまず拠点からだ。奴らの根城ねじろは、信濃の柱のそばにある。そこで反魂の術を使い、地の底から負け犬どもを呼び寄せているのだ。出てきた神は、館の中で遊び呆けているがな」

 ディアヌスはそう言って手の平を上に向けた。

 すると虚空に敵の拠点が映し出されていく。

 元は緑生い茂る山だったはずのその場所は、黒々とした岩の大地に変わっていた。

 そして岩を変形させて築いた館が、忽然こつぜんと現れていたのだ。

 その様はかなり幻想的だったが、守りもかなり堅牢そうで、館の周囲は幾重にも壁や砦で囲まれていた。

「砦は夜祖が築いたもので、守りに穴は見当たらぬ。あれの事だ、罠も仕込んでいるだろうし、正面から攻めれば結界に防がれる」

 ディアヌスはそこで映像を切り替えた。

 これは……あの館の中の戦いだろうか?

 ディアヌスが発した刀の闘気を、いとも容易く防いだ女。これも恐らく邪神だろう。

戸簾桐壷神とすきりつぼのかみ、他の者からは桐壷きりつぼと呼ばれている。結界を司る神で、恐らく夜祖が優先して魂を引き戻したのだ。館の周囲にかなり手広く結界を張って、近付けなくする気だろう」

「そ、その結界、本気のあなたなら壊せませんか?」

 誠の問いに、ディアヌスは答えた。

「……難しい。時をかければ可能だろうが、邪魔が入るなら無理だ。当然、千里眼が狙ってくるだろうしな」

「………………」

 誠は眩暈めまいがするのを覚えた。

 ディアヌスの攻撃でも破れない、しかも恐ろしく広い範囲の結界なんて、例え艦砲射撃をしようがどうにもならない。

 映像は次に、たむろす餓霊の軍勢を映した。

「城の守りは、餓霊どもが数千ほどか。貴様らも見ただろうが、今までより『多少』強くなっている」

『あ、あれで多少っ……!!?』

 香川や宮島が絶句したが、ディアヌスにとっての多少なので、人にとっては絶望的なレベルだろう。

「もちろん封印が開いた以上、冥界の者どももいる。貴様らの知る黄泉の軍勢や黄泉醜女ヨモツシコメだけでなく、肉体を持たぬ邪霊がな。生者が近づけば、たちまち呪い殺しに来るだろう」

「そ、それって、霊的に修行してない人だと耐えられませんか……?」

 誠がたずねると、鳳がすまなさそうに口を挟んだ。

「黒鷹様、それは無理でございます。素人が強い呪いを受ければ、心臓が止まる、精神が崩壊するなどの症状が出ます」

「ええっ……」

 もう絶望を煮締めたような気分になる誠だったが、魔王は更に付け加えた。

「もちろん館の中には、まだ厄介な邪神がいる。ほとんどは取るに足らない連中だが……まず山神どもを率いる火之群山大神ひのむらやまのおおかみ。雷神の降稲魂神くだちいなだまのかみと、刀神の真之御佩刀神つつのみはかしのかみ。鬼神族の六道王子りくどうおうじも面倒だな。例え我が万全でも、これらの相手は時間がかかる」

 誠はもう聞きたく無くなってきたが、それでも恐る恐る手を挙げる。

「……ちょ、ちょっと怖い事をお尋ねするんですけど」

「何だ」

「その万全っていうのは、どの時点の万全でしょう。俺と戦った時でしょうか。それとも長距離砲撃を受ける前? 時間を止める結界を破って、力を消耗する前? それとも永津彦命ながつひこのみことと闘って傷を負う前でしょうか」

「神代の昔、我が7つの首を落とされる前だ……!!」

 ディアヌスは忌々しげに牙をむき出した。

「貴様と闘った力を1とすれば、3から4といったところか」

 それを聞いた瞬間、佐々木は『胃よさらば』と書かれた胃薬を開封した。

 他の船団長も欲しがったので、佐々木が皆に分けてあげている。
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