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第六章その3 ~敵も大変!?~ 川の魔王の反乱編
あの女神は手ごわかった
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「……仕留め損なったか。なかなかにしぶとい」
笹鐘の予想を裏切り、夜祖大神様は殆ど表情を動かさなかった。頬杖をついたまま、わずかに口元を歪めただけだ。
笹鐘達がいるのは、巨大な砦の内部である。
黒くごつごつした堅固な壁、死角なく設置された各所の櫓。
極限まで機能性を追求した姿だったが、創り主の性質を表すように、隠しきれない造形美もまた備えている。
守りのための呪法具も、あちこちに輝く照明も、溜め息が出る程に洗練されているのだ。
「まあ仕方あるまい。高天原がよこした聖者と守り手だ。一筋縄ではいかぬだろう」
夜祖様はそこでようやく、明確に笑みと分かる程に表情を変えた。
「厄介な女神どもも始末できた。あとは如何様にでもなる」
笹鐘にとって、その物言いは不思議だった。
偉大なる夜祖様にとって、あんな女神達などとるに足らない相手のはずだし、実際こうして討ち取る事が出来ている。
無礼かとは思ったが、笹鐘は思い切って尋ねてみた。
「恐れながら夜祖大神様。あれらの女神、夜祖様が警戒される程の相手だったのでしょうか?」
「……あれは手ごわかった。特に姉がな」
夜祖様は頬杖をついたまま、片手を開いて前に差し出す。
すると例の女神・岩凪姫が戦う姿が映し出された。
闇の神人・天音と交戦した女神は、相当に弱っていたにも関わらず、接近戦ではかなりの優位に立っていた。
夜祖様はしばしその様を眺めていたが、やがて手を握って映像を消した。
「瀕死でこれだ。そもそもが大山積の娘、頑丈すぎて手に負えん。ヤツがその才を十全に発揮していれば、仕留める事は出来なかっただろう」
「……そういうものでしょうか」
笹鐘はまだ納得していなかったが、夜祖様はそこで話を戻した。
「人間どもは恐らく北に逃げるだろうが、これ以上追う必要は無い。常夜命が復活されるまで、この地を守ればそれでよい」
「仰せのままに」
笹鐘はうやうやしく頭を下げたが、そこでけたたましい歓声が耳に入った。
男女を問わず、大勢が発する笑い声、叫び声。
同時に夜祖様の顔が苛立ちに歪むのを、笹鐘は見逃さなかった。
「……阿呆どもが。乱痴気騒ぎなど、終わってからでよかろうに」
夜祖様がにらむ先……そこにあるのは、場違いを体現したかのような建物だった。
言葉で例える事すら難しいのだが……戦国の城のような巨大な館に、祭りの屋台の提灯を飾りつけ、そこにギラギラした成金風の装飾をこれでもかと足していると言えば、その混沌さが伝わるだろうか。
壁は重力を無視したように立体的に突き出て、各所に見える赤い鳥居の湯口からは、膨大な湯が滝となって流れ落ちている。
館のあちこちから桜の巨木が伸びており、今が盛りとばかりに無数の花を咲かせていた。
城の壁には絵画の類が描かれていたし、建物のちょっとした隙間にも、神々を模した彫像が飾られている。
あたかも悪趣味なテーマパークのようなごてごて感であり、それら全てが極彩色の光を帯びて、闇の中に輝いているのだ。
善神どもが保養する竜宮城に対抗したつもりなのだろう、と夜祖様はおっしゃっていたが……なるほど、保養所や遊郭の派手さを目指したのならば、納得のいく姿だった。
笹鐘の予想を裏切り、夜祖大神様は殆ど表情を動かさなかった。頬杖をついたまま、わずかに口元を歪めただけだ。
笹鐘達がいるのは、巨大な砦の内部である。
黒くごつごつした堅固な壁、死角なく設置された各所の櫓。
極限まで機能性を追求した姿だったが、創り主の性質を表すように、隠しきれない造形美もまた備えている。
守りのための呪法具も、あちこちに輝く照明も、溜め息が出る程に洗練されているのだ。
「まあ仕方あるまい。高天原がよこした聖者と守り手だ。一筋縄ではいかぬだろう」
夜祖様はそこでようやく、明確に笑みと分かる程に表情を変えた。
「厄介な女神どもも始末できた。あとは如何様にでもなる」
笹鐘にとって、その物言いは不思議だった。
偉大なる夜祖様にとって、あんな女神達などとるに足らない相手のはずだし、実際こうして討ち取る事が出来ている。
無礼かとは思ったが、笹鐘は思い切って尋ねてみた。
「恐れながら夜祖大神様。あれらの女神、夜祖様が警戒される程の相手だったのでしょうか?」
「……あれは手ごわかった。特に姉がな」
夜祖様は頬杖をついたまま、片手を開いて前に差し出す。
すると例の女神・岩凪姫が戦う姿が映し出された。
闇の神人・天音と交戦した女神は、相当に弱っていたにも関わらず、接近戦ではかなりの優位に立っていた。
夜祖様はしばしその様を眺めていたが、やがて手を握って映像を消した。
「瀕死でこれだ。そもそもが大山積の娘、頑丈すぎて手に負えん。ヤツがその才を十全に発揮していれば、仕留める事は出来なかっただろう」
「……そういうものでしょうか」
笹鐘はまだ納得していなかったが、夜祖様はそこで話を戻した。
「人間どもは恐らく北に逃げるだろうが、これ以上追う必要は無い。常夜命が復活されるまで、この地を守ればそれでよい」
「仰せのままに」
笹鐘はうやうやしく頭を下げたが、そこでけたたましい歓声が耳に入った。
男女を問わず、大勢が発する笑い声、叫び声。
同時に夜祖様の顔が苛立ちに歪むのを、笹鐘は見逃さなかった。
「……阿呆どもが。乱痴気騒ぎなど、終わってからでよかろうに」
夜祖様がにらむ先……そこにあるのは、場違いを体現したかのような建物だった。
言葉で例える事すら難しいのだが……戦国の城のような巨大な館に、祭りの屋台の提灯を飾りつけ、そこにギラギラした成金風の装飾をこれでもかと足していると言えば、その混沌さが伝わるだろうか。
壁は重力を無視したように立体的に突き出て、各所に見える赤い鳥居の湯口からは、膨大な湯が滝となって流れ落ちている。
館のあちこちから桜の巨木が伸びており、今が盛りとばかりに無数の花を咲かせていた。
城の壁には絵画の類が描かれていたし、建物のちょっとした隙間にも、神々を模した彫像が飾られている。
あたかも悪趣味なテーマパークのようなごてごて感であり、それら全てが極彩色の光を帯びて、闇の中に輝いているのだ。
善神どもが保養する竜宮城に対抗したつもりなのだろう、と夜祖様はおっしゃっていたが……なるほど、保養所や遊郭の派手さを目指したのならば、納得のいく姿だった。
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